「アメリカ軍が沖縄から撤収の動き」が加速中…
ついに「日米同盟だけでは日本は守れない」事態が現実に?《嘉手納から54機のF15が退役、以後「戦闘機の常駐ナシ」の計画》
6/20(火) 現代ビジネス
北大西洋条約機構(NATO)加盟31ヵ国のうちの23ヵ国に日本とスウェーデンを加えた25ヵ国が参加する空軍演習「エアー・ディフェンダー23」が6月12日からドイツ国内で行われている。
ドイツ空軍の説明によると、今回の空軍演習は、航空機約250機、人員約1万人でNATO創設以来最大の規模であるとしており、23日までの日程で実施される。
日本の参加としては航空自衛隊によると、トップである航空幕僚長自らが本演習の会議に出席することになった。
そして実は海上自衛隊では以前から、北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対する警戒監視活動において、また米海軍が主導する「FONOP: Freedom Of Navigation OPeration(航行の自由作戦)」においても、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取り組みとしてNATOとの協力関係を築いてきたという経緯がある。
今回の合同軍事演習は、この海自の動きを追うような形で、空自がNATOとの連携を強めたとも、見ることができる。
これは何を意味しているのだろうか。
米軍による沖縄からの撤収の動き
前述のように、海上自衛隊だけでなく、航空自衛隊が遠く離れた欧州のNATO加盟国とも連携を深めようとしているのには、それなりの理由がある。
それは、台湾情勢がますます緊迫化してきている昨今において、航空自衛隊が日米同盟のみに頼ることの危険性を意識し始めたからである。
このきっかけとなったのが、米軍の「沖縄からの撤収」の動きである。
米軍は、本年1月26日、沖縄に駐留する海兵隊約4,000人の移転先となる米領グアムの基地「キャンプ・ブラズ」の発足式典を開き、正式に運用を開始した。
そして、来年以降、沖縄からの部隊移転が始まる。
これは、沖縄の米軍による負担軽減策として日米が合意の上で進めてきたものであるのだが、米軍の沖縄からの撤収の動きはこれを契機に加速しつつある。
昨年の11月には、沖縄の米空軍嘉手納基地を拠点とする計54機のF15戦闘機が、2023年以降老朽化に伴い退役することに関連し、F-15 の退役後は、戦闘機を嘉手納基地に常駐させず、アラスカからステルス戦闘機F-22が6ヵ月ごとに入れ替わるローテーション方式で沖縄に飛来することになったと、内外のメディアが伝えた。これはおそらく事実であろう。
日米同盟に頼る「日本のリスク」
つまり、米国は、中国から沖縄を射程に入れた精度の高い数百発に上る弾道ミサイルなど各種ミサイルによる飽和攻撃を受けた場合、完璧な防御は不可能であると判断し、根拠基地として戦闘機を常駐させることを止めようとしているのである。
これは、航空自衛隊にとって憂慮すべき事態である。
なぜならば、常駐して常に基地周辺で訓練を実施している部隊と、ローテーションで本国から飛来してくる部隊とでは、空域特性や周辺環境などに関する認識に差があるので、防空能力にも影響してくる。
ローテーションで飛来して間もない部隊なら、航空自衛隊との連携も常駐部隊の時のようにうまくは行かないだろう。
米国側の事情により、ローテーションがうまく回せず、一時的に米軍の戦闘機が不在になることも十分考えられる。
これは、わが国にとって大きなリスクである。
このリスクを軽減するために、米軍だけに頼らず、欧州のNATO加盟国空軍などとも連携することが必要になってきたのである。
これは、もちろん航空自衛隊だけの問題ではない。
わが国は、日米安全保障を国防の根幹としているが、もはや現在のわが国周辺情勢にかんがみると、日米同盟だけに頼っていては、国の防衛がおぼつかなくなってきているのである。
「中国包囲網は幻?」ブリンケンの訪中
バイデン米大統領の中国に対する外交政策を見ても、どこか腰が引けているような気がしてならない。
というのも、この18日から、ブリンケン米国務長官が北京を訪問し、バイデン大統領が熱望している中国の習近平国家主席との首脳会談を実現しようと模索したようであるが、これはまさに中国にとっては米国が「三顧の礼をもって首脳会談を求めてきた」と解釈される類の外交であり、6月7日付の本誌、浅香豊氏の『バイデン政権が見せる「対中姿勢」の大いなる矛盾…西側による「中国包囲網」はもはや幻想にすぎない』に書かれているようなことが、現実味を帯びてきたような気がするのである。
わが国がNATOの連絡事務所を東京に設置しようとする動きに対して、フランスのマクロン大統領が反対しているようであるが、これは中国を斟酌してのことであろう。
これも、中国の巧みな外交がNATOの加盟国にも影響を及ぼしているということなのだろう。
しかし、逆に言えば、このような動きは、わが国がNATOと連携することを中国が脅威に感じているということでもある。 今後もわが国は、軍事的に「相手の嫌がる体制を強化するのが抑止力につながる」ということを念頭に、NATOだけではなくインドやオーストラリアなど、同じ価値観を共有し、中国の脅威に直面している民主主義国との軍事的つながりを強化することに尽力する必要があろう。
後編記事『「もう日米同盟だけでは日本は守れない」に呼応する自衛隊の「NATOとの連携強化」と「プロとして示威行動の間合い」を習得していない「中国軍の危うさ」』につづく。
鈴木 衛士(元航空自衛隊情報幹部)