2021年04月20日

内部通報者が次々と休職…「告発したら潰される」日本郵政の腐敗しきった“コンプライアンス”

『郵政腐敗』より #2
内部通報者が次々と休職…「告発したら潰される」日本郵政の腐敗しきった“コンプライアンス”
文春オンライン(藤田 知也)

 かんぽ生命の不正販売、ゆうちょ銀行の不正引き出し、NHKへの報道弾圧……。
従業員40万人を超える巨大組織「日本郵政グループ」の、信じられないような不祥事が次々と明らかになっている。
 そうした“腐敗の構造”の裏には一体何があるのか。
その正体に迫った藤田知也氏(朝日新聞記者)の著書『郵政腐敗』(光文社新書)より、内部通報制度の崩壊から浮かび上がる“いびつな組織構造”について紹介する。(全2回の2回目/昨日前編から続く)

除名される通報者たち
 “特定局の鉄則”を振りかざす冒頭の郵便局長は、地区郵便局長会の会長であり、九州地方郵便局長会の副会長でもあった。そして、当然のように、日本郵便の地区統括局長と、日本郵便九州支社副主幹統括局長も兼任していた。
 そんな“大物局長”が常識外れの「通報者捜し」に動いていたことは、日本郵便九州支社コンプライアンス室にも連絡が入っていた。

 2019年1月24日に不当な通報者捜しが起きてから1週間後。
部会のメンバーが再び同じ公民館に集められ、当の副主幹統括局長が登場して土下座して謝るという一幕があった。
本社コンプライアンス担当役員から注意されたためだとみられ、同年春には懲戒戒告処分も受け、統括局長などの役職も降りてヒラ局長となり、出世は見込めなくなった。
通報者捜しに加担した部会長への処分の有無は不明だが、まもなく別の地域の郵便局に転勤していった。
組織として最低限の対応はとられたのかもしれない。

 しかし、通報者と疑われた局長たちには、その後も「嫌がらせ」や「腹いせ」としか思えない攻撃が続いた。
 問題の副主幹統括局長は、地区郵便局長会の会長の座も急きょ降りたものの、単なるヒラ局長に戻ったのではなく、「相談役」に据えられた。
 その地区局長会長の後任を決める2019年3月の会合では、地区会の理事だった郵便局長が「内部通報者捜しがあって引責するようだ」と報告したところ、ほかのメンバーから「中傷だ」「名誉毀損にあたる」と非難を浴び、局長会を「除名処分」された。
別の局長も、判然としない理由で除名になった。2人はいずれも、通報者捜しが繰り広げられた部会に属していた。

 地区郵便局長会のメンバーらはその後、除名した2人の局長に対し、日本郵便の役職も降りるよう迫ったり、九州支社の人事部門に役職を解くよう掛け合ったりもした。
同じ部会に属するほかの局長も、会合で厳しい言葉をぶつけられ、役職を降りるよう求められた。

 通報者らは次第に孤立を深め、うつ状態と診断されて休職する者が相次いだ。
こうした情報も九州支社コンプライアンス室に届き、九州支社総務人事部が調査したこともあるが、業務中の言動でパワハラが認定されることはなく、任意団体である局長会の活動での言動は業務外だと突き放した。
 結局、6人の通報者を含む計7人の郵便局長が2019年秋、元副主幹統括局長と複数の幹部局長を相手取り、通報者捜しとその後の不利益などで精神的苦痛を受けたとして、損害賠償を求める訴訟を起こすまでに至った。

 福岡県警も同時期から捜査に乗り出し、2020年1月には、元副主幹統括局長が一部の局長に通報者と認めるよう迫ったとして、強要未遂罪の疑いで福岡地検に書類送検した(福岡地検は今年4月5日、元副主幹統括局長を強要未遂罪で福岡地裁に在宅起訴したと発表した)。

通報者捜しは「指導の一環」
 郵便局長7人が元副主幹統括局長を含む3人の有力局長に慰謝料を求める訴訟は、福岡地裁で続いている。
被告となった元副主幹統括局長側は、請求棄却を求めて争っている。
 元副主幹統括局長は裁判所に提出した書面で、一連の発言をしたことは認めつつ、こう主張している。

〈被告(元副主幹統括局長)の性格等を知り尽くす原告が、あえて激怒する態度・発言をとり、不穏当な言辞を引き出したのではないか〉
〈原告と被告は親子のような関係。被告自身、原告を実の息子のようにかわいがり、強い絆を築いていた。何でも腹を割って言い合える仲だった〉
〈厳しい口調で叱責することはあったが、どこの会社にも見られる程度のもの〉
〈原告は被告が怖くて(息子である局長の行為を)報告できずに内部通報したと主張するが、およそ信用できない〉

 内部通報制度については、独特の考えを披露している。

〈内部通報したのが郵便局長なら、被告が最も重視する郵便局長同士の絆・結束にひびが入り、修復できなくなるのではないかと考えた〉
〈(通報内容が)不処分となったため、絆・結束を取り戻そうと考えた。内部通報者捜しをするつもりは毛頭なかった〉
 そして、一連の通報者捜しは〈あくまで指導のつもりだった〉と強調した。

