大阪府知事選に挑む谷口真由美が受けた罵詈雑言「女性が選挙に出る怖さと意味」
2/8(水) 現代ビジネス
日本は女性の政治参画が世界でも最下位クラスだ。
ジェンダーギャップ指数の政治分野で日本は146カ国中139位。
谷口真由美さんはこの状況を変えるためにも、自ら大阪府知事選に挑む姿を女性たちに見てもらい、女性の政治参画の背中を押したいと話す。
法学者で、ラグビー協会の理事も務めた谷口真由美さんが、大阪府知事選へ挑戦すると決めた。これまで何度も打診がありながらも政治の世界には入らないと固辞してきた谷口さん。
なぜ今回は決断したのか、ジャーナリストの浜田敬子さんが谷口さんにオンラインで独占インタビューした後編。
前編「谷口真由美、大阪府知事選挑戦の理由「吉村さんと大将戦で維新政治を検証したい」」では、吉村洋文現大阪府知事との「大将戦」を決断した理由を詳しく伺った。
後編では、女性として選挙に出ることの話や家族の反応、そして知事選挑戦の可能性が報じられてからのことを伺っていく。
女性が選挙に出ることの怖さ
――女性が選挙に出ることを躊躇するのは、票ハラ(票ハラスメント)などの嫌がらせを受けたり、リアルでもネット上でも様々な個人攻撃にさらされたりすることも一因です。
その背景には「政治は男がするもの」という根深い差別意識もあります。
谷口さんもおそらく言われのない攻撃を受けられると思いますが、怖さのようなものはないですか。
谷口:
私が叩かれるのを見て、さらに政治の世界に入ることを躊躇う女性も出てくるかもしれません。
先日首相を辞任したニュージーランドのアーダーンさんは評価の高かった政治家ですが、それでもしんどかったんだと感じました。
日本だけではない、女性が政治をするのは世界でもまだしんどいんだなと。
府知事選挑戦を検討しているという報道が出た段階で既に、罵詈雑言、攻撃的や暴力的な書き込み、私を巡る陰謀論に至るまでそれは凄まじいものがあります。
見知らぬ人はもとより、友人だったのでは? という人からも、直接聞かれることもなく、思い込みによる個人攻撃も受けました。
なかには、人権と関わってきたと思っていた人でも、ミソジニー(女性嫌い)丸出しのことを書いていたり。
知らない人から書かれる怖さより、知ってる人からの残念な対応には、正直なところ心が痛くなりました。
それでも私は、今回自分の「被選挙権を行使しよう」と思ったんです。
選挙に出るのは権利。
だったらそれを私が行使することで、女性たちが「私も」と思えて、世界が1ミリでも進むのであれば出ようと。
自宅を公表していないのに夜中までチャイムが
――もう一つ女性が選挙に出るときのハードルは家族だと言われてきましたが、家族はすぐに賛成してくれたのですか。
谷口:
私はシングルマザーでよかったと思ってます。
夫がいたら無理やったなと。
自分の妻が選挙に出るなら離婚するという夫の話はよく聞きます。
それで最後は夫が折れたという話はほとんど聞いたことがない。
子どもたちにはよく相談しました。
留学中の高校生の娘は最初「え、嫌や!」って言いました。
「なんで?」って聞くと、「お母ちゃんそこそこ人気者やん。泡沫候補で落ちてネタになるならいいけど、なまじ受かったら忙しい。
ラグビー協会より大変やん」と心配をしてくれたんですね。
中学生の息子も最初は「嫌や」と。なんで嫌なん? て聞くと、「俺はな、政治家なんて嫌やん、そういう大人に突っ込み入れてるお母ちゃんが好きやねん」と。
でもその後、「やっぱり出ようと思うねん」って言ったら、「いいんちゃう?」って。
けれど、「府知事選挑戦を検討」という報道が出て、ひっきりなしに夜中までマスコミによる取材で携帯電話がなり続け、自宅のインターフォンにも夜遅くまで何人もの男性記者さんが、入れ代わり立ち代わりピンポンを鳴らし続けたため、出かけていた子どもが怖くなって家に帰ってくることができず、夜遅くまでお友だちのおうちに避難させてもらったんです。
頼りになったのは、ママ友と、受験生である息子の友人たちでした。
公表されていない自宅がなぜわかったのか、どう漏れたのかと。こんなことになるなら、女性の候補者は増えないなと実感しました。
女性の自宅に強盗が押し入り、殺人事件になっている昨今、見知らぬ男性が夜遅くまでインターフォンを鳴らす姿を見るのは、正直なところ本当に怖いです。
子どもを守るのは私しかいない。やっとの思いで帰宅した息子がボソッと、「こういうのが嫌やねん。大人は汚いし、えぐいわ」と。
何年かぶりに、「ごめんね」と言って、息子を抱きしめました。
子どもが「やっぱり嫌や」って言ったら、今日の最後の最後まで、やめることも考えていました。
選挙報道の在り方も、こういう立場になったからわかったことです。
公人ではない一般の人でも、選挙に出るかも? とひとたび報道されると、個人情報はダダ漏れで、プライバシーがなくなることにも怖さを感じました。
家族のことを考えたら、検討中の人でもやめる人もいるかもしれない。それがわかっただけでも、次の人のために伝えられることはあるかもしれないなと思いました。
「政治的に色がつく」の意味
――選挙に出ると「政治的に色がつく」と言われ、その後のキャリアを心配して躊躇する人もいます。
谷口:
私はラグビーの新リーグ発足準備室長に専任するために、一度大学の教員やテレビのコメンテーターの仕事全てを辞めたことがあります。
ラグビー協会の仕事で失ったものを取り戻すのに時間はかかりましたが、それでもあの時の経験がスポーツハラスメントをなくす活動に繋がったりもしています。
だから一度仕事やキャリアを全部捨ててもなんとかなるなって思っています。
そして、どんな状態になっても、離れない人がいることもわかりましたし。そういう意味では、あの経験に感謝です。
ラグビー協会でえらい目におうたから、政治の世界はあれの何倍かあるかもしれんよっていう忠告も受けました。
なら、『おっさんの掟2』が書けるかなとも思ってます。
今回「政治色がつく」ってどういうことかなって思ったら、「落ちてももう一回政治に出るって思われること」と言語化してくれた人がいて。私は今回の挑戦だけに絞ろうと思っていて、その後国政にいくとか全く考えていません。
もちろん当選すれば2期目などは考えるかもしれませんが。
選挙は闘いというよりも「祭り」やなと
――日本の政治が硬直化して閉塞感があるのは、政治を一生の職業とすると決めた人だけが政治家をしているからだと思います。
企業などで働いているが一定期間だけ政治に関わってみようと思え、誰もが政治とそれまでのキャリアを出入り自由に行き来できるようになれば、政治の世界は変わるような気がします。
谷口:
それだけ政治が遠いし、障壁も大きい。
政治のバックグラウンドがない人が市町村議などに挑戦しやくするために、供託金ももっと安くていいと思います。
政治は自分達には関係がないんだ、政治はおっさんがやっているという一種の諦めがあると思うんです。
でも、私はおばちゃんの目線から「政治はあなたのことなんだよ」って伝えたい。
あなたが今もし政治から置き去りにされているという感覚を持っているとしても、選挙に行ったら変わるかもしれんよ、と伝えたい。
選挙って「闘い」っていうけど、私は祭りやなって。
若い人や女性たちを巻き込んで盛り上げていければいいなと、それで投票率があがったらいいなと思ってます。
浜田 敬子(ジャーナリスト
/前Business Insider Japan統括編集長)