2021年06月04日

実名報道も解禁!「少年法」厳罰化に抱く重大懸念

実名報道も解禁!「少年法」厳罰化に抱く重大懸念
成人と同じ刑事手続きで処罰される根拠が希薄
2021/06/03 東洋経済オンライン
戸舘 圭之 : 弁護士

18歳、19歳の少年の犯罪について厳罰化する内容の改正少年法が、2021年5月21日、参院本会議で与党の賛成多数で可決、成立した。
2022年4月1日に施行される。
今回の改正は、少年法が適用される20歳未満の者(「少年」)のうち18歳、19歳の少年を「特定少年」と別のカテゴリーに組み入れたうえで、「特定少年」については、少年法の適用を制限する方向で改正された。

具体的には、家庭裁判所から検察官に送致(「逆送」)される対象犯罪が拡大され、18歳、19歳の場合は、これまで以上に成人と同様の刑事手続きで処罰される少年が増えることになる。
さらには、少年が刑事裁判にかけられる際に適用されていた特例が適用されなくなる。

例えば、起訴された場合、少年の実名など身元が明らかになるような情報の報道も可能になる。
18歳、19歳の少年(特定少年)に関しては、少年法が適用される余地が大幅に少なくなる改正内容だ。

民法の成年年齢引き下げに合わせた改正だが・・・
今回の改正の理由について、政府は以下のように説明している。
「成年年齢の引下げ等の社会情勢の変化及び少年による犯罪の実情に鑑み、年齢満十八歳以上二十歳未満の特定少年に係る保護事件について、ぐ犯をその対象から除外し、原則として検察官に送致しなければならない事件についての特則等の規定を整備するとともに、刑事処分相当を理由とする検察官送致決定がされた後は、少年に適用される刑事事件の特例に関する規定は、特定少年には原則として適用しないこととする等の措置を講ずる必要がある。
これが、この法律案を提出する理由である。」

要約すると、成年年齢の引き下げなどの社会情勢の変化、少年による犯罪の実情に鑑みて、18歳、19歳の少年を「特定少年」とし、原則、少年法による保護手続きの対象から外すということ。
つまり民法上の成年年齢が18歳に引き下げられ、選挙権なども18歳から行使できるようになったことから、少年法も、18歳、19歳の少年については、なるべく成人と同様の取り扱いをしようとの考えでなされた改正だ。
これだけを見れば、問題ないように思える。だが、本当にそうなのか。

今回の改正にあたっては、日本弁護士連合会をはじめ、これまで非行少年の処遇に関わってきた家庭裁判所の関係者や研究者などからも反対、懸念の声が上がっており、国会審議においても野党は、「立法事実がない」などと反対の声を上げていた。 実際、少年犯罪が増加しているとか凶悪化しているというデータはなく、18歳、19歳の少年に限定はしているが少年犯罪について「厳罰化」を必要とする社会的事実(立法事実)は、ないのではないかといわれている。

そうだとすれば、民法上の成年年齢の引き下げを理由に少年法の適用を考える必然性は必ずしもないのではないかとも思えるし、18歳、19歳の少年を少年法の保護の対象から外してしまうことによる弊害のほうが大きいのではないかという懸念がある。
弁護士として、非行を犯した、あるいは、非行を犯したとされる少年の弁護を担当してきた筆者も、今回の改正は、少年法がこれまで果たしてきた役割を大幅に後退させて、結果的に、少年の再犯などが増加しかねない危険がある改正ではないかと危惧している。

少年法の大原則は刑罰ではなく「保護処分」
そもそも少年法とはどのような法律だろうか。
第1条では、 「この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。」 と、その目的を定めている。
少年の場合、「少年の健全な育成」をはかるために、刑罰ではなく「保護処分」がなされるのが大原則となっている。
これは、少年がいまだ成長発達段階にある存在であり、保護的な教育によって変わりうる存在であることから刑罰という形で制裁を与えるよりも、保護処分を行うほうが少年にとっても社会にとっても望ましいという思想(保護主義理念などともいう)に基づく。

このような少年法の基本的な考え方を受け、少年法は、警察などが把握したすべての非行少年について、家庭裁判所がすべての事件を受け入れて(全件送致主義)、家庭裁判所の主導の下、人間行動科学領域の専門的な知見を踏まえた保護処分が行われることになっている。
保護処分には、保護観察所の保護観察処分という社会内で少年の今後の更生を見守っていく処分と、少年院、児童自立支援施設、児童養護施設などの施設に収容して教育を行う処分がある。
特徴的なのは、家庭裁判所調査官という専門職による調査が行われる点にある。
家庭裁判所調査官は、人間行動科学の専門家であり、少年鑑別所における鑑別の結果をふまえて、少年、保護者または関係人の行状、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識を活用して調査を行うこととされている(少年法9条)。

