2021年05月21日

「消費税の増税がなければ日本は豊かなままだった」京大教授がそう嘆くワケ

「消費税の増税がなければ日本は豊かなままだった」京大教授がそう嘆くワケ
2021年05月20日 PRESIDENT Online

日本の財政は危機にあり、再建のためには消費税の増税が避けられないといわれている。それは本当なのか。
京都大学大学院の藤井聡教授は「1997年の消費税増税がすべての間違い。
失われた富は数千兆円規模になる」という。
ジャーナリストの田原総一朗さんとの対談をお届けする――。(第3回/全4回)
※本稿は、田原総一朗・藤井聡『こうすれば絶対よくなる!日本経済』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■梶山官房長官は「俺は大蔵省にだまされた」と謝罪した
【田原】1997年に消費税増税があった。あの時、増税に反対した人はいなかったの?

【藤井】いました。橋本内閣の田中秀征(しゅうせい)経済企画庁長官は、鬼のように怒って反対したんです。
経済企画庁には当時、マクロ経済がわかるエコノミスト、インテリが大勢いた。
そのレクを受けていた田中・経企庁長官は「絶対やめろ」といった。
ところが大蔵役人たちが橋本龍太郎さんのところに、「いや、絶対大丈夫です。増税してまったく問題ありません」とこぞって説明しにいった。
たとえば、官房長官だった梶山静六さんは当時を振り返って「大蔵省の説明を鵜呑みにした私たち政治家が(中略)財政再建に優先的に取り組むことを決断した」と語っています。
で、実際に増税したら経済がメチャクチャになった。
それがわかってから、梶山さんは田中経済企画庁長官のところに行って、「俺は大蔵省にだまされた。この前はすまなかった。
(消費税増税の確認をした)閣議のとき、あんたがいったとおりだった」と謝罪したという記録も残っています。
つまり、弱小官庁の経済企画庁エコノミストがダメだと口をそろえても、官庁の中の官庁、いちばん格上の役所の大蔵官僚が大丈夫だと請け合った。それでみんな「大蔵省のほうが正しいのだろう」と思って、“騙された”んです。それで増税した。
ところが、日本経済は1年でボロボロになった。
1997年の消費税増税は日本の命運を分けました。太平洋戦争の命運が、ミッドウェー海戦の敗北で一気に尽きていったようなものだったんです。

■消費税5%から日本国民の“貧困化”が始まった
【藤井】1997年の消費税増税によって日本がダメになったことは、GDP成長率、家計消費、賃金などあらゆる尺度が実証的に示しています。
政府の資金供給量が急激に減って、実質賃金も激しく下落しました。つまり国民が“貧困化”してしまったんです。
世帯所得が減ったこと、サラリーマン・サラリーウーマンの給与が減ったことを示すグラフをご覧ください(図表1、2)。

【田原】日本人の受け取り額は、絵に描いたように減り続けている。

【藤井】こうなることは、実証的のみならず理論的にも明白です。
バブルが崩壊して成長が急速に鈍化した不況のとき増税すると、経済はさらに悪化してデフレーション、つまり経済規模の縮小が始まってしまう。
世の中でおカネがグルグル回って生産や消費をしているとき、貨幣循環のあらゆる局面でおカネを取ってしまうのが消費税。

医療で体内にたまってしまった血・体液・うみなどを外に出すために入れる管や袋をドレーンといいますが、あれと同じです。
あらゆる血管にドレーンをさして血を抜き続けていれば、そりゃ血も循環しなくなるでしょう。
体力もどんどん弱くなっていく。
世帯所得は消費税増税の1997年から一本調子で下がっています。
給与所得は消費税率を5%、8%、10%と上げるたびに、ガクガクと下がっています。
だから、デフレ脱却前には絶対に増税してはダメで大至急、消費税増税の凍結、つまり「消費税0%」を実現すべきだ、と申し上げています。

■財政を悪化させた真犯人は「消費税増税」
【田原】貧困化や格差の拡大を招いたのは、新自由主義をやった小泉純一郎・竹中平蔵コンビだという人が多いけど、これも違うね。
小泉内閣は2001(平成13)年4月から2006(平成18)年9月までです。
小泉時代は、むしろ下げかかったものの傾きを抑えているじゃないか。

【藤井】まあ、それはたまたまアメリカが好景気で外需が伸びたからです。
それはさておき、支えようとしていたので残念でなりませんが、実質賃金は第二次安倍晋三内閣のもとで激しく凋落しています。
実質賃金を短期間でこれだけ低下させた内閣は、戦後においては安倍内閣以外にない。実質賃金が7%も減ってしまっています。

【田原】「貧すれば鈍する」というけれども、カネがなくなってくると、経済以外のものがダメになっていく。どうですか?

