国民年金「45年加入」に延長検討の“年金バカヤロー改悪” 失敗に終わった「100年安心改革」
10/27(木) マネーポストWEB
岸田政権は年金改悪プランを急ピッチで進めようとしている。
本誌・週刊ポストは10月21日号で、財政破綻が迫っている国民年金(基礎年金)の財源不足を穴埋めするため、厚労省がサラリーマンが加入する厚生年金の給付額を減らそうと計画していることを報じた。
「サラリーマン年金」の減額である。
自営業者やパート・アルバイト、無職の人が加入する国民年金は保険料の未納率が高く、財政は火の車だ。
そこで保険料が給料天引きで取りっぱぐれのないサラリーマンの厚生年金の金が狙われているのである。
厚労省はさらに改悪第2弾として、国民年金の加入期間を現在の40年(20〜60歳まで)から45年に延ばし、65歳まで保険料を支払わせることを検討している。
国民年金加入者はもちろん、長年、厚生年金に加入してきたサラリーマンが65歳未満でリタイアしても、強制的に国民年金に加入させられて65歳まで保険料を支払わなければならなくなる。
年金制度に詳しい「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が怒る。
「いい加減にしろと言いたいですね。
そもそも国民年金制度は20歳から40年間保険料を支払い、原則65歳から年金を受給する仕組みです。
半世紀以上にまたがる制度がコロコロ変わると国民は人生設計ができない。
だから政府は2004年の年金大改革で保険料を毎年引き上げ、年金支給額を徐々に減らしていく改革を行なった後、“国民に負担を強いるけれども、これで年金制度は100年安心”と説明してきたわけです。
それから20年しか経っていないのに、加入期間を45年間に延長するという。これは制度の抜本的変更です。
国民に負担を強いた100年安心改革が完全に失敗だったということです」
北村氏は、今回の岸田改革案は2つの意味で“バカヤロー改悪”だと指摘する。
「1つ目は今述べたように、『100年安心』と言いながら、さも“ちょっと見直します”といった態度で制度の根幹を変えようとしていること。
もう一つは保険料を負担する現役世代にどんどんしわ寄せが行き、年金不信を高めることです。
年金は世代間扶養の仕組みです。
現在40代の人でいえば、これまで20年以上保険料を払ってきて、この先65歳まであと25年近くも払わなければならなくなる。
しかし、こんなにコロコロ制度が変わると、払い終わった頃に本当に年金はもらえるのかという不安が強まる。
制度の支え手に信用されなければ、年金制度はもたない。
すでに受給している世代にもかかわってくる問題です」
物価は上昇、年金は下降
では、45年に延長されると具体的にどんなデメリットが生じるのか。
北村氏の協力でシミュレーションした。
まず保険料の支払総額が増える。
現在、国民年金保険料は月額1万6590円、納付期間が60歳から65歳に延長されると、5年分でざっと100万円を余分に支払わなければならない。
さらに、60歳定年リタイア組の場合、妻が「第3号被保険者」から外れるため、夫婦で2倍負担することになる(同い年の夫婦のケース)。
その代わりに年金受給額は増える。
国民年金は保険料の支払期間が1年増えると年間の受給額が約2万円多くなる。
国民年金に40年間加入した人の年金額(満額)は現在月額約6万4800円(年間77万7800円)。これが45年加入となれば、年金額は5年分の約10万円が上乗せされて月額約7万3150円(年間87万7800円)になる。
計算上、10年間年金を受給すれば、保険料の負担増100万円は取り戻せる。
保険料を多く取られても、年金も増えるのであれば悪い面だけではないように思える。
だが、北村氏はそこに“落とし穴”があるという。
「年金の保険料は物価・賃金の上昇率に連動して値上げされるのに対して、年金受給額はマクロ経済スライドという仕組みで物価が上がると目減りする。
大雑把にいうと、物価が2%上昇すれば保険料は2%値上げされるが、年金額は1%しか増えない。
それが10年続けば保険料の支払額が20%超も増えるのに、もらえる年金は10%程度しか増えない詐欺みたいなことが起こるわけです。
そのため、現実的には、国民年金の加入期間延長によって保険料支払いが増えた分を年金増額で取り戻すには10年では足りない」
国民年金加入期間が45年に延長された場合、「将来の保険料値上げと受給額の目減りを加味して考えると、仮に国民年金保険料を65歳まで支払い、その後すぐに65歳から年金を受給しても、元を取る(支払った保険料の総額と受け取る年金総額が同額になる)には78歳までかかると考えたほうがいい」(北村氏)という。
年金が増えるよりも、保険料の納付が長くなるマイナスのほうが大きいということだ。
※週刊ポスト2022年11月4日号