<社説>
マイナカード 返納の重み受け止めよ
2023.07.07 東京新聞
マイナンバーカードを巡るトラブルが相次ぎ、カードを自主的に返納する動きが広がっている。
にもかかわらず、政府は健康保険証を廃止してマイナ保険証に一本化する方針に固執している。
返納を重く受け止め、制度の在り方を根本的に見直すべきではないか。
マイナ保険証を巡っては、新たなトラブルが発覚した。
マイナ保険証の所有者と別人の顔が専用読み取り機で認証されたり、医療費の本人負担割合の情報がマイナ保険証と従来の保険証で食い違い、マイナ保険証の情報が誤りだったりした事例だ。
加藤勝信厚生労働相は五日、衆院特別委員会で開かれた閉会中審査で、マイナ保険証への移行抜きでは「医療を守れない」と重ねて強調したが、マイナ保険証による手続きのトラブルが肝心の治療を妨げているのが実態だ。
認知症患者らが暗証番号を管理できない問題では暗証番号抜きのカード導入が打ち出された。
用途はマイナ保険証に限定されるというが、現行の保険証を残しさえすれば解決できる問題だ。
相次ぐトラブルに、政府は六月「マイナンバー情報総点検本部」を設置。
岸田文雄首相は中間報告の取りまとめを八月上旬に前倒しするよう指示したが、制度堅持の姿勢は崩さず、カードの必要性について納得できる説明はない。
そもそも情報のひも付けによるトラブルは、政府が自治体などに作業を急がせたことが原因だ。
点検手法を示さず迅速化だけを命じる政府の姿勢からは、原因を追究する誠実さは感じられない。
点検作業を指揮する河野太郎デジタル相も、自治体の現場や旧民主党政権に責任転嫁しようとしたり、カードの名称変更に言及するなど迷走ぶりが目に余る。
マイナカードにひも付けされた個人情報は経済界には顧客としての利用価値があり、政府には個人監視の有力手段となり得るが、ドイツやフランスでは各行政機関が異なる番号で個人情報を管理し、英国でも類似のIDカード法が廃止された。
プライバシー保護は民主主義国家での大きな流れだ。
マイナ保険証に別人情報が登録され誤って投薬されれば命にかかわる。
カードの返納に込められた思いを軽く見てはならない。
政府はカードの運用をいったん停止し、個人情報を集約することの是非を問い直すべきである。