PTA改革を阻む「抵抗勢力」の困った実態、
経営者など“大物PTA会長”すら苦戦
大塚玲子 ライター
2023.5.14 ダイヤモンドオンライン
経営者や弁護士といった「大物PTA会長」が、旧態依然としたPTAの風土を変えたという報道を見かけることがある。
だが実は、こうした成功例はごく一部だ。
表に出ていないだけで、大物会長によるPTA改革がうまくいかなかった例も多い。
改革を阻むのは、体制を元に戻そうとする「抵抗勢力」である。
PTAの問題点が広く知られるようになった今も、反対派はなぜ出現するのか。
短期集中連載「大塚さん、PTAが嫌すぎるんですが…」の番外編では、PTA改革が難航する理由について解説する。(ライター 大塚玲子)
経営者など“大物会長”が PTA改革に苦戦する例も
「経営者など専門スキルを持ったPTA会長が、その能力を生かして『PTA改革を成し遂げました!』みたいな例ってありませんか?」。
ダイヤモンド・オンラインの編集担当者さんから、こんなお尋ねがありました。
そうですね、なくはないです。
経営者や税理士、弁護士、医師、大学教授、議員さんなどなど、父親が多いですが、「PTA会長になって改革をやりました!」という話は時々聞きます。
いわゆる社会的地位も高い人たちので、そうでない人と比べると、校長や他の保護者に耳を傾けてもらいやすいところはあるでしょう。
ただ、そういう人でも必ずしもPTA改革がうまくいくわけではありません。
うまくいかないこともありますし、いったんは改革できても、抵抗勢力に後からひっくり返されてしまう場合もあります。
詳細は書けませんが、世間から「先生」と呼ばれるような職種の人でも、PTA改革においては陰口を叩かれたり「吊し上げ」にあったりしていることが、意外とあるものです。
今回は、なぜPTA改革は難しいのか、またどんなときにうまくいって、どんなときにうまくいかないのか、といったことを考えてみたいと思います。
変えることに伴う「手間暇」と 「漠然とした不安」
PTA改革が難しいのは、単純ですが「反対の人もいるから」です。
一番多いのは、会長や本部役員さん(保護者)の中に反対の人がいるパターンでしょう。
なぜ役員さんが、改革に反対するのか。これには主に二つ理由があると思います。
ひとつは、これまでのやり方を変えるには「手間暇」がかかるから。
もうひとつは、変える判断をすることへの「漠然とした不安」があるから。
PTAに限りませんが、これまでの仕組みを見直して再構築する作業には、時間や労力がかかります。
何も考えずに、前年通りのことをやっておくほうが、自身が割くコストを低く抑えられます。
特にPTAの場合、長い間「強制的に全員が加入し、活動する」という前提ですべてが回ってきたため、強制をやめようとすると、芋づる式にさまざまな修正が必要となることもよくあります。
ひとふんばりして改革をやりきってしまえば、役員さんたちの負担を減らせる可能性もあるのですが、「それでもやりたくない」という人もいます。
これはなぜなのか。 おそらく「漠然とした不安」があるからでしょう。
何かを変えるという判断をすれば、「あなたが変えたからこうなった」と、後から誰かに文句を言われるのが不安なのです。つまり判断に伴う「責任」を負いたくないから、改革に反対してしまうわけです。
実際にはPTAを改革したところで、責任を求められるような事態はそうそう起きないのですが、誰かが「私が責任取るよ」と言って不安の種を取り除くまでは、話が滞ることになりがちです。
改革の翌年度以降に ひっくり返されるリスクも
「揺り戻しがある」という点も、PTA改革の難しいところです。
せっかく役員さんや管理職の先生の足並みがそろって改革が進んだとしても、一般会員の中に反対の人がいると、翌年度以降に役員が入れ替わって、元に戻されてしまうことがあるのです。
原因は、ほぼ「元役員さん」です。
過去に本部役員を経験した人は、これまでのPTAのやり方になじんでおり、PTA改革を「自分たち(のやり方)の否定」と受け止めがちです。
あくまで「元役員」なので改革を止めることはできないのですが、翌年度から役員の座に返り咲き、「かつてのやり方」に戻してしまう例は、時々聞きます。
こういったときは、粘り強く合意形成の努力をするしかないでしょう。