家庭裁判所調査官は、専門的な観点から、少年や保護者からじっくり話を聞いて、非行事実をきっかけとしながらも、少年の家庭環境やこれまでの成育歴に問題がなかったか、あるとすれば、どのように改善していくことができるかを働きかけながら調査する。
また、審理を行う少年審判も、非公開で行われ、 「審判は、懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない。」(少年法22条) と、審判を受ける子どもの心情に配慮した人間味あふれる温かい手続きとすることを少年法は求めている。

実際、家庭裁判所では、裁判官は、刑事裁判の法廷で着るような黒い服(法服)を着ることなく、通常のスーツ姿で現れ、少年に対しても「〇〇君」「〇〇さん」など親しみを込めた呼び方をするなど、なるべく少年が委縮しないような配慮をしている。

非行に走らないよう成長することを促す機能がある
このように家庭裁判所では、非行を犯した少年に対して、単に、「少年院に送致する」などといった処分を決めるだけでなく、むしろ、家庭裁判所調査官による調査や少年審判などの手続き全般にわたって少年に対する働きかけや環境改善を模索し、関係者の協力を得ながら、少年が再び非行に走らないように成長していくことを促す機能(「ケースワーク機能」「福祉機能」「教育機能」などと呼ばれている)を持っている。

これは一見すると少年を「甘やかし」ているように見えるかもしれないが、実際は、「甘やかす」というよりも、少年に対する、手厚い「おせっかい」を大人たちが行うことで、少年が今後成長して成人になっていくための手助けをしているのが少年法なのである。
そして、このような「おせっかい」は、少年にとっては、成人と同様の刑事手続きで処理されるよりも負担が重くなることもある。
例えば、軽微な刑事事件の場合、成人は不起訴処分になったり、起訴されても執行猶予や罰金刑で処理されたりすることも多い。
ところが、少年の場合は、軽微な刑事事件であったとしても、家庭環境や成育歴、その少年が抱えている問題などが大きいときには、保護をする必要性(要保護性)が高いとして、少年院送致などの「重い」保護処分が選択されることもありうる。
少年法が少年にとって「甘い」面ばかりでないことは、もっと強調されてもよいと考えている。
そして、このような少年法の機能によって、少年非行対策はかなりの程度機能し、再犯などを防止していることも一般に承認されている事実である。

少年法は、なにより罪を犯してしまった少年の「立ち直り」を真剣に考え、科学的なアプローチにより、それを実践することを目指している。
これは犯罪対策としては、かなり先進的な取り組みであり、見方を変えれば成人の犯罪対策よりも手厚い扱いをしているということでもある。

実名報道が禁止されている理由
そして、過去に犯罪をするなどして「失敗」をしてしまった少年が、再び社会に帰ってきて、まっとうな成人として生活をしていくための制度的な仕掛けも少年法は用意をしている。
その1つが、少年法61条が定める「本人推知報道禁止」規定である。
少年法61条は、 「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。」 と定めている。

実名が報道されて身元が明らかになることにより、社会に戻ってくることが困難になると考えられる。
犯罪報道にあたって少年の個人情報を明らかにする必然性は必ずしもないことから、少年法は、本人推知報道を禁止している(罰則はないが、これに反した場合、不法行為による損害賠償請求責任を報道機関が負う可能性がある)。
ほかにも、懲役刑の場合の不定期刑、仮釈放の時期の早期化など、少年の立ち直りを重視した規定を少年法は設けている。

今回の少年法改正は、少年法上の「少年」年齢は従前どおり「20歳未満」のままとしながらも、18歳、19歳の少年については「特定少年」として、上記のような少年法の取り扱いを原則適用しないこととしている。
しかし、18歳、19歳の少年もいまだ成長発達段階にあることは、脳科学や発達心理学の知見からも指摘されているところであり、少年法の理念に基づく、ケースワーク的な働きかけが必要な存在であることに関しては、17歳以下の少年と何ら異なるところはないはずである。
最先端の犯罪対策を備えた法システム 少年法に関しては、「少年に甘い法律」であるなどといった実態を必ずしも踏まえていない誤解がまだまだ多く、少年による犯罪事件が報道されるたびに「少年法を廃止すべき」といった論調をみることも多い。

だが、少年法が制定から70年以上、18歳、19歳の少年についても多くの「効果」を上げていた実績については、もっともっと強調されるべきであるし、現実にも少年法は決して「少年に甘い法律」ではなく、最先端の犯罪対策を備えた法システムであることをあらためて指摘しておきたい。

少年法は改正されはしたが、これまで述べた少年法の基本的な考え方は、いまだ変更されておらずそのままであり、18歳、19歳の「特定少年」についても特例は設けられてはいるものの少年法の対象であること自体には変更はない。
筆者も少年事件にも付添人として関与することのある弁護士の1人として、今後の運用が少年法の理念から逸脱したものとならないよう注視していかなければならないと考えている。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(1) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
少年法を知り尽くしている犯罪者が居るのが問題
だから今回の19歳の殺人少年の名も報道されない。

起訴した段階ではまだ推定無罪なので実名報道はしなくてもいいけれど、確定した罪については年齢に関係なく実名報道が大原則だと思うのです (`・ω・´)ハイ!
Posted by タカやん at 2021年06月04日 09:45
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