GoToキャンペーン、なぜか止めない菅政権の「反知性主義」という末路
12/12(土) :現代ビジネス
中原 圭介(経済アナリスト)
データを無視する「愚行」
菅義偉政権が日本の生産性を引き上げるために「中小企業再編論」を掲げています。
中小企業がデジタル投資をしやすい環境をつくると同時に、事業継続が難しい中小企業に対して業態転換を支援するという政策であれば、私も大いに賛同したいところです。
しかしながら、最低賃金の大幅な引き上げで中小企業の淘汰・廃業を進め、生産性を引き上げようとするのは、データや因果関係を無視した愚かな行為に見えてしまいます。
データをまともに検証することなく、因果関係と相関関係を取り違えて思い込みで進めているのでしょう。
実際、中小企業庁の近年のデータが示すのは、廃業する企業の中で前年度の純利益が黒字だった企業の割合が高いということです。
その割合は、実に60%を超えています。
ゾンビ企業より優良企業のほうが廃業している現実を踏まえると、廃業数が増えることで生産性は低下しているというわけです。
そういった意味では、最低賃金の大幅な引き上げによって廃業を強いる政策が本当に正しいのか、しっかりとデータを検証して議論する必要があります。
中小企業の生産性をかえって引き下げてしまうリスクについて何一つ語られないのは、違和感を覚えざるをえません。
日本で最も生産性が低いのは「政治家」
インバウンド対応でも間違えた
これは以前の連載でも申し上げたことですが、日本で最も生産性が低いのは政治の分野です。
そのことが、コロナ下で見事に浮き彫りとなっています。
たとえば、安倍政権はインバウンドの経済効果に期待するあまり、コロナの感染拡大が懸念された2月に中国や欧米からの入国制限をためらいました。
多くの識者や国民が指摘していたように、その判断の遅れが国内の感染第1波を拡大させることとなったのです。
私は当時、別の視点から政府は危ない橋を渡っていると思っていました。
というのも、観光庁の統計から算出すると、2019年の国内旅行消費額のうち、日本人の国内旅行が22兆円で79%を占めている一方で、訪日外国人の旅行は17%にすぎなかったからです。
結局のところ、訪日客から国内の感染が広がり、小さい収益(訪日インバウンド)を守るために大きい収益(国内インバウンド)を犠牲にしてしまいました。
本末転倒とはまさにこのことです。
今のところ、GoToトラベルとGoToイートといった政策で穴埋めをしているものの、これは政府のミスを国民の血税で補填しているのと変わりません。
政治の無能に起因する税金の無駄遣いといえるでしょう。
そうはいっても、安倍政権下での感染拡大にともなうドタバタ劇は、政策効果の有無や反省すべき教訓をたくさん与えてくれたはずです。
それを現在や未来に生かさない手はありません。
菅政権の「愚かな反知性主義」 失策が目立ってきた
ところが菅政権下でも、これまでの政策の結果とその効果が検証されている形跡はありません。
安倍政権でのドタバタ劇を教訓としている節もありません。
むしろ、菅首相の過ちを認められない頑固さが目立ってしまっているようです。
経済活動と感染抑止を両立するという理想に近づけるためには、「経済活動のアクセル」と「感染抑止のブレーキ」を効果的に繰り返していく必要があります。
そのためには、過去の教訓やデータを生かさなければならないわけですが、政府は相も変わらず行き当たりばったりの政策を続けています。
経済学者のあいだでも、感染の長期化がかえって景気の回復を遅らせるという懸念を示す方々が増えてきています。
もとより感染症学者のあいだでは、政府に対する無力感が広がっています。
菅首相と二階幹事長が観光利権を守るためにGoToトラベルのアクセルを吹かし続けるのも、政治の無能さをさらけだした縮図といえるでしょう。
過去の歴史が数々の教訓として示しているのは、感染症拡大の主たる原因は人の移動によるものだということです。
菅首相は「GoToトラベルが感染拡大の主たる原因であるとのエビデンス(根拠)は、現在のところ存在しない」と発言しましたが、これは反知性主義に基づく考え方です。
