コロナワクチン効果「90%以上」の誤解 数字の罠に要注意
2020年11月21日 NEWSポストセブン
臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。
心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。
今回は高い有効性が示され話題になっている新型コロナウイルスのワクチンについて。
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新型コロナウイルス感染拡大の第3波が危ぶまれる中、アメリカの製薬会社で開発されているワクチンが90%以上という高い有効性を示したことが大きく報じられた。
もしかすると、来年のオリンピック前には日本でもワクチンの接種が始まるかもしれない、と期待させるには十分なニュースだろう。
このワクチンを開発しているのは、新興製薬会社のモデルナと大手製薬会社のファイザーだ。
両社のワクチンには「メッセンジャーRNA(mRNA)」という新しい技術が使われている。
小学生の頃、学校の体育館でワクチンを打った記憶がある人も多いだろうが、それら従来の「BCGワクチン」は、病原菌やウイルスを弱体化させ、病原性をほぼ無くしたもの。
接種することで体内に抗体を作り出し感染に備えることが出来るが、この方法は病原体そのものを体内に入れるうえ、培養にも莫大な時間とコストがかかる。
一方、mRNAワクチンは病原体そのものではなく、新型コロナウイルスの表面のたんぱく質を使って作られるため比較的安全で、ウイルスの遺伝子配列さえ分かれば素早く人工的にワクチンを作ることが出来るという。
ファイザーは、最終段階の臨床試験で予防効果が95%と発表。
中間報告を行ったモデルナのワクチンも有効性は94.5%と高かった。
ファイザーのワクチンはマイナス70〜80℃で保存しなければならず、「そんな温度で保存できる冷蔵庫が日本のどこにあるんだ?」と話題になっていたが、モデルナのワクチンは2〜8℃で30日間の保存も可能という優れものらしい。
94.5%と聞けば、かなりの安全性が担保されているという印象を受ける。
100人にワクチンを打ったら94人には効くと思いがちだが、ここが落とし穴だ。
発表によると、治験の対象者は3万人。
半数にワクチンを投与し、残り半数には偽薬が投与された。
だが、感染した95人のうち、ワクチンを接種していたのは5人、残る90人は偽薬を打っていたという。
免疫学の第一人者である大阪大学名誉教授の宮坂昌之氏は、11月18日付けの毎日新聞ネット版で、90%以上というワクチンの有効性についてこう語っている。
「『有効性』とは、ワクチンを打たなかった人(非接種者)の発病率を1としたときに、
接種してその発病率がどのぐらいの割合に下がるかを推定したものを言う。
『9割の有効性確認』を言い換えると『ワクチンを打たずに発病した人の9割は、ワクチンを接種していたら発病しなかったはず』ということを表している」。
臨床試験で高い「予防効果」は確認出来たものの、「ワクチンを接種すれば94.5%の人が感染しない」と断定するものではないのだ。
このように、同じ情報であっても、伝え方次第で捉え方や見方が変わることを「フレーミング効果」という。
ファイザーもモデルナも、「接種すれば90%以上の人は感染しない」のではなく、感染した人の90%は打っていれば感染しなかった“かも”ということなのだ。
ワクチンの有効性の高さばかりに目を奪われるが、モデルナの治験者数はまだ3万人に過ぎず、サンプルサイズにこそ注意しなければならない。
人は数値を示されると、それを鵜呑みにしてサンプルサイズに目を向けない傾向があると言われる。
少数のサンプルによる結果でも、十分に正しいデータが得られていると思い込みやすいのだ。
まして、全世界で一日も早いワクチンの開発が望まれているのだから、希望のある明るいニュースは好まれやすく、数値ばかりが独り歩きしやすい状況でもある。
もちろん、まだワクチンが完成したわけではないが、高い有効性が示され、副反応についても「明らかな安全性の懸念は報告されていない」と言われても、効果の持続性など分からないことは多い。
田村憲久厚生労働大臣は、11月13日の衆議院厚生労働委員会で、ワクチンについて「国民にしっかりと情報提供したうえで、本人の意思に基づき、それぞれの判断で打ってもらう」と述べた。
飛び交う情報をどこまで信じて良いのか判断するのは自分次第だ。
慎重になるかリスクを覚悟するか。
いよいよ接種が可能になった時、あなたならどちらを選択するだろうか。