9割の人は人前でしゃべるのが苦手…精神科医が「話下手を悲観する必要は全くない」と断言する納得の理由
樺沢 紫苑 精神科医
2023年05月28日 PRESIDENT Online
深く悩んでいることを解決するにはどうすればいいか。
精神科医の樺沢紫苑さんは
「まずは世の中の大多数の人が同じように悩んでいることを知ることだ。
人間は『ネガティブ・バイアス』に引っ張られやすい。
悩んでいること自体、多数派であり、当たり前だ」という――。
※本稿は、樺沢紫苑『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■「普通」に考えるだけで「楽」になる証拠
現在悩んでいることに対して、「白か黒か」はっきりさせないと気持ちが悪い人もいるかと思います。
本稿では、具体的な悩みを例にあげて解説していきます。
Twitter調査「人前で話すのが得意ですか?」
結果は、「得意」17.8%、「苦手」82.2%。 それから6カ月後に、同じ質問を投稿しました。
ただし選択肢は、「得意」「普通」「苦手」の3つです。
結果は、「得意」9.4%、「苦手」67.1%、「普通」23.5%でした。
「普通」という選択肢を入れるだけで、「(話すのが)苦手」と答えた人は82.2%から67.1%に、約15%も減少したのです。
「苦手か得意か」の0/100思考だと、ネガティブが強い人は、すぐに「苦手」と考えてしまいます。
しかし、「普通」という選択肢を入れるだけで、15%もの人が「苦手じゃなくて、普通くらいかな」と思えたのです。
反対に見れば、三択にしたら「得意」という人が17.8%から、8.4%も減少しました。
約半分になり、「人前で話すのが本当に得意」という人は10人に1人もいないという結果です。
あなたが、「人前で話すのが苦手」であったとしても、悲観する必要などまったくありません。
「人前で話すのが苦手な私は、ダメだなあ」 いいえ! 90%以上の人たちは、人前で話すのが得意ではない。
「話し上手」は、非常に高度なスキルなのです。
あなたは91%の多数派であって、それを無理して「話し上手」になろうとする必要はないのです。
■「自己肯定感が高くない」人は86%と多数派である
1つのデータだけ見ても、「本当か?」と疑う人もいるでしょう。
別な質問で、再検証しました。
Twitter調査
「あなたの自己肯定感は、高いですか? 低いですか?」
結果は「高い」26.2%、「低い」73.8%。
それからやはり6カ月後、同じ質問を「高い」「普通」「低い」の選択肢で投稿しました。
「高い」13.8%、「低い」58.4%、「普通」27.8%という結果でした。
「普通」という選択を入れることで、「自己肯定感が低い」と答えた人は、73.8%から58.4%に、15.4%も減少したのです。
さらに三択にすることで、「高い」という人が、26.2%から、13.8%に減少しました。
なんと、これまた「話し方」の調査と同様、約半分に減少したのです。
「自己肯定感が低い」と悩み、落ち込み、自分を責める人がいます。
しかし、自らを「自己肯定感が高い」と思っている人は、7人に1人しかいません。
7人中6人が、「自己肯定感が高くない」。
「自己肯定感が低い」は、過半数を超えています。
「自己肯定感が高くない」のは、実に当たり前。
あなたは86%の多数派なので、卑下する必要はないのです。
■人間はポジティブよりもネガティブに引っ張られやすい
「良いか悪いか」ではなく、「良い」「普通」「悪い」で考える。
「好きか嫌いか」ではなく、「好き」「普通」「嫌い」で考える。
「0か100か」ではなく、「65」や「70」もありと考える。
たったこれだけの思考の切り替えで、気分がものすごく楽になるのです。
認知バイアスの1つとして「ネガティブ・バイアス」というのがあります。
人間は、ポジティブよりも、ネガティブに引っ張られやすいという傾向です。
▼自分の長所よりも、欠点に注目してしまう
▼仕事の「うまくいっている部分」よりも「うまくいっていない部分」に注目してしまう
▼「ほめられた言葉」よりも「批判された言葉」が記憶に残る
▼ポジティブなニュースよりも、ネガティブなニュースを見てしまう
これらは全て「ネガティブ・バイアス」です。
つまり、自己肯定感が「高いか低いか」の二択で「低い」と判断してしまうのは、認知バイアスであり、脳の基本的なプログラムなのです。
「ネガティブで考えてしまう」のは、あなたの性格ではない。脳の仕組みです。
「脳のプログラム」なのですから、「0/100思考をやめよう」「ネガティブ思考をやめよう」といっても、なかなかやめられるものではありません。
■「認知バイアス」を正して「普通」を意識する
そこで、「三択で考える」「選択肢に『普通』を入れる」を意識しましょう。
そうすると、誰でも、今日から実践できるようになります。
「楽しいか苦しいか」ではなく、「ボチボチ」「まあまあ」「普通」という選択肢を入れてみる。
それだけで、「苦しい」が「ボチボチ」に変わります。
悩みの3徴の1つである「つらい」「苦しい」を、こんな簡単な方法で減らすことができます。
安心してください、あなたは「多数派」です
「こんな欠点、短所を抱えてしまった。自分だけ、なんて不幸なんだ」
日本人の多くは、平均から外れることを嫌います。
「普通」や「人並み」が安心で心地よい。
そこから外れると、不安になり、なんとか「普通」「人並み」になりたいと願います。
しかし、安心してください。
あなたは「普通」であり「人並み」です。
たとえば、人前で話すのが苦手な人は、「自分も他の人のように、人前で堂々と話せたらいいのに」と思いがちです。
しかし、前述したTwitter調査の結果を見ればわかるように、「話すのが得意」と思っている人は、10人に1人です。
残りの9人は話し下手。
「話すのが得意ではない」のは、実に当たり前のことで、圧倒的な多数派。
なのに、なぜそこを悩むのでしょう?