役員さんだけでなく一般会員みんなに向けて、改革について十分な説明を行い、疑問に答え、意見に耳を傾け話し合い、落としどころを探ること。
これらもやはり、時間や労力を要する作業です。仕組みを変えるだけでなく、さらに合意形成にも手間暇がかかるのですから、そりゃ大変なことです。
そう考えると、近年これだけPTA改革が広がったのは、改めてすごいことだと感じます。
コロナの影響もあるのでしょうが、自らのリソースを割いて改革に取り組む人がこんなに増えたことを思うと、ちょっと胸熱です。
ただ、いくら手を尽くしても、揺り戻しは防ぎきれないところがあります。
PTA改革に取り組む際は、「元に戻ったら戻ったで仕方がない」とある程度割り切って進めることも必要でしょう。
校長の「鶴の一声」による 頓挫も多い
PTA改革が困難なもうひとつの要因は、管理職の先生、特に校長先生の反対です。
これも実は、かなり「あるある」です。
はっきりと「改革はダメ」と言わないまでも、賛同しないことを言動に漂わせ、保護者をコントロールしてしまう場合もあります。
校長先生が改革に反対する理由は、保護者のそれと似たようなものでしょう。
要は「余計なことをせず、前年通りにやっておくほうがリスクが少ないから」です。
改革の実務を担うのは主に役員さんたちなので、管理職の先生の負担が増えるわけではないのですが、おそらく「後で、一部の保護者からクレームが来る(学校が責任を求められる)かも」「自分たちの仕事が増えるかも」など、リスクを避ける意識が働くのでしょう。
そういった不安もわかるのですが、そもそも校長先生の一存でPTA改革ができなくなるというのは、だいぶおかしな話です。
PTAにおいて保護者と学校は対等なはず。
「鶴の一声」で話が決まるようでは、あまりに学校の力が強すぎます。
会長や役員さんたちは、校長先生の顔色をうかがうばかりでなく、正論を貫くことも必要でしょう。
特にPTA会長は「PTAは学校と別団体だ」ということを意識して、学校が持つ権威と自分がどう向き合うか、よく考えなければならないと思います。
もし本稿の読者に校長先生がいれば、リスク回避ばかりを優先せず、PTA改革をなるべく応援してもらえないでしょうか。
会長や役員さんたちは給料をもらっているわけでもないのに、時間や労力を割いて、嫌な思いをする人が出ないよう、PTAの仕組みを改めようとしているのです。
一部の保護者がPTA改革について学校に苦情を言うことは、残念ながらあるかもしれませんが、学校も筋の通らない苦情は相手にしないことが必須と思います。
改革の成否は「ほぼ運」 役員にならなくても意思表示は可能
さて、ここまで読んできておわかりのように、PTA改革がうまくいくかどうかは「誰がやるか」ということと、あまり関係がありません。
強いて言うと、子どもが多い人ほど長く会長や役員をできるので、成功率や揺り戻しを防げる確率が上がりますが、せいぜいそのくらいです。
改革がうまくいった人は「私の人徳のなせるワザだ(ホホホ)」と思いがちですが、実際に改革の成否を決めるのは「周囲の人(保護者や校長)との巡り合わせ」(と子どもの人数)によるところが非常に大きく、つまり「9割は運」なのです。
逆に言うと、PTA改革がうまくいかないのも、取り組んだ人のせいではないということ。
ですから改革に失敗した方や、元に戻されてしまった方も、自分を責めないでください。
筆者など改革のはるか手前で、会長にさえなれませんでしたから、どんまいです。
それに、会長や役員にならなくても、PTAを変えるためにできることはいろいろあります。
たとえば先日筆者に連絡をくれたある父親は、クラス役員決めの際にみんなが「できない理由」を言わされそうになり、「5分ほど熱弁して、家庭の事情をさらす行為は取りやめてもらった」そうです。
いい話ではないですか。
あるいは「入らない」「退会する」という選択をすることが、これまでのPTAを変える後押しになることもあります。
実際、筆者も取材のなかで「退会者が現れたことがPTA改革を始めたきっかけになり、ありがたかった」といった話を、時々聞きます。
世間から一目を置かれる職種の人もそうでない人も、「PTA改革いいね」と思ったら、ぜひ何かしらの意思表示を。会長や役員になるもよし、一般会員として働きかけるもよし、退会で後押しするもよし。
どの方法も尊いと思います。