2021年04月11日

これは何かの冗談ですか? 「日本の戦場化」につながる動きを多くの人はまだ知らない

これは何かの冗談ですか?
「日本の戦場化」につながる動きを多くの人はまだ知らない
4/10(土) 現代ビジネス(半田 滋)

 防衛省が米空母艦載機の離着陸訓練(FCLP)施設の建設を計画する鹿児島県西之表市の馬毛島。
計画通り、米軍のFCLPが実施されることになれば、長崎県の米軍佐世保基地の「空母準母港化」が浮上し、在日米軍基地の運用に変化を呼び込む可能性がある。

 防衛省は、馬毛島の99%以上の土地を保有する地権者との間で買収契約を交わし、今年2月、訓練の騒音や工事に関する環境影響評価(アセスメント)の手続きを始めた。
 想定しているのは、横須賀基地の米空母「ロナルド・レーガン」の艦載機による訓練基地として米軍に提供することだ。
日本政府は米軍の運用に注文を付けられないため、ひとたび提供すれば、使い方は米軍次第となり、佐世保入港する空母の艦載機の訓練基地として利用することも可能になる。

 佐世保基地には、横須賀基地を事実上の母港とする米第7艦隊の艦艇のうち、強襲揚陸艦「アメリカ」など沖縄の米海兵隊の「足」となる揚陸艦5隻と掃海艇4隻が常駐している。

空母の佐世保入港の歴史 
 空母は配備されていないが、空母の佐世保入港の歴史は古く、1960年2月のミッドウェイを皮切りにこれまで113隻が入港した。
 1967年には翌年1月に予定された原子力空母「エンタープライズ」の佐世保入港をめぐり、革新団体、学生らが「佐世保港がベトナム戦争の出撃基地になる」と訴えて入港阻止闘争を繰り広げた。
 米国が本格的にベトナム戦争に参戦するきっかけとなった64年のトンキン湾事件以降、73年にパリ和平協定が締結されて終戦を迎えるまで、米空母の佐世保入港は61隻を数え、佐世保市はベトナムで戦う米軍のための補給拠点および休養地として利用された。

 エンタープライズの初入港以来、原子力空母の佐世保入港は16回。通常動力型空母の退役により、2007年以降の寄港はすべて原子力空母だ。
 原子力空母の寄港数はロナルド・レーガン、ジョージ・ワシントンが3回ずつ、エンタープライズ、カールビンソン、エイブラハム・リンカーン、ジョンC・ステニスが2回ずつ、ニミッツが1回となっている。

 横須賀配備の空母が沖合で艦載機を発艦させ、甲板、格納庫ともほぼ空っぽになった状態で横須賀入港するのに対し、佐世保に入港する空母は艦載機を満載している。
 艦載機を積んだまま入港するのは滞在期間が5日前後と短いためだが、逆に言えば5日前後と短いのは艦載機を降ろすのに適当な航空基地が近くにないからだともいえる。
 例えば、ロナルド・レーガンの艦載機は横須賀基地と同じ神奈川県にある厚木基地を利用してきた。
しかし、佐世保基地に入港する空母の艦載機が厚木基地を利用しようにも、佐世保からの距離は約900キロと遠い。
実際の艦載機の発艦はより遠方の沖合で行われるから佐世保入港する前の空母から発艦した艦載機は1000キロ以上の距離を飛行することになる。

 現在、硫黄島で行っているFCLPは厚木基地から硫黄島までの距離が1200キロあり、以前から米軍は「遠すぎる」と不満を訴えていた。
佐世保入港する空母からすれば、厚木基地は遠すぎたのだ。

岩国移駐を受け入れた理由
 だが、厚木基地の艦載機部隊のうちの固定翼機は、2006年5月に日米合意した米軍再編最終報告にもとづき、2018年3月に山口県の岩国基地へ移駐した。
 岩国移駐は日本政府にとって、住宅が密集する厚木周辺の騒音解消が狙いだったが、米軍は空母の拠点である横須賀基地から離れることで利便性が低下するにもかかわらず、岩国移駐をすんなり受け入れた。
 それは米軍にも利点があるからだ。

米軍は艦載機の岩国移駐でスカスカになった厚木基地を1平方メートルも日本政府に返還していない。
その一方で移駐先の岩国基地に官舎、宿舎、格納庫など必要な施設を日本政府の費用で建設させた。
 この結果、米軍の艦載機部隊は厚木、岩国という2つの基地を労せずして手に入れることなった。
これが岩国移駐を受け入れたひとつの理由である。

佐世保基地の「空母準母港化」
 もうひとつの理由は佐世保基地の「空母準母港化」にあるとみられている。
 佐世保基地から岩国基地まではわずか250キロ。
沖合から発艦させても艦載機が楽に飛行できる距離だ。
艦載機が岩国基地で訓練するようになれば、空母は長期間、佐世保にとどまり、補給を受け、乗員が休養することが可能になる。
まさに佐世保基地の準母港化である。

