2022年06月05日

迫る参院選で「優勢」の岸田自民党、実は死角だらけ

参議院選で優勢の岸田自民党、実は死角だらけ
コロナ対策や景気対策、防衛費増額など難題山積
2022/06/04 東洋経済オンライン
星 浩 : 政治ジャーナリスト

参院選の投開票(7月10日の見通し)が迫ってきた。
日米首脳会談などの外交日程をこなした岸田文雄内閣の支持率は堅調で、野党が勢いを欠いているため、自民党の優勢が伝えられている。
だが、ウクライナ戦争による資源高や急激な円安で物価が急騰。年金の減額など国民生活の困窮も広がる。

岸田自民党の足元は、盤石とはいえない。
その死角を探ってみよう。

 防衛費増額を主導しようともくろむ安倍元首相
「クアッド」の4首脳会談でも中国の海洋進出を牽制するなど、日本外交の存在感を示した。
防衛費は現在、約5.4兆円で国民総生産(GDP)比は1%程度。
自民党内では、5年以内に北大西洋条約機構(NATO)並みの2%程度に引き上げるべきだという意見が強まっている。
そのためには毎年1兆円ほどの増額が必要になる。
これに対して、野党の立憲民主党や共産党は「防衛費の中身の議論がないまま増額が優先されている」と強く反発している。

財政状況が厳しい中、防衛費増額分の財源の確保も難しい。
@国債増発、A社会保障などの経費削減、B増税、といった選択肢が考えられるが、いずれも容易には受け入れられそうにない。
安倍晋三元首相は、来年度の防衛費について「6兆円後半から7兆円が見えるくらいの増額」を提案。
この問題を主導しようと狙っている。
安倍氏はさらに、ウクライナ戦争でロシアのプーチン大統領が核兵器の使用を示唆したことに関連して、日本にアメリカの核兵器を置く「核共有」についても議論すべきだと主張。
岸田首相は「非核三原則を遵守し、核共有は議論しない」と明確に否定した。

防衛費や核共有をめぐる議論は、参院選で大きな争点となることは必至だ。
岸田首相は野党からの批判にさらされる一方で、安倍氏らの主張も無視できず、板挟みになる可能性がある。
安倍氏は財政問題をめぐる論議でも波乱要因となっている。
自民党内では来年度の予算編成に向けて財政再建を唱える麻生太郎副総裁や額賀福志郎元財務相らのグループと、財政出動を訴える安倍氏や西田昌司参院議員らのグループとの対立が激しくなっている。

岸田首相は当面の景気対策のための財政出動は容認しつつも、将来的な財政再建の必要性を重視する立場。
麻生、安倍両氏に挟まれている岸田氏は、参院選の論争で立場を明確にするよう迫られるだろう。
防衛費だけでなく、医療費などの社会保障や教育関連経費など歳出増が予想されるのに対して財源を確保するための増税に踏み切るのか。岸田首相は参院選の党首討論などで追及されるだろう。
そこで、増税を打ち出せば反発を招くし、増税を否定すれば「無責任」といわれる。
どっちつかずの対応を続けるようだと、「優柔不断」との指摘を受ける。
岸田首相にとっては綱渡りの論争になる。

物価高騰も懸念材料
岸田首相にとって、物価高騰も懸念材料だ。
ウクライナ戦争で世界的な原材料高が続いているのに加え、急激な円安が消費者物価を押し上げ、4月は対前年同月比2.1%を記録した。
消費税率引き上げのケースを除けば13年ぶりの上昇率である。

野党側は「岸田インフレ」と批判を強めている。
アベノミクスによる金融緩和で進んだ円安は当初、輸出企業の業績を好転させ、株高につながった。
しかし、アベノミクスでは成長戦略や構造改革が立ち遅れ、日本経済は停滞。
日本経済の弱さを示す「悪い円安」が続いている。

今回の円安は、金利引き上げを続けるアメリカとマイナス金利の日本との「金利差」にも起因している。
政府・日銀は、円安による物価高への影響は「全体の3分の1程度」と分析しているが、金融緩和・低金利政策から脱却できない岸田政権の経済政策が批判にさらされている。

年金の減額も政権批判につながる可能性がある。
平均給与が下がっているため、それに連動する公的年金も引き下げられる。
厚生労働省によると、4月から国民年金が月額259円下がって6万4816円、厚生年金(夫婦2人分、モデルケース)が月額903円下がって21万9593円になるという。

