2021年09月20日

去る菅首相がやった仕事「勝手ランキング10選」

去る菅首相がやった仕事「勝手ランキング10選」
コミュニケーション最悪でも「実績」はあげた?
2021/09/19 東洋経済オンライン
かんべえ(吉崎 達彦)チーフエコノミスト : 双日総合研究所

株価が好調だ。
日経平均株価は再び3万円台に乗せて、さらに9月14日には31年ぶりの高値をつけた。
それもこれも政局の転換に期待してのことである。
上昇のピッチを加速させたのは、9月3日に菅義偉首相が自民党総裁選への不出馬を宣言したことがきっかけだ。
それが相場活況の原因と考えれば、ご当人の心境はいささか複雑なものがあるかもしれない。

現職不出馬時の自民総裁選は「必ず盛り上がる」 とはいえ、それ以前の市場の読み筋は、「自民党総裁選挙は不人気な菅さんが楽勝するけれども、その後の総選挙では自民党が大敗し、議席数を大幅に減らす」というものであった。
この場合、菅内閣は日本維新の会など野党に協力を求めつつ、低姿勢の政策運営が続くことが予想された。
大胆な新型コロナウイルス対策や、思い切った経済政策が打てるとは思えないので、相場もさえない展開が続くとみるのが自然であった。
ところが、菅さんは総裁選への不出馬を表明してくれた。
しかもその直前に、これまた不人気な二階俊博幹事長を「道連れ」にしてくれた。
これで一気に情勢が変わった。

9月29日に行われる自民党総裁選で誰が勝つにせよ、新総裁はたぶん菅さんよりは人気が出るだろう。
実際に、ここ2週間のマスメディアは完全に「総裁選モード」であり、野党の存在感が一気に霞んでしまった。
これなら続く総選挙でも、自民党はさほど負けないだろう。
さらに言えば「現職が引いた後の自民党総裁選は盛り上がる」という経験則がある。
@ 1998年には橋本龍太郎首相が辞任し、世に言う「凡人・軍人・変人」の三つ巴決戦となった。この戦いを制した小渕恵三氏は、尻上がりに支持率が上昇した。
小渕首相は惜しくも脳梗塞に倒れるが、それがなければ長期安定政権になっていたかもしれない。
A 森喜朗首相の辞任を受けた2001年の総裁選では4人が立候補した。橋本龍太郎氏優位との事前の観測をひっくり返し、党員票で圧倒的な支持を得た小泉純一郎氏が勝利した。
小泉首相は「聖域なき構造改革」を旗印に、長期政権への道を切り開いた。
B 自民党が野党として迎えた2012年の総裁選では、現職の谷垣禎一氏が再選を目指さなかった。
このときは5人が出馬し、最初の投票で石破茂氏が1位になったものの、決選投票で安倍晋三氏が逆転勝利した。
その3カ月後には衆議院が解散され、年末には第2次安倍内閣が発足する。
そして株式市場は「アベノミクス相場」に沸いたのであった。

ここから連想してみると、2021年総裁選も重要な政策転換の場となり、強力政権の出発点となるのではないかと思えてくる。
株式市場が好感するのも無理がないのである。
いかなる偶然か、このタイミングで新規感染者数も減り始めた。
8月末までのイヤ〜な雰囲気は一気に消え去った。
自民党としても株式市場としても、「ありがとう!菅さん!」と言いたいところだが、あらためてこの1年、菅内閣はどんな仕事を果たしてきたのか。

