「敵の敵は味方」はウソである…人生を破壊するのは「明らかな敵」より「友達のふりをした敵」である理由
2023年05月19日 プレジデントオンライン
付き合いにくい人とは、どのように接すればいいのだろうか。
作家のエリック・バーカー氏は
「共感性の低いナルシシストには気を付けたほうがいい。彼らに怒りを表すことは逆効果だが、落胆を示すことは驚くほど効果的だ」という――。
※本稿は、エリック・バーカー『残酷すぎる人間法則 9割まちがえる「対人関係のウソ」を科学する』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■ユダヤ人のダニー少年は、ナチスの親衛隊員と遭遇した
時は1940年。
フランスを占領したナチスは、午後6時以降の外出禁止令を出していた。
ところがその日、7歳のダニーは、友だちの家で遅くまで遊んでいた。
怯えながら家へと急ぐ途中、ダニーはセーターを裏返しにした。
ユダヤ人であることを示す黄色いダビデの星を隠したかったからだ。
もうすぐ家に着く……というところで、ダニーはナチス親衛隊(SS)の黒い軍服を着た男に出会ってしまう。
SSの隊員が手招きをした。
言われるままにそちらへ向かいながら、ダニーは祈った。
どうか裏返しのセーターに気づきませんように。
男との距離を縮めていったそのとき、親衛隊員が素早く動き、ダニーを捕えた! ……と思いきや、ダニーは抱きしめられていた。
そしてナチスの隊員は、ドイツ語で感情を込めて話し始めた。
財布から少年の写真を取りだし、ダニーに見せる。
何が言いたいかは明白だった。
悪の権化には、ダニーと同年齢の息子がいた。
そのわが子が恋しくてたまらないのだった。
■ノーベル賞心理学者が得た「人間は本質的に複雑だ」という教訓
親衛隊員は、ダニーにお金をいくらか渡し、微笑みかけた。
それから2人は別々の方向へと歩きだした。
世にも冷酷非道なことができ、現代のどんな悪より忌まわしい悪を象徴する人間のどこかに、まだ愛がしまわれていたのだ。 この一瞬の恐ろしい出来事から得た「人間は本質的に複雑だ」という教訓は、ダニーのその後の人生を形づくることになる。心理学博士号を取得し、人間の不合理に見える行動に焦点を当てた研究を行い、プリンストン大学の教授になった。
そして後年、ダニエル・カーネマンはノーベル賞受賞時の声明文で、ナチスと遭遇した晩のことに触れている。
当時はダニーも親衛隊員も理解していなかったが、近年、科学によってようやく解明された事実がある。
「悪い」人間からも善を引きだす方法があるということだ。
データによると、新しい友人を10人得るごとに、平均で1人、新しい敵ができるという。
ちなみに、昔から「敵の敵は味方」と言われるが、これは真実ではない。
■敵よりも「友を装う敵」から受けるストレスのほうが大きい
進化生物学者であるニコラス・クリスタキスと政治学者のジェームズ・ファウラーは、「嫌なやつ」にはそれぞれの「嫌なやつ」がいて、彼らもまたあなたにとってかなり嫌なやつであることを発見した。
しかし、あなたがジョーカーのことを話しているバットマンでない限り、総じて、敵はあなたの人生で最大の問題人物にはならない。
では誰がそうなるのか?
「フレネミー(友を装う敵)」である。
ブリアム・ヤング大学の心理学教授、ジュリアン・ホルト=ランスタッドは、フレネミーは、本物の敵より不安感を増大させ、血圧を急上昇させることを発見した。
なぜ敵よりフレネミーから受けるストレスのほうが大きいのだろう?
予測不可能だからだ。
敵や支えとなる友人については、何が起こるか察しがつく。
しかし肯定的・否定的な相反する感情を持つ相手に対しては、つねに緊張状態におかれる。
同じ理由から、ホルト=ランスタッドは、フレネミーの数が、長期的にうつ病や心臓疾患の発症と相関していることも発見した。
しかしだからといって、本当にフレネミーのほうが敵より始末が悪いのだろうか?
そうなのだ。
まさかと思うかもしれないが、フレネミーは、あなたの人間関係の半分を占めるからだ。
しかも数々の研究によると、会う頻度も、支えになる友人と変わらない。
■ナルシシストへの対処法は「関わりを持たないこと」
フレネミーは、単に自分と気が合わない人たちということもあるが、相手がナルシシストである場合もある。
臨床心理学者のクレイグ・マルキンが指摘するように、私たちは夢を楽しむが、ナルシシストは夢に溺れる。
大半の人は、他者のなかに強さを見いだすが、ナルシシストは自分のなかにしか強さを見いださない。
彼らに「もう一人の自分」は存在しない。
そして共感性の欠如こそが、この障害の中核をなす。
ナルシシストにとって、「人と仲良くやっていくことより、人に先んじることのほうが重要」なのだ。
では「困っている友人」については?
ナルシシストにとって、困っている友人とは、単なる弱者なのだ。
それでは、ナルシシストに対する最善の対処法とは?
答えはいたって単純で、「関わりを持たないこと」だ。
専門家たちが推奨する方法は、それで一致している。
しかし、「ナルシシストと接触しない」という選択肢がない場合にはどうすればいいだろう?
