「デマを拡散してしまう人」の残念な心理
2022年06月12日 ダイヤモンドオンライン
「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』がついに日本に上陸した。
ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。
■「人の注意を引きやすい情報」の共通点
人間はなぜ、嘘の情報にそれほど引きつけられるのか。
なぜ、みすみす嘘を拡散してしまうのか。
私と、ソルーシュ・ヴォソウギ、デブ・ロイの3人は、この問いに関して、「新奇性の仮説」という仮説を立てた。
新奇なものは人間の注意を引きつける。
驚いたり、感情を大きく動かされたりすると、その原因となったものに注目するのだ。 それまでの価値観、世界観を変えさせられるような事実を知ると、
人はそれを誰かと分かち合いたいと思う。誰かに知らせれば、知らせた相手も自分と同じように、新たな秘密を知り得た特別な人間(3)になれるだろうと思うのだ。
■嘘であっても、新しい奇抜な情報はリツイートされやすい
そういう仮説を立てたうえで、私たちは10年分のツイッターのデータを分析した。
フェイク・ニュースが実際に、真実のニュースより新奇性の高いものになっていたかどうかを検証したのだ。
また、ツイッターのユーザーたちが、新奇性の高い情報をそうでないものより多くリツイートしていたかも検証した。
私たちは、ツイッター上で内容が真実であるか嘘であるかを問わず、ともかく何らかの噂のツイートをリツイートしたユーザーたちについて詳しく分析してみた。
その人たちが、リツイートの前の60日間に触れた全ツイートの内容を精査し、それとリツイートした噂のツイートの内容とを比較したのだ。
すると、両者のあいだには、一貫した傾向が見られることがわかった。
どのユーザーも、自分がそれまでに目にしてきたツイートに比べて新奇と感じる内容のツイートをリツイートしていたのだ。そして、嘘の噂、つまりフェイク・ニュースを、真実の噂、ニュースに比べて新奇と感じるユーザーが多かった。
■「新しい奇抜な情報」を競いあって発信している
今のように「アテンション・エコノミー(人々の関心、注意が経済的な価値を持つという考え方のこと。第9章で詳しく触れる)」が重要視される時代には、フェイク・ニュースを流すことには一定の合理性があると言える。
ソーシャル・メディアに流れる情報(ミーム)は、私たちの乏しい関心、注目を少しでも多く得ようと互いに競争している。
そのなかで新奇なミームは、多くの人の注目を得て、その人たちの消費、行動を操ることができるし、多くの人に拡散に協力してもらうこともできる。
■嘘の噂で、驚きと嫌悪感を抱かせられている
ただ、嘘の噂が真実の噂に比べて新奇だと判断したのは、あくまで分析した私たちの主観かもしれない。
実際にそのツイートを見た本人はそう感じていない可能性もある。
そこで私たちは、この「新奇性の仮説」の正しさをさらに検証すべく、ユーザーたちのリプライを分析することにした。
嘘の噂、真実の噂それぞれに、どのようなリプライをしているかを見て、その噂に対して抱いている感情を読み取ろうとしたわけだ。
それでわかったのは、嘘の噂のほうが、真実の噂に比べ、ユーザーに大きな驚きや強い嫌悪感を抱かせていたということである。
これは「新奇性の仮説」を裏づける結果だと考えられる。
それに対し、真実の噂のほうは、悲しみや期待、喜び、信頼などを抱かせることが多かった。
この結果を見ると、新奇性に加え、フェイク・ニュースのどのような要素が人々にリツイートを促すのかもわかる。
フェイク・ニュース拡散のメカニズムを理解するには、まず人間がいかにフェイク・ニュースに影響されやすいかを知る必要があるだろう。
(本記事は『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』を抜粋、編集して掲載しています。)