【人間ドックの日】
結局バリウム検査と胃カメラはどっちがいいの?
中高年が絶対に知っておきたい、胃がん・大腸がん・肺がん検診の知識
2023.7.12 集英社オンライン
がんの早期発見には欠かせない「がん検診」のいろは
中高年にとって必ず理解しておいてほしい内容になります。
がん検診は、一部を除いて基本的に「病気(がん)を早期発見するための」検査です。
胃がん検診
日本人の胃がんの死亡数はがんの中で3位、罹患数も3位です。
身近ながんなのでしっかり対策をしましょう。
まず、胃がん検診には胃がん自体を「予防」するための検査と「早期発見」するための検診に分かれます。
予防のためのピロリ菌検査
最初に、胃がんを予防するための検査についてですが、こちらが「ピロリ菌検査」です。
ピロリ菌というのは顕微鏡で見るとまるでミドリムシのような形をしている細菌で、「胃酸を中和する」という特殊能力を持っており、胃の中でのうのうと生き続けることができるのです。
胃の中で住んでいるだけならまだ良いのですが、病原性をもつタンパク質を胃の内側の壁に注入するというなんとも恩知らずな細菌で、このピロリ菌が胃がんの原因の9割方を占めるとされています。
そして良い情報としては、このピロリ菌は現代の若者においては感染者が格段に減っているということです。
ピロリ菌は昔の井戸水や、衛生環境の悪い水などから感染するもので、現代の衛生環境はかなり改善されているので、必然的に感染者も減っているのです。
しかし、今の中高年にとっては話が別で、知らないうちにピロリ菌を体内に取り込んでいて、気づかないうちに胃を荒らされている恐れがあります。
なかなかピロリ菌の有無を確認する検査があるという事実を知らずに年月が経過してしまう場合もあり、ピロリ菌については本来早めに知っておいてほしいところです。
検査方法としては、血液検査でピロリ菌に対する抗体を調べたり、尿検査を行ったりすることでわかります。
治療はピロリ菌を退治する抗生物質を使用します。
実はピロリ菌除菌の有効性についてはまだ論文としては決着がついていない(既に胃を荒らされてしまったなら、除菌しても意味がないのではないかという意見もある)のですが、個人的には自分だったら胃がんのリスクを上げると確実にわかっている細菌が体の中にいたら、除菌しておきたいなあ……と思うところであります。
あなたはいかがでしょうか?
早期発見のためのバリウム検査と胃カメラ検査
次に、胃がんを早期に発見するためのお話です。
ピロリ菌を除菌したから、あるいはピロリ菌に感染していなかったから胃がんには絶対ならない、というわけではないので、胃がん検診は2段構えで受けておきましょう。
結局バリウムと胃カメラはどっちがいいの
胃がんの検診には2種類あります。それは「バリウム(胃レントゲン)」検査と「胃カメラ(内視鏡)」検査。
バリウム検査も胃カメラ検査も、受診することで男女ともに死亡率が下がったというデータも報告されており、どちらもおすすめできる検査です。
そこでよく話題に上りやすいのが、「一体どちらを受けるべきなのか?」ということ。
どちらも有効性が示されている以上、どちらも受けるという選択でも良いのですが、どちらもある程度苦痛を伴うことが多い検査です。
その上でどちらのほうが良いのか……と考えますと、正解はないですが胃カメラのほうに軍配が上がりそうです。
胃カメラの利点としては、カメラが必ず通過するので、食道やのどの部分の異常があった時も発見できること。
これはバリウムでは無理です。
そして異常を直接目で見て確認できること。
胃の内側の出っ張りやふくらみがあれば、そこから組織をとってきて悪性か良性かを調べる検査に回すこともできます。
また、バリウム検査で異常があった際も、結局次に胃カメラをやらなければならないというのもネガティブな要素でしょうか。
一方、バリウム検査の利点としては、「胃を俯瞰して観察できる」ということが挙げられます。