数え上げてみると、ビックリするほど多いのである。
菅政権の評価はどう行えばよい? 以下は筆者が勝手に10項目を選び出し、ランキングをつけてみたものだ。
1内閣が1年間で成し遂げた仕事とは考えられないほどの量である。
@ ワクチン接種体制の構築
当初、「1日100万回体制」はとても無理ではないかと思われたが、わが国におけるワクチンを2回接種した比率は9月12日時点で全人口の5割を超えた。
アメリカを抜くのはもう時間の問題だ。
A 東京五輪の開催。
いろいろ議論はあったにせよ、また無観客だったにせよ、とにかく大きな事故もなくイベントを終了させた。
「オリパラ」に参加したアスリートたちも、「ありがとう、菅さん」だろう。
B 「2050年カーボンニュートラル」の宣言。
かなり困難な目標となるが、大方針を決したことは歴史に残る仕事。
次期首相はこれを引き継いで、いきなり10月の「G20ローマ会合」や11月の「COP26」グラスゴー会合に出席しなければならない。
C デジタル庁の創設。
甘利明・自民党税制調査会長の言葉を借りれば、わずか1年でスタートにこぎつけたことは「日本新記録」の速さ。
約600人の小さな組織だが、「デジタル敗戦」と言われた過去を否定できるか、これからが勝負。
D 日米豪印による初のクワッド首脳(オンライン)会合、ジョー・バイデン大統領との日米首脳会談、コーンウォールG7会合出席など一連の外交成果。
外交文書に「台湾」という文言を入れることはG7のコミュニケにも踏襲されたが、もとはと言えば日米間で決めたこと。
これで長年の国際政治上のタブーを破った。
E 福島第一原子力発電所から出るトリチウム水の処分方法の決定。
安倍晋三内閣が先送りしてきた課題にメドをつけた。
F 携帯料金の値下げ。
結果的に約4300億円分の負担軽減となり、家計の可処分所得がそれだけ増えたことになる。   
G 最低賃金の引き上げ。
「最低時給1000円」を目指し、2021年は全国平均で28円と過去最高の上げ幅になった。
H 不妊治療への保険適用。
来年4月からスタートの予定だが、さかのぼって今年1月から助成を拡充。
年収730万円未満という所得制限も撤廃へ。
I 過去の積み残し法案の処理。
国民投票法案、種苗法、重要土地取引規制法など。
総じて安倍内閣8年間のやり残しを一掃した1年であった。

変な話、昨年秋にまだ人気が高かった菅内閣が解散に打って出ていれば、こんな形で退陣することはなかっただろう。
しかし菅さんはワーカホリック(いわゆる仕事中毒)首相であった。
仕事がしたくて仕方がなかった。
これらが結果として、上記ランキングにつながったのだと思う。

菅内閣が残した遺産とは?
とはいえ、菅首相はわずか1年で退陣に追い込まれた。
もちろん支持率低下のせいだが、その原因をひとことで言ってしまえば、コロナ対策への国民の不信感であり、この問題をめぐるリスクコミュニケーションの失敗であったように思える。
現在発売中の月刊誌『文芸春秋』10月号に、菅さんのインタビュー記事が掲載されている(菅義偉首相「正面からお答えします」)。
察するに8月下旬くらいに収録されたものとみえて、この記事の中の菅さんはまだまだ意気軒高、みずからの手による解散にも意欲を見せている。
聞き手の船橋洋一氏(アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長)は、インタビューの冒頭、いきなり言いにくいことを尋ねている。
「総理の記者会見については、『言葉が響かない』『聞かれたことに答えていない』などの声も聞かれ、評判は必ずしも芳しいものではありませんが、どのように受け止めていますか」
それに対する菅さんの答えは、「ああ、やっぱり」と感じさせるものであった。
「私自身、もともと能弁ではないし、そもそも政治家は『弁舌よりも結果だ』と。結果を残せばわかってもらえるという政治姿勢で今までずっと来たので、そういう考えが会見の姿勢に出てしまっているのかもしれません」
「どうしたら国民の言葉が届くのか、もう一度一からやり直さないといけないと感じています」

「一からやり直し」という総理発言に対し、船橋氏もかなり面食らった様子であったが、政治家が国民とのコミュニケーションに失敗してしまうと、いくら結果を出しても評価されなくなる、という典型例であろう。
そして菅さんは、(おそらく)このインタビューの数日後に事実上の退陣表明に至るのである。
新型コロナはやはり難物なのだ。
人々は見えない脅威に怯えていて、自分たちの思いが政府に届いているかどうか不安に感じている。
だからこそ政治家の発する言葉は重要になる。

紋切り型の対応や、「棒読み」スタイルではやはりマズいのだ。
ちなみに菅さんはこの後、国連総会のために訪米する。
9月24日には、日米豪印によるクワッド首脳会議に出席するとのこと。
3月に行われたオンラインのクワッド首脳会議に続く、初のリアル会合となる。
任期の最後まで「仕事中毒」を貫かれる覚悟のようで、これはこれでアッパレという気がする。

さて、自民党総裁選挙が始まった。
ここで選ばれた新総裁は、来月早々に召集される臨時国会において首班指名選挙を受け、わが国における第100代内閣総理大臣に就任することになる。
ワクチン接種体制やデジタル庁など、菅内閣が残した遺産を継承しつつ、内外の難題に立ち向かうことになる。
ただし、「コミュニケーションスタイル」という菅さんの負の遺産には、くれぐれもご注意願いたい(本編はここで終了です。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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