国会は火だるま必至
菅首相“棒読み記者会見”でも問題発言
2020/10/22 日刊ゲンダイ
官僚が書いた原稿を棒読みするのに慣れ過ぎて、自分の言葉では答えられなくなったのか。
それとも、何が問題なのか全く理解していないのか。
21日、外遊先のインドネシア・ジャカルタで記者会見した菅首相。
記者から、あらためて日本学術会議の新会員候補6人の任命を拒否した理由を問われると、こう言い放ったから驚いた。
「国の予算を投じる機関として国民に理解されることが大事だ。
推薦された方々がそのまま任命されてきた前例を踏襲してよいのか考えた結果だ」
オイオイ、ちょっと待て。
最初に理由を問われた際には「総合的、俯瞰的に判断」と答えていたではないか。
それが世論批判を受けて突然、「推薦リストを見ていない」と支離滅裂な言い訳を始めたかと思いきや、今度は「国民に理解されることが大事」だから理解不能だ。
さらに、16日の日本学術会議の梶田会長との会談に触れた菅は「国民に理解されるように日本学術会議をよりよいものにしていこうと合意した」などと上から目線で開き直っていたが、一体どの口が言っているのか。
問われているのは、日本学術会議の組織体制や学者の在り方ではない。
理由も示さず、法律に反する形で任命を勝手に拒否した菅の認識、違法性だ。
自分自身のデタラメを棚に上げ、さも学術会議側に問題があるかのよう論点をすり替える。
これぞ自分の品性下劣を告白しているようなものだ。
■外遊は「外交オンチ」のイメージを変えたかっただけ
菅は会見で、日本とASEAN(東南アジア諸国連合)について、
「法の支配、開放性の基本原則の実現を目指している」と、もっともらしく訴えていたが、「法の支配」を破壊しているのは今の日本政府だろう。
日本学術会議に対して、菅が言うように「理解していないぞ」と憤慨している一般国民はほとんどいない。
むしろ、「国の予算を投じる機関として国民に理解されることが大事」と強く指摘されるべきは今の日本政府であり、菅自身だ。
そもそも、今回の外遊だって国民に理解、支持されていたのか疑わしい。
どう考えても、国会を開かず、所信表明演説をすっ飛ばしてまで強行する必然性があったとは思えないからだ。
そして何よりも新型コロナウイルスの“感染リスク”の問題だ。
当然ながら、今回の外遊では、菅以下、政府関係者や同行記者は感染防止策の徹底が求められ、ベトナム入国時には全員が新型コロナの「陰性証明書」を提出。
インドネシアの大統領宮殿での首脳会談でも、出席者は原則として事前にPCR検査を受けたというが、世界中で新型コロナの感染が拡大する中、わざわざ訪問する必要があったのか。
単に「外交オンチ」のイメージを変えたかっただけじゃないのか。
さらに言えば、インドネシアの財政支援にポンと500億円も拠出するのであれば、そのカネをなぜ、日本の新型コロナ対策に使うことを考えなかったのか。
やっていることがチグハグを通り越して意味不明だ。
政治評論家の森田実氏がこう言う。
「この1カ月間でハッキリしたことは、菅内閣は、やることなすこと全てが間違い。やはり、誤って誕生した内閣だということです。
学術会議の問題は明らかに学問の自由を保障した憲法23条違反。
この条文は戦前の学者弾圧などの反省を踏まえて規定されたものであり、任命拒否は許されるものではない。
説明しないのは民主主義の否定です。
各国首脳がコロナ対策に全力を注いでいる時に何もせず、中国を刺激するためとしか思えない国に外遊。
野党は早く総辞職させるべきです」
菅は「諫言」が持つ言葉の意味を理解していない
当たり前のことだが、日本学術会議では、それぞれの研究分野において優れた知見が認められた識者が会員に推薦、任命されてきた。
繰り返すが、今回、その任命について理由も示さずに拒否したのは国民じゃない。菅自身だ。
「私が任命権者」とエラソーに言うのであれば、国民が納得する理由をきちんと説明すればいい。
それなのに、俺が決めたのだから従えと言わんばかり。
思想統制の意思剥き出しだ。
任命を拒否した識者はもちろん、学術界に対する尊敬もない。
「権力があれば何でもできる」と考えているパワハラ人物と同じで、勘違いにもホドがあるだろう。
こんな自己中心的な考えを「政治家の覚悟」と称しているのだとすればマンガだ。
菅は学術会議問題の“本質”を理解していない。
「教養のレベルが露見」と発言した静岡県の川勝平太知事は、メディアに真意を問われた際、「私は(菅首相が)誤っていると思うので諫言した」と語っていたが、この意味すら分かっていないだろう。
諫言とは、目上の人の過失を指摘、忠告することだ。
唐の皇帝、太宗・李世民は政治を誤らないよう諫言する役目の人物を重用したというが、それは時の権力に忖度がはびこれば、いずれは国家の衰退につながると考えていたからだ。
今の日本で言えば、政府に諫言する役割を担っている組織のひとつが日本学術会議であり、それが「右向け右」となれば国家が滅びるため、識者を含む多くの国民が強い危機感を持って反対の声を上げているのだ。
■スピード感を持って国家を破壊している
ところが、菅はそんなことを気にも留めていない。
安倍政権と同様にノラリクラリと逃げ続けていれば、国民はすぐに忘れると居直っている。
菅はスピード感という言葉を多用するが、重要課題や政策に対してスピード感を持って対応するという意味じゃない。
スピード感を持って安倍政権以上に民主主義を破壊し、国家を衰退させようとしているのだ。
「できるだけ早く政府として責任を持って処分方針を決めたい」
政府が東電福島第1原発から出る放射性物質トリチウムを含んだ処理水を海洋放出する方針を固めたと報じられたことについて、菅は会見で無表情のままこう答えていたが、これも学術会議問題と同様に戦慄を覚える。
福島県内では、59市町村のうち、41の市町村議会が海洋放出について「反対」か「慎重」とする意見書、決議を可決している。
20日、福島県内の女性市議らが衆院第2議員会館で集会を開き、「政府は住民の意見を聞いてほしい」と訴えていたのに、てんで無視だ。
すべてが「俺が決めるから従え」という姿勢で、「住民の意思」など眼中にない。
しゃべればしゃべるほど民主主義と国家を壊す「怖さ」、鉄面皮の本性が透けて見える。
だが、来週26日召集の臨時国会では、こんなデタラメな姿勢、答弁が通用するはずがない。
答弁を重ねるほどにボロを出し、火ダルマ状態になるのは必至だ。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)がこう言う。
「菅首相は所信表明演説もせず、自分のやりたいことを好き勝手やっているのですから、国民主権に対する冒涜以外の何物でもない。
野党は法にのっとり、これまでの言動の矛盾をきちんと問いただすべきでしょう。
国会では、官房長官時代のような『ご指摘には当たらない』なんて答弁は許されません。
野党は連携して徹底的に追い込むべきです」
パワハラ勘違い男は一刻も早く退場させるのが国民のためだ。