「なぜ報じない!」自粛警察の“情報提供”攻勢に悩むテレビ局スタッフ
2021年07月01日 SPA!
コロナ禍で注目を集めた「自粛警察」。
日常生活のあらゆるシーンで他人の揚げ足をとり、痛烈に批判する。
最近は報道される機会も減りつつあるが、その活動が終わりを迎えたわけではない。
◆昼夜を問わず延々と続く“情報提供”に悩むテレビ局のスタッフ
東京都内のテレビ局の情報番組スタッフ・星野雅通さん(仮名)が頭を抱える。
「芸能人・Aのブログに酒を飲んでる写真が上がっていたとか、女優・Xのインスタに“密な動画”が上がっていたとか、毎日のように“情報提供”してくる人がいるんです。
最初こそ、へぇなんて思っていました。
ですが、1日に何度もLINEや電話をよこしてきては、なぜ取材しない、取り上げないのだと、とんでもない剣幕で言ってくる」(星野さん、以下同)
星野さんが件の情報提供者・Sさん(女性)と連絡を取り始めたのは、コロナ禍の初期である昨年春。Sさんの職場で複数名の新型コロナウイルス感染者が発生し、その惨状を訴えるSさんのSNSの書き込みを見つけた星野さんがDM(ダイレクトメッセージ)を送ったことがきっかけだった。
電話インタビューの結果、Sさんはその職場に在籍した事実はあれど、当時はすでに退職済み。
SNSの書き込みは知人から聞きかじった程度の情報、本人の思い込みからくる内容で、星野さんは報じるレベルにないと判断。
放送されるとは限らない、と断りを入れた上で丁重にお礼を述べて電話を切ったのである。しかし、悪夢はそこから始まったという。
◆SNSに「取材されました!」と大興奮の書き込み
「Sさんは、テレビ局に取材されたと大興奮の書き込みを何度も投稿して、ついには私の名前まで出して、持ち上げ始めたんです。
嫌な予感がしたので、早めに放送されることはない、とお伝えしたんです」
Sさんはこの時、まだ柔和だった。
「そうなんですか、残念です」と引き下がってくれ、星野さんに激励の言葉をかけてくれるほどだった。
しかし、胸を撫で下ろした星野さんの元に、同僚から連絡が入ったのはそれから一週間後のこと。
Sさんが星野さんの実名を出し、SNS上でテレビ局批判を繰り返していたのである。
「わかってもらえていたと思っていたので仰天しました。Sさんはテレビ局をマスゴミだと罵り、自分の貴重な情報提供が握りつぶされた、というような内容を書いていました。
しかし私については、会社と戦っている云々となぜか褒めてくれていて。ワケがわかりませんでしたが、電話でやめてくれないかと話しました」
そしてこの時もSさんは柔和なままだったが、星野さんのLINEには、毎日のようにSNS上で知ったと見られる「情報提供」が寄せられるようになった。
◆メディアを痛烈に批判
それは昼夜を問わず、あまりに多すぎるため、読むことも億劫だったが、星野さんが既読をつけるまで情報提供は続くため、嫌でも反応するしかない。
なかなか大変な人に接触してしまった、と思っていたところ、Sさんが大手新聞の記者を名指しで批判する投稿を繰り返しているのを発見。
芸能人の情報提供をしたのに無視された、裏で芸能界とマスコミは繋がっている……などと、記者やメディア批判はその後も止まらない。
そして、緊急事態宣言中に営業する店や、他県ナンバーの車両、公園でマスクなしで遊ぶ子どもたちの盗撮映像などを、星野さんの元に送りつけてくる。
「いわゆる自粛警察ですよ、それのハード版。盗撮がバレてモメているシーンもあって、もう地獄絵図としか言いようがない。私と同じようなメディア関係者は複数いて、みんな触らぬ神に祟りなしとばかりにスルーしています」
◆「私がやるしかない」
筆者もSさんのSNSにダイレクトメッセージを送ってみたが「マスゴミは信じないから電話はできない」とそっけない返答。
しかし、そのすぐ後に「私は正義のためにやっている、悪い人がいるから私がやるしかない」と持論を語り始めた。
SNSを活用している記者やメディア関係者は珍しくないが、自粛警察の「情報提供」に悩まされている人も多いのである。
ワクチン接種が進み、いよいよ「アフターコロナ」への期待も高まるなか、ほんのわずかな気の緩み、それが他人の言動なら断じて許さない、そんな独善的な「正義の人」たちの眼光は今も尚、鋭いままなのだ。
<取材・文/森原ドンタコス>
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