あなたは、普通です。多数派です。だから悩む必要などありません。
■みんな同じ劣等意識を抱えている
ほとんどの人は、他の人と同程度の「普通」にもかかわらず、劣等意識を持って悩んでいます。
この仮説を証明するために、10の質問を、Twitterに投稿しました。
Twitter調査
「あなたは内向的、それとも外交的?」
「内向的である」と答えた人は80.0%でした。つまり内向的な人が普通であって、外交的な人は特別なのです。
「職場の人間関係で悩んでいる」人は、どのくらいいるでしょうか。
調査の結果、「人間関係で悩んでいる」と答えた人は67.2%。3人に2人が人間関係で悩んでいます。
自分の職場の人間関係が良くないと「どうしてこんな会社に就職してしまったのだろう」「なんて自分はついてないんだ」と思うでしょうが、世の中の3分の2の職場で、人間関係が良いとは言えないのです。
つまり、人間関係がギスギスしている職場が普通。多数派なのです。
■発達障害は10人に1人いる。人生が台無しにはならない
「毒親で悩んでいます」
Twitter調査
「あなたの親は、毒親ですか?」
「はい」と答えた人は、なんと49.4%もいました。約2人に1人が自分の親を「毒親」と認識しているのです。
ちなみに、投票数は905票で、決して少なくはありません。
毒親というのは特別なものではなく、どこにでもいるのです。
「自分の親が毒親だ」というのは普通のことで、そもそも親とは、子供を支配したがる。
そういう存在なのかもしれませんね。
「発達障害と診断され、落ち込んでいます」
『樺チャンネル』に寄せられる質問のなかでも、非常に多い質問の1つです。
自分の子供、あるいは自身が発達障害と診断されると、ドキッとするものです。
「自分も発達障害なのか」と落ち込む気持ちはよくわかります。
では、発達障害の人はどれくらの割合でいるかご存じでしょうか?
最近の研究では、日本人の児童の6〜10%が発達障害と診断されるそうです。
米国の研究では、20歳までに精神科を受診し、発達障害の診断を受けた人の数は、10%と報告されています。
つまり、10人に1人は発達障害なのです。
さらに、「発達障害グレーゾーン」というのもあります。
発達障害まではいかないが、「生きづらさ」を抱えている人たちです。
「発達障害グレーゾーン」は、発達障害と同程度はいると推測されますから、そうなると5人に1人は「発達障害」か「発達障害グレーゾーン」ということになります。
ネットに出ている発達障害のチェックリストに自分がいくつか当てはまっていたとしても、もはや驚くことはありません。
発達障害の行動特性は、マイナスにもプラスにも働きます。
「自分は発達障害です」と公言している著名人も多い。
発達障害だからといって、人生が台無しになるようなことはないのです。
■悩みの原因は「あなた」自身
どれもこれも、ご本人にとっては深刻な悩みだと思います。
「つらい」「苦しい」とネガティブ感情を払拭できずにいるのでしょう。
しかし、「自分だけが、こんな状況になってしまった」「自分だけが不幸だ」というのは、データから見て明らかに誤りである、ということをここではお伝えしたいのです。
世の中の大多数の人が、「自分と同じ悩みを持っている」ことに、ほとんどの人は気付きません。
「圧倒的に多数派」の自分を、少数派のダメ人間と考えて、「自分だけが」と悲観的、自責的になり、自己卑下しています。精神的に痛めつけ、自分でマイナス感情を作り出している。
悩みをより深いものにしてしまっている。
あなたの悩みの原因は、あなた自身なのです。
ほとんどの悩みは解消できると私は信じています。
その第一歩が、自分は「普通」であり、「多数派」だと知ることです。
世の中の人たちがどんなことで悩んでいるのかを明らかにするために、本書では、私のアカウントによるTwitter調査を20回以上行い、独自データを収集しました。
データ数はだいたい千前後です。
ウェブサイト上にも、多数の調査、アンケートの結果が出ていますが、対象数が500人以下と少ないものが多いのです。
調査で得られたデータを基に、私は声を大にして言いたい。
悩んでいるのは、あなただけではない。
あなただけが不幸なのではない。
あなたは、実は、ごく「普通」で、むしろ「多数派」。
ですから、自分を責めないでください。
「みんなも同じことで悩んでるんだ」と心から理解できれば、あなたのマイナス感情の大部分は昇華されるばすです。