日本がいよいよ「貧しい国」になってきた…!
この国を「貧乏」にしている"本当の原因"
10/20(水) 現代ビジネス
加谷 珪一
全世界的な資源価格・資材価格の高騰に加え、円安が進行している。
輸入価格の上昇によって、多くの製品が値上がりしているが、ここに円安が加わると目も当てられない。
日本は各国に対して完全に「買い負け」状態となっており、日本の消費に深刻な影響が及ぶ可能性も出てきた。
ガソリンから食品まで何もかもが値上がり
このところ原油をはじめとする資源価格が高騰している。
2020年には40ドル前後だった原油価格は、すでに80ドルを突破しており、1年で約2倍になった。
ガソリン価格は基本的に原油価格に連動するので、小売価格も急上昇しており、10月初旬におけるレギュラーガソリンの価格は全国平均で162.1円まで上がっている。
価格が上昇しているのは原油だけではない。
過去1年で天然ガスは4.5倍、石炭は3倍、アルミニウムは1.6倍、銅は1.4倍などあらゆる資源価格が上昇した。
同時に食糧価格も高騰しており、同じ期間で小麦は1.3倍、砂糖は1.6倍、大豆は1.3倍、鶏肉は1.7倍、牛肉は1.3倍、パーム油は1.6倍である。
資源価格が高騰すれば、これらを用いて製品を製造するメーカーの利益が減少するので、最終的には値上げを決断せざるを得ない。
10月から和洋菓子やマーガリン、コーヒーなど食品類が軒並み値上げとなっているが、スーパーなどに買い物に行った時に気付いた人も多いのではないだろうか。
建設資材も上昇しており、デベロッパーは利益の確保が難しくなっている。
コロナ危機にもかかわらずマンション価格がまったく下がらないのは、資材価格の高騰が原因である。
困ったことに、原材料の価格が高騰していることに加え、半導体不足も深刻な状況となっており、AV機器や家電、自動車の生産にも影響が及んでいる。
プリンターやカーナビ、ゲーム機などは、すでに品薄で手に入りにくい状況となっているほか、パソコン関連の製品価格も実質的な上昇が続いている(パソコンはスペックが次々に変わるので同一条件での比較が難しいが、同一クラスに属する製品価格は昨年比で2割近く上がっている印象だ)。
資源価格・資材価格高騰の直接的な原因は、コロナ後の景気回復期待による需要の急拡大だが、背景にはもっと複雑な事情がある。
全世界的な経済成長によって途上国の生活水準が上がっており、数年前から資材の争奪戦ともいえる状況が続いてきた。
各企業は旺盛な需要に対応するため、全世界にサプライチェーンを拡大してきたが、コロナ危機によって調達網がズタズタになってしまい、思うように資材が調達できなくなった。
加えて各企業は、コロナ危機をきっかけに従来型の巨大なサプライチェーンについてリスク要因と見なすようになっており、規模の縮小と近隣調達化を進めている。
多少、価格が高くてもリスクの低い地域からの調達を優先するので、どうしても価格は上がってしまう。
こうしたところに、アフターコロナ社会ではAI(人工知能)化が一気に進むとの予想が出てきたことから、各社がIT投資を前倒しで実施。
これによって半導体も逼迫し、何もかもが品薄で価格が上がるという、ある種の異常事態となっている。
物価高と円安のダブルパンチ
日本は過去30年間、ほとんど経済成長できておらず、実質賃金はむしろ下がり続けてきた。
一方、諸外国は同じ期間で経済規模を1.5倍から2倍に拡大させており、賃金や物価もそれに伴って上昇している。
為替レートはあまり動いていなくても、日本の物価が横ばいで、海外の物価が上昇すれば、為替が安くなったことと同じ効果が発生する(例えば1ドル=100円で、海外から2ドルの商品を輸入すれば、日本人は200円を支払う必要があるが、海外の商品が3ドルに値上げされれば、為替レートが同じでも300円払わないと同じ商品を購入できない)。
物価の違いを考慮した日本円の各国通貨に対する為替レート(実質実効為替レート)を見ると、現在の為替水準は1970年代半ばとほぼ同水準であり、現時点における日米の賃金格差も70年代のレベルまで拡大している。
言い方を変えれば、日本はすでに事実上、1ドル=200円程度の貧しい時代に逆戻りしていることになる。
近年「生活が苦しくなった」「日本が貧しくなった」と感じる人が増えているのはこれが原因だが、こうしたところに到来したのが今回の物価高騰である。
しかも困った事に、海外の物価上昇に加え、名目上の為替も円安が進み始めている
9月後半まで1ドル=110円前後だったドル円相場は、10月に入って1ドル=114円を突破した
このまま円の下落が続いた場合、海外の物価高に円安というダブルパンチになってしまう。
かつて日本は輸出大国だったが、現在ではむしろ輸入大国となっており、原油や天然ガスなどエネルギー関連で約10兆円、電気機器類で約12兆円、衣類などで約3兆円、医薬品で約3兆円、食品類で約7兆円など、合計で年間約70兆円の輸入を行っている
輸入された原材料や部品の一定割合は最終製品として再輸出されるが、残りは日本国内で消費される。
過去10年における全世界の平均物価上昇率は3.3%だったので、日本は同じ金額で買える輸入品の量を3.3%ずつ減らしてきた計算になる。
70兆円という輸入金額に単純にこの数字を当てはめれば2.3兆円であり、この金額分だけ日本人は毎年、損をしていると思って良い。
このまま資源価格の高騰と円安が続いた場合、全世界の物価上昇率もさらに上がるので、日本人が被る損失はさらに巨額となるだろう。
量的緩和策を継続していることも大きい
ではなぜ、このタイミングで円安が進んでいるのだろうか。
基本的には米国の金利上昇とインフレ懸念が原因とされる。
金利上昇をポジティブに捉えれば、米国の景気がさらに拡大するのでドル買い要因だが、ネガティブに見ればインフレによる通貨価値の毀損となり、本来ならドル安である。
だが、日本は先進各国の中でもっともインフレに対して脆弱な経済構造であり、日本経済への悪影響を懸念した投資家が積極的に円を売っている可能性がある。
これは、いわゆる「日本売り」ということなので、継続するとやっかいな事態となりかねない。
これは構造的な問題であり、すぐに改善することは不可能だが、短期的な効果をもたらすはずの金融政策においても日本は事実上、身動きが取れない状況だ。
米国など諸外国が金融正常化に動く中、日銀だけが量的緩和策を継続しており、この状態は通貨価値を下げる要因となる。
だが岸田政権は量的緩和策を継続するとしており、日銀が正常化に向けて動き出す気配はない。
構造的に円安になりやすい状況に加え、金融政策でもマネーの供給を続ける形となっており、円安が進む条件が揃っている。ここからもう一段の円安が進んだ場合、日本人の実質的な可処分所得は大幅に減るので、国内消費は深刻な影響を受けるだろう。
緊急事態宣言が解除され、経済の回復を多くの人が期待しているが、残念なことに海外の物価高と円安がその効果を打ち消してしまうかもしれない。