「スキルス胃がん」と呼ばれる、胃の壁全体に染み込んでいくようにして発生するタイプのがんだと、なかなか胃カメラで内側から見ただけではわからないことがあり、この場合はバリウム検査が活躍することもあります。
ですので一般的には胃カメラを選択される人が多いですし、利点も十分なのですが、バリウムが完全に劣る検査というわけではないことは覚えておいてください。
バリウム検査は40歳以上に毎年、胃カメラ検査は50歳以上に2年に1回、対策型検診として受診することができますので、対策型を利用する場合は年齢に応じて受ける検査を変えても良いかもしれませんね。
胃カメラであれば2〜3年に1回、バリウムであれば1〜3年に1回の検査が推奨されます。
50歳以上の方は定期的に受けるようにしましょう。
大腸がん検診
大腸がんの死亡数はがんの中で2位です。
非常に警戒が必要、かつ有効な検診が存在するがんなので、しっかりと対策をしておきましょう。
まず、結論から申し上げると、とにかく有効なのが「便潜血検査」です。
簡単に言えば検便です。
便潜血検査は、便の中に混じった血の成分を検出し、大腸がんの早期発見につなげるものです。
大腸がんではがんから血液の成分が漏れます。
このわずかばかりの血液が出ているか出ていないかを拾い上げ、陽性の方は大腸カメラで中を覗き、がんの有無を確認するという流れになります。
このように非常にシンプルな検査なのですが、大腸がんの死亡率がなんと20%低下したというデータもあり、アメリカの予防医学専門委員会でも、強く推奨する検査(グレードA)となっています。
そして、便潜血検査ははっきりとおすすめできる検査になるのですが、残念ながら日本では4割程度の方しか受けていない現状があります。
ぜひとも便潜血検査を受けてほしいと思います。
あえて欠点を挙げるとすると、慢性的に痔を抱えている方やクローン病など「炎症性腸疾患」という病気をお持ちの方にとっては少々使い勝手が悪いところでしょうか。
こういった方々はどうしても普段から便に血が混じりやすいので、毎回のように便潜血が陽性に出てしまうからです。
とはいえ、基本的には便潜血検査が陽性であれば次の精密検査(大腸カメラ)のステップに進むという認識で良いでしょう。こういった方々はどうしても普段から便に血が混じりやすいので、毎回のように便潜血が陽性に出てしまうからです。
とはいえ、基本的には便潜血検査が陽性であれば次の精密検査(大腸カメラ)のステップに進むという認識で良いでしょう。
肺がん検診(低線量CT)
日本で死亡数1位のがんが肺がんです。
胸のレントゲンの検査で肺に影が写り、肺がんが見つかる人もいなくはないですが、胸のレントゲン検査は昔の結核予防のために行っていた名残であり、肺がんを早期発見し、死亡率の低下につながったというデータが特にあるわけではありません。 昔からの慣習で行われている部分も少なからずあるでしょう。
痰の検査(喀痰検査)も同じです。
効果が証明されているわけではありませんし、そうそう都合よく検査の時にしっかりした痰が出る人ばかりではないので、ほぼ唾液のような検体を提出してしまう場合もあります。
これではほとんど意味はありません。
唯一といっても良いであろう、肺がん予防に有効とされている検査が「低線量CT」です。
胸のレントゲンだけを撮影した人と比較した結果、肺がんによる死亡率が20%程度低下したというデータもあります。
低線量CTに関しては、行われている施設は「肺がんCT検診認定施設」に限られますが、55歳以上で、ヘビースモーカーの人にはぜひ受けてほしい検査になります。
基本的には、皆さんご皆さんご存じだとは思いますが禁煙が一番の予防法です。
それでもどうしてもたばこをやめられない、もしくはたばこと共に生きていくという決意をされた方は、せめて低線量CTは検討しても良いかもしれませんね。
文/森勇磨