2022年06月16日

「都合のいい労働者?」フリーランスの過酷な実態

「都合のいい労働者?」フリーランスの過酷な実態
搾取からの保護と自由な働き方の保障という難題
2022/06/15  東洋経済オンライン
有馬 知子 : フリージャーナリスト

契約上は企業などから業務委託を受ける個人事業主だが、その実態は限りなく雇用された労働者に近い。
そんな「労務提供型」のフリーランスが、発注者とのトラブルに巻き込まれるケースが増えている。
政府は兼業・副業と並ぶ新しい働き方として、フリーランスの環境整備を進めている。
しかし企業にはフリーランスを、社会保険料や残業代が不要な「都合のいい労働者」と見なす風潮も、いまだに根強いことがうかがえる。

「雇用と一緒」が一転「あなたは業務委託」
「契約を結ぶ際、業務委託契約なのに発注者が働き手に『実際は雇用しているのと同じですよ』などとごまかしの説明をして安心させ、(契約書に)ハンコを押させるといった事例もあります」
フリーランスの契約上のトラブルなどの相談窓口「フリーランス・トラブル110番」を運営する第二東京弁護士会の堀田陽平弁護士は、上のように話す。

働く側が、雇われているのだから雇用も賃金も保障されていると思っていたら、突然、契約解除や報酬引き下げを言い渡される。
抗議すると「あなたは業務委託だから」と言われる……といったトラブルが起きているのだという。

企業側にとっては、本来は直接雇用すべき労働者を個人事業主扱いにすれば、社会保険料や残業代の支払いが不要になる。
正社員に適用されるような、厳しい解雇規制に縛られることもない。
堀田弁護士は相談の中でも、とりわけ深刻なのが「ひとつの発注者からの報酬で生計を立てている人が突然、一方的に契約を解除されるケース」だと指摘する。
内閣官房が2020年に実施した「フリーランス実態調査」(回答数9392)によると、フリーランスの40.4%が、1社だけと取引していた。
堀田弁護士によると、契約によっては一定期間、同業他社で働くことを禁じる「競業避止義務」を課せられ、仕事を失った後も次の顧客探しが難しくなるケースがあるという。
「特に運送業や建設業は、業務量の多さなどからほかの仕事をする余裕のないケースもしばしばあり、契約を一方的に解除されると、突然生計の手段を失ってしまう。
かなり困窮した人から『明日のお金がないんです』という訴えもあります」

昨年4〜9月に「110番」に寄せられた相談のうち、最も多かったのが報酬の全額不払い
次いで契約条件の不明確・契約書の未作成だが、これも実態は「契約上の報酬設定があいまいなことなど、金銭に起因する相談が多い」(弁護士会)という。
3番目が、発注者からの一方的な報酬減額だった。

業務委託の場合、発注者は任意で契約を解除でき、受注者に損害が生じたとしても賠償金を支払うなど「お金で解決」することが可能だ。
一方、報酬引き下げや業務の追加など、契約内容の変更には発注者と受注者、双方の同意が必要で、発注者の一方的な変更は、本来は法的に有効ではない。
しかし立場が弱いフリーランスの場合、引き続き仕事を得るため、泣く泣く変更に応じざるをえないことも多い。
報酬が支払われなかった時も、時間的・経済的な余裕がない、立証に必要な証拠をそろえられないといった理由から、法的手段に訴えず「泣き寝入り」しがちだ。

また堀田弁護士によると、意外と多いのは受注者からの「契約を解除したい」という相談だ。
請負契約の場合、発注者の債務不履行や当事者間での特別な取り決めがない限り、受注者が一方的に契約を解除する権利はない。
このため働き手が、発注者にハラスメントまがいの対応をされたり、過重な業務を課せられたりして「もうやめたい」と申し出ても、「中途解除は契約違反なので損害賠償を請求する」などと言われ、やめられないケースが多いのだという。

