2023年02月19日

「このままでは接種を続けられない!」医師の悲鳴 コロナ5類移行で「ワクチン1万5千円」は妥当なのか?

「このままでは接種を続けられない!」医師の悲鳴 コロナ5類移行で「ワクチン1万5千円」は妥当なのか?
2/18(土) 東洋経済オンライン

 新型コロナワクチンは当面、無料接種が続く見通しとなった。
だが、いずれ有料化されるのは、誰もがわかっていることだ。
ワクチンメーカーはボランティアではないし、国のお金を投入すべき局面も終わろうとしている。
だが、その日は思った以上に近づいていて、思った以上に高額かもしれない。

■新型コロナワクチンは贅沢品に? 
 新型コロナの感染症法上の位置づけが、現行の「2類相当」から「5類」に切り替わる。
期日は今から約3カ月後、5月8日に決まった。
ワクチンの公費接種は4月以降も継続するとの政府方針が示されたが、いつまで無料かはこれからの議論で、2月中にも見通しが示されるという。
実務を請け負っている自治体と医療機関は、遅かれ早かれ切り替え準備に追われることになる。

 接種を受ける側にしてみれば、最も気になるのはその価格だろう。
実施しているクリニックとしても、今後の接種体制に大きく関わる問題だ。
これについては昨年10月、新型コロナワクチンの最大の供給者であるファイザーが、通常の流通・販売ルートに乗せる際の価格を「1回あたり110〜130ドル」(現在のレートで1万4000円〜1万7000円程度)と計画していることが報じられた。2023年下半期にも移行するという。
その前月にはモデルナの想定が「64〜100ドル」と報道されていたことから、ファイザーの強気な価格設定には驚きの声が上がった。

だが、モデルナも今年1月、アメリカ政府の購入プログラム終了時には、ファイザーとまったく同じ「1回あたり110〜130ドル」に値上げしたい意向を示した。(The Wall Street Journal)

 一般に競争相手が少ない場合、価格競争に持ち込まなくても顧客を確保できるため、市場原理が働きづらい。
結果、価格が高止まりしたまま横並びになりやすいのだ。
ファイザーとモデルナの強気な価格設定は、典型例といえるだろう。

 つまり、新型コロナに関しては当初、さまざまな種類のワクチン開発競争が繰り広げられたものの、その効果とシェアで2社のmRNAワクチンが世界を制したと言っていい。
しかもユーザー側にとっても、両社の製品に大きな差は感じられない。
どちらも無益な争いよりも、足並みを揃えるほうが得策と判断するに決まっている。
 そもそも新型コロナワクチンの原価はいくらくらいか、ご存じだろうか。

■「原価120円」を3500円で購入したイギリス政府
ワクチンの不公平撤廃を求める100超団体の連合体「The People's Vaccine Alliance」によれば、原価はファイザー製で1接種あたり1.18ドル(約120〜160円)相当だという。
これについてファイザーは特に否定していないようだ。
アメリカ政府は2020年、まだ開発中だった新型コロナワクチンについて、1億回分を約20億ドル(約2100億円)で購入する契約をファイザーと結んでいる(ロイター)。
1接種あたり19.50ドル(約2000円、2回接種で約4000円)の計算だ。

 原価の16倍の売値である。
それでもこれは、破格の“ホーム価格”だ。
当然だろう。アメリカ政府は2020年5月〜2021年2月だけでも、ワクチンメーカー7社に新型コロナワクチン・治療薬の開発助成金として192億ドル(約2兆160億円)超を拠出、うちファイザー・ビオンテックには60億ドル(約6300億円)近い金額が渡っている。
なお、次ぐモデルナには59億ドル(約6200億円)が投入された。(ミクスonline)

他国、とくに先進国が「売ってくれ」と言ってきたら、価格は2倍近くに跳ね上がる。
例えばイギリス政府は、1接種あたり22ポンド(約3500円、2回接種で約7000円)で、1億8900万回分買い上げる契約をファイザーと交わしたとされる。
原価の30倍だ。(ガーディアン)  なかなかの“ぼったくり”と感じるかもしれない。

実際、ファイザーの新型コロナワクチンは、2022年に378億ドル(約4兆円)超もの売り上げを叩き出している。
 だが、私自身の率直な感想としては、原価はともかく1接種あたり数千円なら、むしろ非常にリーズナブルとの印象だった。
ナビタスクリニックでは予防接種にも力を入れていて、個人輸入でも扱ってきたが、1回数万円というワクチンはざらにあるからだ(ほとんどは数回の接種で半永久的な効果が得られるが)。
 しかも、1接種1万円台なら、本国アメリカでは一般的価格らしい。

■欧米では接種率10%台
例えば、大手ドラッグストアCVSでは、肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス 23)は141ドル(約1万8500円)、肝炎ワクチンは145ドル(約1万9000円)、髄膜炎ワクチン179ドル(約2万3300円)、帯状疱疹ワクチン205ドル(約2万6700円)、HPVワクチン261ドル(約3万4000円)、といった具合だ。(Fierce Pharma)

 これらは毎年接種する必要はないが、数回接種が必要で、合計10万円を超えるものもある。
 ただし、新型コロナと同じく毎年接種のインフルエンザは、アメリカでも1接種50〜95 ドル(約7500円〜1万2000円)だという。
「1万4000円〜1万7000円」となると、やはり割高感は否めない。
 しかもmRNAワクチンは、病原体の培養から始めていた従来のワクチンとは異なり、最新のバイオ技術で短期間に大量生産が可能だ。
そう聞くと、むしろ低価格化が望めそうにも見える。