首相官邸のスタッフは「4、5月分の年金が6月15日に支給され、郵便局や銀行の口座で減額を知った高齢者が政権に不満を募らせるではないか」と気をもんでいる。
野党側はここぞとばかり、「高齢者へのしわ寄せ」と批判するだろう。
政権側は、低所得者には給付金支給などで対応していると説明するだろうが、高齢者の理解が得られるとは限らない。

岸田首相は「新しい資本主義」を掲げてきたが、当初、目玉だった格差是正のための富裕層増税は、株式の売却益や配当への課税強化が見送られた。
代わって「人への投資」などが強調されているが、予算の裏付けも乏しく、世論の関心も集めていない。
一方、新型コロナウイルスの感染対策で、岸田政権はワクチン接種で出遅れ、医療体制強化のための法整備も進めていない。このところ、新規感染者数は減少傾向にあり、この間に検査や医療の体制整備を急ぐ必要があるのだが、医師会などの抵抗もあり、抜本的な改革は進んでいない。

細田議長のセクハラ疑惑、「桜を見る会」問題も 自民党の不祥事にまつわる報道も止まらない。
自民党最大派閥の清和会(現在は安倍派)の前会長でもある細田博之・衆院議長の女性記者らへのセクハラ疑惑は週刊誌をにぎわしている。
安倍氏が首相在任中に開催した「桜を見る会」は、大勢の地元後援会員を招待するなど公私混同が明らかになったが、その前夜祭に安倍事務所が資金補填していたことに加え、こんどは大手飲料メーカーのサントリーが大量の酒を無償で提供していたことが発覚。野党側は批判を強めている。

こう見てくると、いまの岸田自民党は「突っ込みどころ満載」なのだが、参院選は盛り上がりを欠き、岸田自民党は安泰という見方が大勢となっている。
なぜか。主な理由は2つだろう。
まず、ウクライナ戦争や中国の台頭によって、日本でも安全保障についての関心が高まり、アメリカとの同盟関係を強め、国内的にも防衛力を整備していくことが必要だという国民の意識が強まっている。
それが自民党政権の安定を求める意識にもつながっているだろう。

加えて野党の分断である。
2016年、2019年の参院選で野党陣営は1人区を中心に連携し、一定の成果を出した。しかし、2021年の衆院選で立憲民主党と共産党が連携したにもかかわらず、伸び悩んだ。
それを受けて、同じ旧民主党系の国民民主党は国会での予算案の採決で賛成に回るなど自民、公明の与党に接近。
維新も立憲民主党とは距離を置いて独自の路線を歩んでいる。

この参院選で野党候補は乱立模様で、結果的に自民党候補を利する形となっている。
参院の定数は現在245。今回124議席が改選される(比例区50、選挙区74=補選を含む)。
自民、公明の与党には、非改選の70議席があるので、過半数の123議席を占めるには今回、53議席を確保すればよい。自公両党は、前回(2019年)70議席、前々回(2016年)76議席を取っているので、岸田首相にとってのハードルはかなり低い。

「憲法改正は急ぐ必要はない」が岸田首相の本音
参院選が波乱のないまま、自公の勝利、岸田政権の存続となったとしても、ここに列挙してきたさまざまな政策課題は、選挙後も待ったなしで取り組まなければならないものばかりである。
自民党内には、参院選で勝利したら憲法改正に取り組むべきだという意見もあるが、実際にはコロナ対策や景気対策、防衛費増額など当面の難題が山積しており、憲法改正に注ぐ政治的エネルギーは残らないだろう。
岸田首相はそもそも、宏池会の「護憲DNA」を引き継いでおり、憲法改正を急ぐ必要はないというのが本音だ。
当面の政策課題に政権の力を振り向けることになるとみられる。

岸田首相が参院選を乗り切れば、任期が3年あまり残っている衆院の解散・総選挙は当面なさそうだし、次の参院選は3年後。そのため、政権にとっては「黄金の3年間」となるという見方がある。
だが、それは政策課題に疎い「政局記者」たちの皮相な見立てだろう。
参院選を勝ち抜いても、岸田首相を待つのは「黄金の3年間」ではなく、次々と難題に直面する「七転八倒の3年間」になるだろう。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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