不足分が半分に…? 老後資金2000万円問題がいつの間に消えた理由を探る
2023/03/17 日刊ゲンダイ
給与が上がらず、商品やサービスの値上がりが続くなか、老後の生活に不安を抱える人は多いだろう。
だが、最近ちょっと明るい話を聞いた。
話題になった、「老後の資金2000万円問題」が消えた、という話だ。
そもそもこの問題は、2019年6月に金融庁が発表した「高齢社会における資産形成・管理」の報告書によるもの。
夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯は、定年後30年生きるには約2000万円が必要になるという試算だ。
その理由は、老後の収入は公的年金がほとんどになり、公的年金を含めた実収入20万9198円に対し、標準的な生活を送るための1カ月の生活費(実支出)26万3717円を差し引くと5万4519円の赤字が発生する。
これが30年間続くと、5万4519円×12カ月×30年で、不足分は1962万6840円になるということだ。
「2000万円問題」のベースとなる家計消費(総務省公表)から「消えた」理由を探っていく。
19年には実収入と実支出の差し引きで5万円超の不足が出ていたが、20年の実収入は25万6661円、実支出25万5550円と一転して実収入が1110円プラスとなった。
この2月に発表された22年の家計消費では、実収入24万6034円、実支出27万1889円で赤字は2万5855円だ。
これを30年間続けると、赤字分は930万7800円となる。
19年と比較して半分の貯蓄で賄えることになるのだ。
さらに、コロナ禍による旅行、観光などの外出抑制、モノの買い控えによる消費支出の減少も「消えた」大きな要因に挙げられる。
しかし、2000万円問題消滅の声に慎重な意見は多い。
ニッセイ基礎研究所の久我尚子主任研究員がこう説明する。
「30年間の生活の不足分が半分の930万円に減ったことは大きい。しかし、現実にほぼ1000万円あればいいということではありません。
年金も退職金も徐々に減っていますし、コロナが終息することで、この間抑制されていた消費が増えると考えられます。
賃上げも期待されていますが、賃上げはサービス価格も上昇させ、モノの値段が上がれば支出を圧迫することになります。
老後の2000万円問題は消えてはいません」
■年金は実質目減り、やっぱり…
実際に退職金は1997年の2871万円から2018年には1788万円と、21年前に比べ1000万円以上減額している(厚労省・就労条件総合調査、大卒)。
また年金は令和5年度の改正で前年度比2.2%引き上げられたが(67歳以上)、マクロ経済スライドでは実質目減りだ。
ファイナンシャルプランナーの目黒政明氏が言う。
「コロナ禍による給付金などで若干収支が改善していますが、コロナ前の収支の方が実態を把握しています。
支出には介護費用や住宅のリフォーム費用も入っていないため実際には不足分はさらに拡大する。
公的年金だけの老後の収入ではゆとりある老後は送れません。
節約は当然ですが、税制の優遇措置が拡大するニーサや、イデコ(確定型拠出年金)の利用で資産形成を考えることも必要でしょう」
厳しい老後が待っていそうだ。
(ジャーナリスト・木野活明)