 どこから「1万4000円〜1万7000円」という数字が出てきたのだろうか? 
 1月30日、アメリカ政府は新型コロナ非常事態宣言を5月11日に終了することを発表した。
新型コロナワクチンへの助成も廃止となるため、有料化へのカウントダウンが始まったと言っていい。
その翌日、ファイザーは、2023年の同社の新型コロナワクチン「コミナティ」の需要が前年比3割減、売上高は前年比64%減の135億ドル(約1兆8000億円)となる見通しを明らかにした。
モデルナのバンセルCEOも、同社の売上高が昨年の184億ドル(約2兆1100億円)から、今年は「少なくとも50億ドル(約6500億円)」に縮小するとの予想を示した(Bloomberg)。
同社は2021年時点で、売り上げの96%を新型コロナワクチン「スパイクバックス」に依存している。

事実、人々の関心は新型コロナワクチンからどんどん離れている。
1月末時点で、国内のオミクロン対応ワクチン(初代もしくは2価)の接種率はやっと40%を超えた程度。
海外ではさらに低調だ。
アメリカは15%超、EUも約17%(2回目追加接種として)にとどまっている。

幌医科大学のサイトによれば、これまでに全世界で約50億人が2回接種(1回接種ワクチンは1回)を完了している。
健康上の理由や反ワクチン主義の人はともかく、2回目接種まで完了しているけど追加接種は受けない、という人が多いのだ。

■今のままでは「接種を続けられない」
 いち早くワクチン確保に動いた欧米各国は、大量の在庫を抱えているに違いないし、この状況で有料になれば、接種率はさらに低下すると見て間違いない。
モデルナは2022年5月の時点で、毎年の追加接種の対象者として、50歳以上やハイリスクの成人、医療関係者など感染リスクの高い職業の人たちを想定し、世界人口の約21%(17億人)との推計を示した。

しかし脱コロナへのシフトは思った以上に急激で、遠く及ばない可能性は高い。
 こうした厳しい見通しが、「原価の120〜140倍」の最たる根拠というわけだ。
 それだけではない。ファイザーもモデルナも一般医薬品と同じ流通に乗せるにはパッケージ変更が必須で、そこにコストがかかってくる。
バイアルの問題だ。
新型コロナmRNAワクチンは当初から、超低温の冷凍庫を必要とするなど、クリニック側にとっては扱いづらい特殊なワクチンだった。
それでも緊急措置との認識だったし、オミクロン株ワクチンからはある程度使いやすくはなった。
希釈が不要となり、一定期間は冷蔵庫で保管(ファイザー製は10週間、モデルナ製は30日間)できるようにもなった。
だが現製品はまだ、ファイザーで1バイアル6接種分、モデルナでも1バイアル5接種分という作りになっている。
つまりひとたびワクチンの入った小瓶を開封したら、当日中に5人ないし6人に打たねばならない。
 希望が殺到していた頃ならともかく、接種希望者の都合や利便性を考えても、小規模に個別接種を請け負っているクリニックにこれだけの希望者集めは厳しすぎる。

 ナビタスクリニックでも、とある日は新型コロナワクチンの接種予約が1人しか入らず、やむを得ず開封して実施し、残りを廃棄せざるを得なかった。
世の中に大量に期限切れになるほどワクチンが余っていて、なおかつ無料配布されているから踏み切れたことだ。
 バイアルの見直しについては当然、ファイザーやモデルナも準備を進めているようだ。

ファイザーは、「原価120〜140倍」の価格の理由として、製造コストと流通コストが緊急用ワクチンとは決定的に異なることを挙げている(pharmaphorum)。
つまり、6人分を1バイアルから1人分1バイアルに変更することで、これまでと比べ最大3倍の費用がかかる可能性があるとしている。

■モデルナは巨人達とどう戦うのか
 また、流通チャネルと保険者(アメリカでは有料化後も、ほとんどが民間の医療保険によってカバーされる見通し)がそれぞれ多数関わってくることで販路が複雑化し、輸送コストが跳ね上がるとも説明している。
ファイザーのこうした主張は、投資専門機関の調査でも支持されている。
一方で、新しい価格設定によって、ファイザーの年間収益が約25〜30億ドル(約3250〜3900億円)増加する可能性もあるという。(Reuter)

 おそらくモデルナも同様のコスト計算のうえで、ファイザーの価格に合わせていく方向性を打ち出したのだと思う。

 ただ個人的には、生き馬の目を抜くようなワクチン業界で、期待の新星モデルナが繰り出す次の一手にも、大いに興味がある。
ファイザーという医薬品業界の巨人、あるいは老舗のワクチンメーカーとは圧倒的な体力差がある中、どう立ち回っていくのか。
 mRNAワクチンが国内外のワクチン市場を揺るがし、日本のワクチン関連事業・行政にパラダイムシフトをもたらそうとしているタイミングだけに、いっそう目が離せない。

 今後も国内あるいは世界規模で、新興感染症は繰り返し発生するだろう。
安全で質の高いワクチンが、リーズナブルな(=合理的で妥当な)価格で、タイムリーに供給される環境の整備を切に願いたい。

久住 英二 :ナビタスクリニック内科医師
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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