2023年02月02日

和田秀樹「医者に認知症は治せない」、でも自暴自棄になってはだめな理由

和田秀樹「医者に認知症は治せない」、でも自暴自棄になってはだめな理由
和田秀樹:精神科医
2023.2.1 ダイヤモンドオンライン

50、60と年を重ねるにつれ、誰しも認知症への不安が頭をよぎるもの。
認知症を過剰に恐れる必要はないものの、医療と適切につき合い、前もって準備しておくことが重要となる。
数々の患者と向き合ってきた高齢者専門精神科医・和田秀樹氏の金言をヒントに、自分や家族の前向きな老いについて考えていく。
本稿は、『80歳の超え方』(廣済堂出版)の一部を抜粋・編集したものです。

認知症はひとつではない 必ず「専門医」に診断を  認知症といっても、認知症にはいろいろな種類があります。

 ちなみに認知症は、病気の呼び名ではありません。認知症という状態を表す言葉です。
認知症の状態になった原因疾患があるのです。

 物忘れが始まると「認知症ではないか」と心配する人、「認知症にならないでよ」と注意する家族がいます。
心配しても注意してもなるものはなるのですから、不安がある場合は専門医に診てもらってください。
 最近は、内科クリニックでも簡単に認知症の薬を出したりしますが、認知症の薬は認知症を治すためのものではありません。
 一般的には「進行を遅らせる」ですが、これも効果のある人とない人がいます。
早期に服用したほうが効果が出るともいわれますが、効果がないときは漫然と服用しないほうがいいかもしれません。

「副作用はあまりありません」と説明を受けたという人もいますが、薬というのは副作用があるものです。
その影響は人によってだいぶ違います。

認知症の症状の裏には 別の疾患が隠れている場合も
 一般的には、内科で出された認知症の薬を飲み続けるより、専門医に画像診断や認知症テストを受けて、きちんと診断されてから対策を考えるほうが望ましいのですが、地域医療を行う内科医のほうが認知症の対応に慣れている人もいますし、精神科医でも高齢者のことはよくわからない人がいるので、まずケアマネジャーや地域包括支援センターで医者の評判を聞いて受診するのが賢明です。

 認知症の代表的なものとしては「アルツハイマー型」、「脳血管性」、「レビー小体型」などが挙げられますが、いずれも治療薬はありません。
進行性で対応に大きな差はないので、あまり原因疾患にこだわる必要はないと私は考えていますが、認知症の原因疾患を知ったほうがいい理由は、認知症の状態があっても治療できる疾患が原因の場合もあるからです。

 認知症のような症状が出てきて調べたら、脳腫瘍があったり、甲状腺機能低下症であったりすることもあります。
まれにですが、「正常圧水頭症」という病気のときもあります。
正常圧水頭症は、脳内でつくられる脳脊髄液が脳室にたまることで、周囲の脳が圧迫されることで認知症と似たような症状が出てきます。
これは脳脊髄液の流れを脳室以外に流す手術をすれば治ります。
これはCTスキャンをするとすぐにわかります。

 こういうことがあるため、認知症のような症状があったときは専門医に診てもらってほしいのです。

 また、うつ病でも認知症に似た症状が出ます。
この場合は、薬物治療が有効ですし、本人の気分もよくなります。
 ですから、ひとくくりに認知症とまとめてしまわないで専門医の受診が重要なのです。

まだ認知症の症状のないあなたが 考えるべきこと
 認知症の早期発見や原因疾患を見極めることは可能ですが早期治療はできません。
 がんのように、疾患原因を取り除くわけにはいかないからです。
 認知症の薬は進行を遅らせるといわれたりしますが、あまり効かないという調査結果もあります。
また、怒りっぽくなったり情緒不安定になったりするときに安定剤が処方されますが、対症療法ですし、かえって脳の機能を落とします。
薬を飲んでおとなしくなるというのは、脳の機能をボーッとさせているからです。
そうすると、動くのが億劫になり、脳も筋肉も退化するかもしれません。

 はっきり言って、医者に認知症は治せません。  しかし、認知症を診てくれる医者は必要です。
 なぜなら、介護保険の意見書は医者が書くからです。
介護保険を申請するとき、また、更新や区分変更のときに医者の意見書が必要なのです。
その意見書に医者は病名として認知症と書きます(認知症専門医でないと原因疾患を書けないからです)。
 普段から家族の話を聞き、本人をよく診ている医者なら、意見書に病名のほかに詳しい状態や本人の困難さも書いてくれるでしょう。
 そのほかに医者が認知症で役に立つのは、本人や家族の不安にアドバイスをしてくれたり、ほかに相談するところを紹介してくれたりすることでしょう。
しかし、そういう医者は少なく、看護師さんや相談員のほうが話を聞いてくれるかもしれません。

 つまり、認知症の状態になると役所や家族が「病院へ行け」というのは、病名をつけてもらうためで、治すためではないと思ったほうがいいということです。
 それでは、認知症の進行を少しでも遅らせるためにはどうすればいいのでしょう。

ただ老いを待つのではなく 能動的にセルフケアを考える
 認知症は、キュア(治療)からケアへという流れの最前線にある疾患です。
ケアというのは、世話や介護と訳されますが、手入れや寄り添うことも含まれる大きな意味があると考えてください。
 セルフ・ケアは自分のことをいたわることであり。
セルフ・ネグレクトは自分へのいたわりを放棄したという意味になります。

 ケアは、単に介護を受けるという受動的な意味ではなく、自分をケアしていくという能動的な意味でもあり、ケアをされる人との交流も含む流動的な意味合いもあります。
 医療のキュア(治療)が望めないとなると、認知症は不治の病かと怖がる人が多くいますが、認知症の症状が出るのは長生きした人間の当然な結果なのですから仕方ないことです。
 90代でも研究をしたり文章を書いておられるすばらしい方もいますが、そういう人でもたくさんのケアを受けて仕事をしていることが多いのです。

物忘れはひどいし、いまのことも忘れる等の困難さはあっても、家族やヘルパーさんに支えられて仕事をしている人もいます。
 このように、認知症になっても心豊かに暮らす方は大勢います。
 自分なりの人生をどう送りたいか、認知症と診断されても初期のうちでしたらどんな意思表示だってできます。
それ以上に、認知症は85歳になれば半数近くの人が罹患する病気なのですから、その後、どんなふうに生きたいかを決めておくほうが納得のいく人生を送れる可能性は高くなると思います。

 まだ認知症の症状がないあなたが考えないといけないことは、認知症になったらどういうケアをしてもらいたいか、自分はどういうケアを自分に対して行っていくかです。
 よりよく生きていくために、「認知症になったらこういうケアをしてほしい」というのは、どう生きていくかの要になります。
そのケアがまったく人任せというのは感心しません。
自分でも調べて勉強していく必要があると思います。

「認知症にはならない」「認知症になったら、わけがわからなくなるから、どうでもいい」。そんなことを考える方もいらっしゃいますが、認知症はゆっくり進行するものです。
支援があれば、自立していられる時間も長いのです。
 そしてあなたの状態に合う良好なケアがあれば、認知症であろうと脳梗塞であろうと、あなたの生活の質は高まるでしょう。
 いつまでも元気にいることも大事ですが、自分がどうケアされ支援されていくかを少しずつ考えていくこともとても大事なのです。
posted by 小だぬき at 01:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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