「受注者側も契約内容はきちんと果たす、自分にできる業務かどうか確認してから仕事を受ける、といった心構えは必要。
しかしドライバーが極端に長い運転を強いられ、健康を損ねているのに仕事を続けざるをえないといった場合は、大事故にもつながりかねません」

新卒も…若者の無知に付け込む
フリーランスの労働問題に詳しい川上資人弁護士は、新卒学生が「エステの会社に就職しました」と言うので話を聞くと、実はエステティシャンとして業務委託契約を結んでいた……など「就職とは名ばかりで、契約上はフリーランスだった、という事例が増えています」と話す。
「若い世代は、正社員と個人事業主の違いなどの知識があまりないうえに『フリーランス』という語感の良さにも目をくらまされ、危機感を持たず契約してしまう。
その結果、無知につけこんだ会社側に都合よく使われてしまうのです」と、川上弁護士は批判する。

「かつての個人事業主は、経験豊かな専門職や自営業者が主流でした。
しかし現在、フリーを名乗る若者の多くは、被雇用者とほぼ同じ役務提供型の働き方をしています。
スキルも経験もない若者が何の保障も得られず、それがいかに危ういかすら、認識できずにいるのです」

川上弁護士が関わる「ウーバーイーツユニオン」「ヨギーインストラクターユニオン」「ヤマハ音楽講師ユニオン」の3団体は今年5月、フリーランス同士の情報交換や政策提言のプラットフォームとして「フリーランスユニオン」を結成した。
「多くのフリーランスは発注者の指示のもとに労務を提供して対価を得ていて、雇用された働き方と大差はない」として、労災や年金、出産・育児・介護休暇に関する、フリーランスと従業員間の格差是正などを訴えている。

厚生労働省、中小企業庁、内閣官房などは今年3月、共同でフリーランスの働き方に関する「ガイドライン」を定めた。
しかし川上弁護士は「ガイドラインは、弱い立場の個人事業主にとって最も深刻な問題である、契約解除についての記載が不十分。
発注者側は『やむをえない事情』がない限り契約を解除できない、という判例を明文化するなど、実効性のあるフリーランス保護を打ち出すべきだ」と批判した。

副業者からワープアまで 多様なフリーランス
前述した「フリーランス実態調査」によると、フリーランスの国内人口は462万人と試算される。
また世帯の生計を担う人の平均年収は、200万円以上300万円未満の人が19%と最も多かった。
ただ副業としてフリーランスを選択する人も248万人と、本業フリーランスの218万人を上回る。
このように、フリーランスにはワーキングプアに近い層から、成長ややりがいを求めて副業を持つ人、1000万円を超える年収を稼ぎ出す高度専門人材ら、幅広い人々が含まれる。
多様な働き手を同じ「フリーランス」とくくって法整備をすることに、疑問の声も上がる。

堀田弁護士も「発注者の搾取や理不尽な対応は是正すべき」としつつ、フリーランスの多様性を踏まえ以下のように語る。 「やむをえずフリーランスになった人もいる一方、自由な働き方を自ら選択した人も多い。こうした人たちをも労働者的に保護すると、同時に拘束力も強まり、雇われているのと同じ状況に戻りかねません。これは彼らにとって、望ましい姿ではないでしょう」

雇用の流動性が高まる中、近年は大企業も、プロジェクトベースで外部のプロ人材を迎え入れたり、退職者を社内事情に通じた「アルムナイ」として、業務委託の形で巻き込んだりし始めている。
規制が強まると「ようやく社外人材を取り入れ始めた企業の発注意欲が低下し、かえって柔軟な働き方が広まらなくなってしまう懸念がある。
バランスが重要なのです」とも、堀田弁護士は指摘した。

岸田政権は昨年11月、フリーランス保護のための法律を早急に国会提出するとの緊急提言を出した。
搾取される「名ばかりフリーランス」を保護する一方、フリーランス本来の多様性や、自由な働き方をも保障するという、両面の環境整備が求められそうだ。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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