もし相手が本格的なNPD(自己愛性パーソナリティ障害)なら、諦めてほしい。
臨床的なナルシシストを変えようとするくらいなら、盲腸を自分で切除しろと言うほうがましだ。
彼らにセラピーがどの程度効くかというと、多くの場合、まったく効果がない。
■軽度のナルシシストなら共感性を高めることができる
しかし相手が無症候性(潜在性)のナルシシストなら、見込みはある。
「共感プロンプト」と呼ばれる手法を用いられるからだ。
ナルシシストは共感性に乏しいが、研究によると、それは彼らの共感能力がゼロだからではなく、共感する筋力が弱いためだ。
軽度のナルシシストの弱い共感筋を活性化し、時間をかけて強化するのは可能であることが、10以上の研究で明らかにされている。
しかし忘れてならないのは、私たちの取り組みは、彼らの認識にではなく、感情に働きかけるものだということだ。
ナルシシストの目の前で人差し指を立てて振り、相手の間違っているところやこちらの望むことを伝えるのは、あなたをより効果的に操る方法を教えるようなものだ。
ここでの目標は、彼らの「もう1人の自分」として、あなた自身を相手のアイデンティティのなかに感情的に入り込ませること。
必要となるのは、いわゆる批判的思考ではなく、批判的感情(感情を戦略的に利用すること)なのだ。
■自分自身を愛しているので、自分に似ている人は傷つけない
「悪い」人から最良の部分を引きだすには、次の3つの角度から攻めよう。
1.類似性を強調するデール・カーネギーが勧めていた方法と同じだ。
「脅威を受けたエゴイズムと攻撃性の関連性を弱める」と題された研究では、この角度からの働きかけが、「もう1人の自分」という感覚を直接的に高めることが示された。
類似性を強調することは、実際、非ナルシシストよりナルシシストに対してのほうがより大きな効果を及ぼす。
なぜか?
この方法には、じつに巧妙な心理戦的柔道が組み込まれているからだ。
研究者たちは、「この操作は、ナルシシストの弱点である自己愛も利用する」と述べている。
ナルシシストは自分自身を愛しているので、もし誰かが自分に似ているとしたら、どうしてその他者を傷つけることができるだろう?
この手法を用いた実験結果では、「被験者(ナルシシスト)が相手と重要な類似性を共有すると信じた場合には、自我脅威(自己評価が脅かされる)状況においてさえ、自己愛的な攻撃性は完全に弱められた」。
しかも、大した類似性でなくても、たとえば誕生日が同じだとか、指紋の種類が同じだとかをナルシシストに伝えるだけでも効果があった。
■怒りを表すと逆効果だが、落胆を示すことは驚くほど効果的
2.脆弱性を強調する友だちづくりの基本原則である「弱さを見せる」方法はナルシシストにも有効だ。
ただし、慎重を期さなければならない。
弱みを見せれば捕食者が急に襲ってくることがあるからだ。
この方法を実行するうえで要点が2つある。
1つは、自分にとって相手との関係が重要であることを口に出して伝えること。
もう1つは、自分の気持ちを明らかにすること。怒りを表すと逆効果だが、落胆を示すことは驚くほど効果的だ。
今度ナルシシストが嫌なことを言ってきたら、こう返そう。
「傷ついたよ。そういうつもりで言ったの?」 もし彼らに救われる余地があるなら、トーンダウンするだろう。
3.コミュニティを強調する類似性の強調と同様、この方法もまた、普通の人よりナルシシストに対して効果を発揮する。
研究者たちはアルコールに喩えてこう言う。
「日ごろお酒を飲まない人のほうが、アルコールの効果が大きくなる」
同様に、ナルシシストは共感や感情移入に不慣れなので、共感を寄せられると、常人より心にぐっと刺さる。
彼らに家族や友人、人とのつながりを思い起こさせよう。
「共感」は、ナルシシストたちのデフォルト設定にないので、ギアを入れ直してやればいい。
もしそれで彼らから肯定的な反応が得られたら、犬のしつけに倣って、「正の強化」を行う。つまり、褒めてあげよう。
■多くの場合、ナルシシストたちは報いを受ける
それでは、相手が臨床レベルのナルシシストで、あなたが逃げることもできない場合にはどうすればいいだろう?
最終的な選択肢は、2つのB、すなわち「境界線(ボーダー)」と「交渉(バーゲニング)」だ。基本的に、「もう1人の自分」の正反対である取引関係に徹する必要がある。
それにはまず、境界線を確立しよう。
これ以上は容認できないということは何か。
そして、彼らが境界線を越えたらあなたはどうするか。
毅然として一貫性のある、しかし意地悪でない態度を貫こう。
次に交渉だ。ウィンウィンの関係に集中しよう。
あなたが彼らの望むものを持っていれば、ナルシシストたちはたいてい協力してくるはずだ。
必ず彼らに前払いさせるようにし、つねに相場より高い価格を設定しよう。
朗報としては、つき合いが長期に及ぶと、ナルシシストは歳とともに軟化する傾向がある。
長年のうちに、現実が彼らの物語をたたきのめし、それによる合併症も増えていく。
あるいは、過去に彼らに痛めつけられた人びとが、斧や松明を手に蜂起してくるのだ。
ここでカルマの話を持ちだしたくはないが、非常に多くの場合、ナルシシストたちは報いを受ける。
自らの幻想をそのままのレベルで永遠に維持できる者はそういないからだ。
彼らと付き合わざるを得ないなら、どうにか対処してほしい。
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エリック・バーカー(えりっく・ばーかー)
作家 大人気ブログ“Barking Up The Wrong Tree”の執筆者。
脚本家としてウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスなどハリウッドの映画会社の作品に関わった経歴を持ち、ニューヨーク・タイムズ紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙などに寄稿している。
著書に日米ベストセラーとなった『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)などがある。 ----------