 米軍再編最終報告の日米合意から1カ月も経たない2006年5月25日、エイブラハム・リンカーンが佐世保に入港した。
この年から5年連続して合計6隻の空母が佐世保に入港、準母港化の既成事実化が始まった。
 2011年以降、空母の佐世保入港は4回にとどまっているが、この間、米政府は太平洋重視の政策(リバランス政策)を打ち出し、太平洋配備の空母を6隻に増やした。
常時2隻がインド太平洋の任務航海に就いている。
いつ佐世保に空母が入港してきたとしても不思議ではない。

 一方、横須賀配備のロナルド・レーガンは毎年6カ月程度、横須賀基地を離れる。
艦載機を満載して任務や訓練に出ている間、艦載機部隊の岩国基地は閑散としており、別の空母の艦載機部隊を受け入れる余地が生まれる。
 問題だった佐世保基地と厚木基地との遠すぎる距離は、艦載機部隊の岩国移駐により、解消した。
硫黄島で行っているFCLPが馬毛島で実施できるようになれば、佐世保に入港する空母の艦載機部隊も馬毛島を利用可能となり、「佐世保の空母準母港化」の受け皿は整うことになる。

 母港化ではなく、準母港化と「準」が付くのは、佐世保基地には横須賀基地のような空母を本格修理できるドライドックが
なく、また横付けできる岸壁もないので基地の沖合に停泊する中途半端な使い方にとどまるからだ。

馬毛島が“日米一体化のシンボルに
 しかし、準母港化の環境が整えば、これまでのような5日前後の滞在では終わらない。
艦載機パイロットが乗艦資格を得るのに不可欠なFCLPを行う馬毛島は目と鼻の先である。
長期の佐世保滞在が想定される。

横須賀を含めて、日本が空母2隻の拠点になるのだ。
 防衛省は馬毛島に自衛隊を常駐させてふだんは自衛隊基地とし、米軍は自衛隊との共同使用とする方針だ。
単独の米軍基地とした場合、米軍のやりたい放題となり、周辺住民の不満を高めることになりかねないからだ。
 防衛省の計画では、馬毛島を硫黄島と同様の「基地の島」とする。
硫黄島には滑走路を備えた海上自衛隊の基地がある。
ふだんは海上自衛隊が使用しているが、ロナルド・レーガンが艦載機を搭載して出港するのに合わせてFCLPが行われ、米兵らは防衛省が提供した米軍宿舎に寝泊まりする。
 馬毛島の場合、岩国基地から約400キロメートルと近いことから、FCLPの日帰り訓練も可能になる。
とはいえ、整備員らは数日間の訓練期間を通じて、馬毛島に滞在する必要があり、硫黄島と同様に必要な米軍施設は防衛省が建設することになる。

 馬毛島に自衛隊が常駐すれば、南西防衛は強化される。
大量の燃料を備蓄することになるので、物品役務相互提供協定(ACSA)の規定により、FCLPにやってくる米軍に提供することができる。
馬毛島は日米一体化のシンボルともなるだろう。

 護衛艦「いずも」の空母化とも無縁ではない。
空母化した「いずも」は、南西防衛に活用することから、米国から買い入れるF35B戦闘機の配備先は宮崎県の新田原基地が有力視される。
 南西諸島に向かう「空母いずも」は海上自衛隊横須賀基地から出港し、訓練海域のある四国沖で新田原基地から飛来したF35Bを搭載。
さらに南下して馬毛島を利用した離発着訓練や対地攻撃訓練が実施されることになるだろう。
 馬毛島は西之表市のある種子島に近く、騒音被害への警戒感などから西之表市の八板俊輔市長は「受け入れ反対」を表明し、1月の市長選挙で再選された。
 防衛省は何とか住民を懐柔しようと、環境整備法による消防施設、ゴミ処理施設、農林水産業施設などの建設助成を行い、また米軍再編交付金により、医療費助成、診療所運営助成、福祉バスの購入などの各種助成金も支払うとし、経済面の波及効果を前面に押し出している。

 「騒音というムチ」を与える一方で「カネというアメ」をしゃぶらせようというのだ。
 防衛省が馬毛島を購入するのに地権者に支払う金額は160億円。当初、予定した45億円に100億円以上も上乗せしたのは安倍晋三政権の官房長官だった菅義偉氏の指示とされる。
菅首相の肝いり案件のひとつが「馬毛島の基地化」なのだ。
 同時にそれは佐世保基地の空母準母港化を促し、米軍の基地機能が格段に強化されることになる。

米インド太平洋軍のデービットソン司令官は「台湾有事は6年以内にあるだろう」と述べており、日本列島はベトナム戦争以来の米軍の出撃拠点となりかねない。
 ベトナム戦争と違うのは、台湾と地理的に近い日本が戦場となるおそれがあることだ。
「馬毛島の基地化」は「日本の戦場化」を呼び込む結果にならないだろうか。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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