2020年12月11日

「誰も助けてくれない」うつ病特有の考え方が不眠を招く

「誰も助けてくれない」うつ病特有の考え方が不眠を招く
12/8(火) ハルメクweb

名古屋大学の尾崎紀夫教授が最新の研究結果を元に、体、脳、心の関係を伝える1話10分全6回の講義。
今回はうつ病と睡眠障害について。

「老年期うつ病」と認知症に伴う「うつ症状」の見分けが困難です。
またうつ病と間違えやすい睡眠時無呼吸も解説します。

「夢ばかり見ていた」眠ってもすっきりしない!うつ病の睡眠特性 うつ病についてです。
これも睡眠障害が必発で起こる病気です。
その背景には、否定的なものの捉え方や、鑑別上非常に重要な睡眠中の無呼吸があります。
それらについて、お話をしたいと思います。

うつ病の方の睡眠ポリグラフィは、これまで何度か報告があります。
一般の方に比べると、レム期の睡眠が非常に多い。
「夢を見てばかりいた」とよく言われるのは、こういったことにも反映されています。
それから、途中でよく目が覚めてしまう。
睡眠の維持ができない。
深い睡眠も少ない。
脳を休めて記憶を定着させる働きが少なくなっている。
したがって、朝起きたときにすっきりせずに、昼間のパフォーマンスが落ちてしまいます。

睡眠障害はうつ病の始まりの頃からよく起こり、治療していてもなかなかよくならない症状です。
そういう意味で、精密医療上でも睡眠を捉えることが極めて重要だろうと我々は考えています。

「誰も助けてくれない」
うつ病のものの捉え方が不眠を招くメカニズム
ここで一点、気を付けなければいけないことがあります。
実際にうつ病の方の睡眠は良くないのですが、ご本人の主観と機器で確認した睡眠との間に乖離があることです。
例えば、主観と睡眠検査で寝付きの時間を比較した古典的な研究が、1962年に遠藤四郎先生により報告されています。
うつ病の方は「寝つくまでに時間がかかって眠れない」と言われますし、夜間の睡眠全体の時間も実際より短く訴える傾向があります。
もちろん良くないのは確かですが、実際以上に寝付きが悪く夜の睡眠も悪いと捉えがちだということがあります。
そういう意味では、その人たちの睡眠を、簡易機器でしっかり捉えることが、経過を見る上で極めて大事になります。

睡眠に限らず、うつ病のポイントはいろいろなことを否定的に捉えるところです。
例えば、業務の負荷を過大に捉えてしまい、あれもこれも大変だと感じるので、心の中のストレスがどんどん増えるばかりです。
一方で、上司等のサポートについては、普段なら存在すると感じているのを過小評価してしまい、誰も助けてくれないと思って一人で抱え込むような否定的な捉え方もあります。
このように否定的な捉え方が起こると、先々のことには当然不安が募る一方となり、「眠れない」システムが駆動し始めます。

うつ病の「悪循環」と、その解消法
我々の研究結果でもわかっているのが、図のようなうつ病の悪循環です。
ここには、いろいろな出来事が重なってきます。
長時間労働になり、睡眠が取れずに脳機能の回復が不充分になることもあります。
そうすると、脳機能の変化によって、物の見方が否定的になり、取り越し苦労や悲観主義が起こります。
そうなると、周囲のサポートを過小評価し、負荷を過大評価してしまい、それにより不安が起こるので、またまた眠れなくなります。
このような悪循環が起きているのがうつ病だと、我々のこれまでのさまざまな研究の成果からわかってきました。
患者さんやご家族にもこのように説明をし、どう治療するかについては、この悪循環を一つずつ切っていくようにしています。

脳機能が変化していることについては、体ではなく脳や心の休息を取るということで、これが実はなかなか難しいところです。
睡眠をいかに調節するかが問題ですから、「睡眠と生活習慣」でお話ししたようなことを申し上げます。
また、患者さんは一人で抱え込む傾向があることをご本人にわかっていただき、周囲にも相談をしておく。
あるいは周囲からお声を掛けていただいて、重なっている出来事の優先順位や重み付けをしていただく。
時には脳に働く薬も使いますが、薬以外に「物の見方の整理をする認知行動療法をしてみましょう」というような形で、うつ病の治療についても悪循環をもとに説明します。

うつ病と間違われやすい「睡眠時無呼吸症候群」
さて、うつ病とよく間違われているのが「睡眠時無呼吸症候群」です。
中年男性に多いのですが、女性の方もいらっしゃいます。
肥満がリスクファクターで、例えばあごの辺りが二重あごや三重あごになってくると、眠っている最中に喉の奥を押さえることになります。
それから、夜間のいびきですが、これはご本人では気付かないので、周りの方が気付かないとどうしようもありません。

