2022年04月12日

池上彰、親が思う"いい会社"が要注意である理由

池上彰、親が思う"いい会社"が要注意である理由
「18歳成年時代」に親も知っておきたい新常識
2022/04/11 東洋経済オンライン
池上 彰 : ジャーナリスト

法律の改正で4月1日から「18歳」に引き下げられた成年年齢。
これにより、18歳からは親の同意なしに「ローンを組む」「賃貸物件を契約する」といったことも可能になった。
そんな時代に突入した今、親である私たちは“大人の先輩”として子どもたちに何を教えていくべきか。
契約の仕方など実務面の知識ももちろん大事だが、それ以前に、今の世の中を渡るために最低限知っておくべき“仕組みやルール”こそ、親として伝授すべきではないのか。
この記事では、新刊『これから大人になる君たちへ 学校では教えてくれない未来を生き抜くヒント』を監修した池上彰氏に、「仕事」に対する“基本的視点”をわかりやすく解説してもらった。

なぜ働かなければならないのか?
子どもはいずれ学校を出た後、各個人で時期は違えど、ほぼ働くことになりますが、「なぜ働かなければならないのか?」というそもそも論を考えたとき、その理由は主に2つ挙げられます。
私たち大人は、少なからず“身にしみて”その理由を知っているでしょうが、子どもは大人になって働くようになって初めて、働く理由のリアルを感じていくことになるはずです。

働く理由の1つ目は「生きていくため」です。
人は働くことにより、給料(または報酬)という形でお金を得ます。
そのお金で食べ物や衣服を買ったり、家賃などを支払ったりします。
自分だけではありません。
家族がいれば、家族が生活するためのお金も働いて得なければなりません。

そして2つ目は「生きがい・やりがいのため」。
働くことで自分自身を成長させ、自分の希望を叶えるのです。
人間は、社会の中で誰とも関わらず1人だけで生きていくのはなかなか難しい。
だから、働くことでモノやサービスを生み出し、それを受け入れられた対価としてお金を得ることになるわけです。
たとえ目の前に「ありがとう」と言ってくれる人がいなくても、働いてお金をもらえるということは、つまり、自分の仕事に感謝してくれる人が間接的にでもいる、ということなのです。

もちろん、お金を稼ぐのは「自分のため」でしょう。
でも実は、家族や社会など「自分以外の誰かのため」に大人は一生懸命働いている。

人は社会に出て働くことで、責任ある「社会の人に喜んでもらえて自分の生活が成り立つ、そんな意味のある仕事をこれから大人になっていく子どもたちがちゃんと見つけられればもちろんこのうえないのですが、親である以上、自分の子がいざ働くという局面になった際、“大人の先輩”として自分自身の経験を説得力を持って伝えるためにも、まずは私たち親自身が「働く理由」についてしっかりと振り返っておく必要があるでしょう。

そもそも「いい会社」とは?
ところで、「いい会社」と聞いて、どんな会社をイメージするでしょうか。
親なら、子どもに「将来いい会社に入れるといいけれど」などと言ったおぼえがある方は少なくないはずです。
でも、よく言う「いい会社」とはいったいどんな会社なのか。給料をたくさんもらえる会社でしょうか、それとも誰もが知っている有名企業でしょうか。
まず、給料が高い会社は時代によって違ってきますし、人気のある会社も同様です。
例えば、第2次世界大戦が終った頃には石炭関連の会社が人気でした。
当時、石炭は「黒いダイヤ」と呼ばれ、産業の発展になくてはならないものだったからです。

数十年前には、多くの人が銀行に入りたがりました。
しかし、厳しい経営に直面し、リストラに踏み切るところも増えました。
また、旅行会社や航空会社なども人気でしたが、新型コロナの影響で国内外の移動が制限されたりしたこともあり、旅行・航空業界は大きな危機に立たされました。
どの時代も、そのときに業績が好調で名の知れている会社が人気にはなるものの、そうした会社の人気は永遠に続くわけではない。
だからこそ、大人になったときに働きたい会社について子どもと話すような機会には、「人気があるかどうか」という視点に親自身が偏りすぎないようにしなければなりません。

大事なのは、これから大人になっていく子ども自身が、憧れる仕事を「かっこいい」「面白そう」と思えるかどうか。「高給取りのお金持ちなる」という夢ももちろん悪くはないのですが、「何になるか」よりも「何をするか」をちゃんと考えさせること、それこそが子どもの将来にとって必ず重要になる。これまで働いてきた大人なら、それが本当に大事なことだというのはわかっているはずです。

 「ワーク・ライフ・バランス」を本当に理解しているか?
ここ最近で、だいぶ世に広まった感のある「ワーク・ライフ・バランス」の考え方。仕事と生活のバランスをとる生き方を指すのはご存じのとおりです。
たしかに、生活を支え、生きがいややりがいも感じられる仕事に就いたのはいいものの、仕事に打ち込むあまり心身の健康を損なって人生を楽しめなかったりしたらもったいないことですし、「働くだけが人生じゃない」という観点からも大事な考え方でしょう。
アメリカなどほかの先進国に比べ、日本は労働生産性がだいぶ低いといわれています。
労働生産性とは、1人ひとりがどれだけ効率よく働いて富や成果を生み出しているかを示す指標ですが、多くの時間を使い、身を粉にして働いても、それが仕事の結果に結びついていないとしたら悲惨なことです。

ワーク・ライフ・バランスは「仕事をほどほどに」というものではありません。
やりがいや充足感を感じながら働いて仕事の責任を果たし、そのうえで健康的で豊かな生活を送るための時間も確保するという考え方です。
大人に近づいていく子どもに、働くうえで見失ってはいけない新しい考え方を、親自身が意識しているか。これからの親の役目としてそれを教えることも大事だろうと思います。

最近では、仕事と生活の境界線をなくす「ワーク・ライフ・インテグレーション」という考え方にも注目が集まっています。仕事も生活も同じ人生の一部、そうとらえて柔軟に働くことで人生をより豊かにしようという考え方です。
テレワークが一般化してきている今、このワーク・ライフ・インテグレーションも前述のワーク・ライフ・バランスも、まさに時代に即した考え方かもしれませんが、「働くだけが人生ではない」という観点がまだ一般的ではない時代に大人になった親世代は、今の子どもたちはそうした新しい考え方を常識とする世の中を生きていくのだということを、今一度、柔軟に意識しておく必要があるでしょう。
以上この記事では、これから大人になる子どもたちが「今の世の中を生きていくために知っておくべきこと」のうち、「仕事」に関するトピックスをざっと解説しました。 私たち大人にとってはいわば「当然のこと」かもしれませんが、振り返ってみれば、定年まで1つの職場で働き続けることを理想とする時代はすでに過ぎ去り、すっかり一般化した「転職」はもちろん、「副業」を認める会社もどんどん増えてきています。
「仕事」の周辺は、新しい常識にとって代わられてきているのです。
大人として、そして親としてあらためて把握しておくべき「仕事」の常識。
私たちより2年も早く大人になる子どもたちに、働くことの意味と常識を“早めに”伝えていく。
それこそが、今どきの親としての“ニューノーマル”なのではないでしょうか
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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