政府は「GoToの利用が延べ4000万泊を超えてるのに対して、感染者は11月26日時点で202人にとどまる」として事業継続を強行する方針ですが、これでは観光客の感染率は観光に行かない人々の感染率より低いということになってしまいます。子どもでもわかる嘘のデータの流布は、政治への信頼を大いに毀損する行為でもあります。
そは 企業経営にしても国家運営にしても、予想される危機に対しては「小さいうちに早急に」対応するのが鉄則です。
この点でも、政治の危機管理能力がいかに低いのか、国民は嫌というほど思い知らされたのではないでしょうか。
歴史や科学を無視する「反知性主義」の政治は早急に改めてもらいたいところです。
政治の劣化が止まらない
国会は4月に全国民に1人10万円の支給を決めましたが、今ではその効果を検証することができます。
統計が示すところでは、給付金が消費を押し上げる効果は低かったのです。
実際に、家計が4〜6月期に所得を貯蓄に回した割合は23.1%と、1994年以降で最高を記録しています。
複数の民間のシンクタンクの試算によれば、給付金のうち消費にまわったのは、20〜30%程度しかないということです。
私は当時から、「全国民に一律に給付金を配るのは、愚かとまではいえないが賢くはない」政策だと考えていました。
それは、コロナ不況が過去の不況と比べてダメージを受けた層が偏っているのがわかっていたからです。
従来の「薄く」「広く」型の対策では効果が限られるのは十分に予想できたことだったのです。
その結果として、収入が減少した世帯の所得保証が極めて不十分なものになってしまいました。
当初の政府案だった収入減少世帯に30万円を支給するという案のほうが、対策としては正しかったというわけです。
1人10万円の大盤振る舞いも、効果の検証をすると税金の無駄遣いの部類に相当するでしょう。
それにもかかわらず、政治の劣化が止まりません。
従来からバラマキに慣れた政治は、コロナ下でさらに勢いを増しているからです。
与党内では一律給付金の第2弾を求める声が強いといいます。お金を配る手法ばかりが議論される状況には、政治家の政策立案能力が著しく落ちたといわざるをえません。
たしかに、コロナ下で緊急的な対応として財政の下支えは必要不可欠です。
しかし、成長戦略をどのように打っていくのか、人口減少をどのように抑制していくのか、といった将来への意見はほとんどないのは、非常に心もとないところです。
国会議員は4分の1に減らせる
政治の生産性を引き上げるにはどうすべきなのでしょうか。
デジタル化が進んだ経済・社会において、国会や政府がお金の使い道を決定する時、必ず振り返らなければならないのは、これまでの政策がもたらした効果を細部にまでわたって検証するということです。
そのためには、政治のデジタル化・AI化が生産性を上げるカギとなります。
デジタルやAIを理解して使える政治家が増えれば増えるほど、政策の決定プロセスが変わり、政治の可視化(見える化)が進むからです。
政策の立案にしても予算の配分にしても、人がすべてを決めるからこそ「利権」「しがらみ」「権力闘争」などから抜け出せず、非効率で無駄が多い傾向が強まっていきます。
GoToトラベルや国土強靭化計画などは、その典型的な事例といえるでしょう。
これに対して、デジタル技術とAIを組み合わせて政治に活用すれば、ビッグデータによって政策のきめ細かい検証が可能となり、過去の政策でいかに無駄が多かったのか如実に判明してしまうでしょう。
もう国民の目はごまかせなくなる
政治の可視化によって国民の目をごまかせなくなるのは、権力を持つ政治家にとって好き勝手ができなくなります。
政治全体の無能さをさらけ出すことで、個々の政治家が国民のために自己研鑽する良いきっかけにもなりえます。
正直なところ現状のままでは、政治のデジタル化によって国会議員は今の3分の1、4分の1にリストラするべきです。
今となっては地方の抱える課題は均一化してきていますし、都道府県ごとに国会議員がいる必要はありません。
それでも国への陳情が必要というのであれば、その役割は知事に一元化すればいいのです。
政治家のレベルは国民のレベルを映しているといわれます。
日本国民もいい加減目を覚まさなければならない時期に来ているのではないでしょうか。
「go to トラブル」
で いかが? [岩陰]・ω・` )
山本太郎君を輝かす またはコントロールする有権者で「希望」を持ちたい。