昼間の症状としては「何もやりたくない」という感じで、ぼーっとして意欲が起きません。
うつ病とよく似た症状を出されます。
例えば、朝起きたとき、なんとなく頭がぼーっとして、頭痛がするといった感じです。
春の花粉症シーズンに無呼吸が起きてしまい、うつ病だと間違われて受診された方も、今まで複数いらっしゃいました。
無呼吸とうつ病は、症状的に非常によく似ているのです。

睡眠薬の中で、睡眠を促進するGABA(Gamma-Amino Butyric Acid、γ-アミノ酪酸のこと)に働くタイプのベンゾジアゼピン系、あるいは同じくGABAにはたらくアルコールが無呼吸を悪化させます。
これらは筋の緊張を落としてリラックスさせてくれるのですが、一方で無呼吸は悪化させることがわかっています。
かえって睡眠薬はマイナスです。
もちろん昼間ぼーっとするので事故にもつながります。

睡眠時無呼吸症候群はマウスピースで改善できる
我々の研究でも、睡眠時無呼吸の方はどうも認知機能が落ちることがわかっています。
睡眠中、普通は交感神経が下がるので体内の血液中のノルアドレナリンが下がります。
しかし、以前に私が行った研究では、この人たちは少ない酸素を必死で体中に行き渡らせるため、交感神経が高まってノルアドレナリンが増える現象を起こしています。
これは、かなり無理をしていますから、脳血管障害や心臓病のもとになります。
実際に放置すると、特に心・循環器系疾患による死亡リスクが増加し、治療すると改善することもわかっています。

重症度が高くない場合の改善手段としては、私どもも勧めているのが、(動画の中の)画像のようなマウスピースを歯科口腔外科でつくっていただき、それをはめて夜を過ごしていただくことです。
旅行にも持っていける手軽さです。
口の中で舌の方を物理的に上げてやって、落ちないようにするという簡単な器具です。
もう少し重症度が高いと、これでは不十分なので、睡眠中に酸素の圧をかけて開けてやり酸素を体内に入れる方法になります。
CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)といいます。
昔は大きな機械で装着感が悪かったのですが、この頃はかなり改善されています。

「何もおいしくない」状態からの回復が治療の目標
ということで、うつ病およびうつ病と間違えやすい病気についてお話をしましたが、うつ病が良くなるとはどういうことなのでしょうか。
私の患者さんに主婦の方がいるのですが、その方が言われていた言葉を借りてお話をします。
睡眠とともに「食」も回復の指標だということです。

うつ病の症状の一つに、「何も楽しくない、何も関心がない」という症状が挙げられますが、食では「何もおいしいと感じられない」「おいしいものを食べたいとも思えない」と表れます。
そんな時期に、彼女なりに「食べないと駄目だ」と思い、必死で食べていたそうですが、そのうち食べることもできなくなり、やせてしまったといいます。
そういう頃ですから、自分がおいしいものを食べたくもありませんし、料理が嫌で嫌でしょうがなく、できなくなってしまった。
そして、そのように主婦としてやるべきことができない自分がもっと嫌になるという悪循環に陥っていたのです。
そんな状況でしたが、この方が言われたのは、「先日、夫から『料理の味が以前に戻ったね』と言われ、良くなったことを実感しました」ということです。
そのようなことが、うつ病回復の一つの目標であろうと思いながら、治療をさせていただいています。
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posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(2) | うつ病について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
うつ病の症状が出始めた時

運転してはならない

あのガードレールを突き破れば・・・
この白線を越えれば・・・
左の方に寄って脱輪しようかな・・・


もうどうなってもいい という症状がくるのです。

■ 但し、事故が起きると それを車のせいにするのも特徴です(`・ω・´)ハイ!
Posted by タカやん at 2020年12月11日 17:50
私も同じでした。
鉄道のホームを歩いているとき 知らず知らずに列車側に向かっていったり 高い所だとすいこまれそうになったり、発症 数年は「死との戦い」でした、
今でも意識的に「安全」を考えるように生活しています。
うっ状態の「自殺」は 本人にとって理由などなく突発的なことが多いものです。
自死をへらすためにも「精神科」の敷居を低くして、
生きているだけで価値があると思わせてくれる環境が是非必要だと思います。
Posted by 小だぬき at 2020年12月12日 04:00
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