 被告側は、ほかの地区郵便局長会幹部らが降職を求めた行為も認めつつ、「あくまで任意の相談・お願いに過ぎない」と主張している。
 元副主幹統括局長の言葉は、音声を配信した朝日新聞デジタルなどで聞くことができる。
その迫力あるやりとりが「どこの会社にも見られる」と本気で考えているのなら、彼らの“常識”はやはり世間のそれとはかけ離れているのではないか。

 被告側の弁護士には書面と電話で何度か取材を申し込んだが、コメントを得ることはできなかった。

無視されたガイドライン
 日本郵便の組織としての対応にも欠陥がある。
 消費者庁が取りまとめた内部通報制度の民間向けガイドラインには、内部通報制度の通報窓口を整備して広く周知するだけでなく、通報者を守ることが制度を機能させるために重要だと、明確に書かれている。
 ガイドラインでは、通報者が特定されないよう配慮を尽くすのはもちろん、通報内容の共有範囲は最小限とし、通報を受けて調査に乗り出すときは、調査の端緒が通報だと知られないよう工夫することも求めている。
定期的な調査に紛れ込ませたり、複数の郵便局に抜き打ちを仕掛けたりする手法も紹介されている。

 通報者の探索や通報者への不利益な取り扱いを禁止し、不利益な取り扱いをしたり通報を漏らしたりした場合は当事者を処分し、不利益の救済・回復を図ることが必要だとしている。

 では、福岡での事例はどうだったか。
 前述の通り、通報を受けた本社コンプライアンス担当役員が、調査対象者の父親に連絡を入れ、「複数からの通報」を知らせていた。
たとえ相手が管理責任者でも、通報があったと調査開始前に知らせたことは、結果から見ても、ガイドラインの趣旨に背くのではないか。
 さらに、日本郵便本社には全国郵便局長会の元会長である専務(当時)がおり、統括局長とも親しいとみられていたため、内部通報文書には「専務には言わないで」とも明確に書かれていた。それにもかかわらず、この専務も早い段階で情報を共有し、通報者の一部に連絡していたことが判明している。

 通報者が「秘密にして」と懇願する相手でも、通報者の同意を得ることもなく、通報の事実や通報者の情報を即座に明かしていたのだ。これでは、通報制度の意味がないばかりか、通報は決してしないほうがいいと知らしめているようなものだ。
 通報者捜しに対しては、懲戒処分を出して統括局長の役職も解いてはいる。
だが、処分の事実や降職の理由を社内でも明かしていない。
通報者のほうは一部が局長会で除名となり、会社の役職を降りるよう迫られて心を患い、降職や休職に追いやられた者もいたが、そうした「不利益」を回復しようとした形跡はない。

 日本郵便は筆者の取材に対し、「(内部通報制度は)ガイドラインに沿って運用し、通報には適切に対応している」と回答した。
ただし、個別の事例についてはコメントできないとし、非を認めることはなかった。
日本郵便は元副主幹統括局長を含む7人に今年3月末、停職などの懲戒処分を出したが、組織としての課題はまだ検証中だとしている。

「告発したら潰される」
 日本郵政グループの内部通報制度に重大な欠陥があることは、かんぽ生命の不正問題でも浮き彫りになっていた。
 2019年9月から立ち入り検査を実施した金融庁は、不正な保険営業などで社員の通報がありながら、それをコンプライアンス部門が積極的には調べず、担当部署に情報を横流しする例がある、などと指摘していた。

 たとえば、中部地方で保険営業に携わっていた郵便局員は2018年、不正を繰り返している疑いが濃い同僚の情報を、日本郵便の内部通報窓口に届けた。

 問題の社員は営業推進指導役という肩書で、地域の郵便局を回って保険営業の成績が上がるように指導する立場だった。
だが、指導を名目に出向いた先の郵便局で、高齢客を相手にいい加減な説明で契約件数を伸ばす一方、相談を受けた家族からの抗議や申し込みの撤回が相次いだ。
地元密着で働く郵便局員にとっては、指導役が契約件数だけ荒稼ぎして顧客の信頼関係を壊していくのは迷惑でしかない。

 通報した郵便局員は、コンプライアンス担当者から連絡を受け、不正な勧誘を目撃した状況や顧客の名前などを詳しく聞かれ、局員も保険の契約番号に至るまで詳細な情報を伝えたようだ。
ところが、知りうる限りのことを伝えたあとに、こう言われた。
「我々が調査すると、通報者が捜されて特定される可能性もあるが、それでも大丈夫ですか」
大丈夫なわけがない。

通報した局員が「それは困る」と答えると、そこから話はうやむやになったと、悔しそうに職場でこぼしていた。
不正の疑いがある同僚はその後も野放しで営業を続け、好成績で昇格もしていったという。

 この事例は、氷山の一角に過ぎない。
通報制度に関する現場からの訴えは、ほかにも少なからず聞かれた。
単に「調べてもらえなかった」ということにとどまらず、「通報者が特定されて恫喝された」「人事で飛ばされた」という趣旨の話もある。

彼らが口をそろえて言うのは「告発したら潰される」ということだ。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(1) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そして・・・耐えられなくなった方が

その怒りを「煽り運転」や、「家庭内暴力」に向いてしまう。


同じ職場で、反撃すれば、全て解決する 怖い部下になればいい!
Posted by タカやん at 2021年04月20日 17:32
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