【藤井】おっしゃるとおりです。GDPが大きいのは、みんな所得が多く貧困が少ないということですから、国民に余裕が生まれ、芸術や文化もさらに発展していく。
あとで話が出ると思いますが、格段に強い外交力も発揮できる。
研究開発投資も旺盛で、科学技術力も、もっと高まる。リニア新幹線も通っているし、都市開発も防災対策も進んでいる。ノーベル賞をもっとガンガン取れる国になっている。

【藤井】つまり、GDPが順調に成長していけば、日本はいまよりもはるかに経済大国、文化大国、生活大国になっていたはずです。
ところが、現実は逆になった。1997年の消費税の増税が、そうしてしまった。
みんながお金持ちになれば、税収も増えて、政府の財政もいまよりはるかにラクになったはずです。

■消費税増税でデフレ…日本だけが世界から取り残された
【藤井】「赤字国債」発行額の推移グラフを示しておきます(図表3)。
日本は昔からガンガン赤字国債を出して、列島開発なんかをやったと思っている人がいるかもしれませんが、違います。 1997年までは10年間の平均でたった3兆円ちょっとしか出していません。
それが増税してデフレになったことで、一気に10年平均で23兆円まで増えてしまった。
したがって、財政を悪化させたのもまた消費税の増税なんです。いま国債発行額は30兆円から40兆円時代になっています。

【田原】日本がデフレで苦しんでいる間に、欧米はふつうに成長していたわけね。

【藤井】はい。日本だけが置いてけぼりになってしまった。
日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国、その他という五つに分けて、1985年から2015年まで30年間のGDPの推移を示したのが、下のグラフです(図表4)。
まず目に付くのが、アメリカの一本調子の成長。そして2005年前後からの中国の急成長。これは6年前までのグラフですから、米中の差はさらに縮まっている。

【田原】アメリカは、何があってもへこまないんだ。すごいな。
リーマンショックでも傾きが気持ち緩やかになっただけで、すぐ元通りになっている。

【藤井】その他は新興工業国や途上国で、2000年代になって急成長した。
欧州と日本は、90年代後半に沈んだ点が似ていますが、その後、横ばいから下り坂は日本だけです。
リーマンショック後の落ち込みも、欧州より日本のほうが激しい。
グラフの始まり時点で、日本のGDPの世界シェアは約20%でした。いまは6%以下。中国の半分以下で、アメリカの5分の1の国になってしまった。

■「そんな国は日本だけ」過去20年でマイナス20%成長
【田原】消費税増税で、日本はここまでダメになった。

【藤井】はい。30年間で数千兆円規模というような大きな富を失った。税収も数百兆円規模で失った。
日本のプレゼンスも著しく失われた。
その結果、アメリカも中国もロシアも、日本を軽んじるようになってしまった。
最後にもう一つグラフを示します(図表5)。これはいま見た30年間のうしろ3分の2、20年間の各国のGDP成長率を、高い国から並べたものです。
世界平均は139%。中国は1400%というとんでもない成長をしていますが、当然ながら成熟国家は、それほど高い成長はしていません。
先進国、とくにヨーロッパ各国は、だいたい世界平均より下に並んでいます。

【田原】南アジアやアフリカのように、国民が若くこれまで貧しかった国は当然、高成長する。
高齢化が進んだ国は高成長しにくい。
移民を受け入れるアメリカは、若く働き盛りの100万人くらいの集団が国内で毎年生まれるから成長する。

【藤井】この悲しいグラフでわかるように、世界でダントツに取り残されてしまった国がわが日本です。
つぶれかけているんじゃないかといわれた南欧諸国すら、何十%か成長しています。
いちばんダメな日本は、なんとマイナス20%成長なんです。
日本政府も財務省も、メディアも経済学者も、なぜこんなことになったのか説明すべきです。
そして、日本の過去の経済政策が間違っていたことを認め、まともな政策に転換しなければなりません。 プライマリーバランス規律をはずしたうえでの「消費税0%」が、その大いなる一歩となる。日本は、いますぐそうすべきなんです。

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田原 総一朗(たはら・そういちろう)
ジャーナリスト 1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所へ入社。テレビ東京を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。著書に『起業家のように考える。』ほか。
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藤井 聡(ふじい・さとし)
京都大学大学院工学研究科教授 元内閣官房参与 京都大学大学院工学研究科(都市社会工学)教授、京都大学レジリエンス実践ユニット長。
1968年、奈良県生まれ。京都大学卒業、同大学院修了後、同大学助教授、東京工業大学教授等を経て現職。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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