みす防衛の専門家は誰に忖度しているのか?「政策の誤り」を指摘しない異様
文谷数重元3等海佐・軍事研究家
2023/07/15 日刊ゲンダイデジタル
岸田政権が進める「防衛基盤強化」は、恐らくうまくはいかない。
企業支援は防衛産業を補助金漬けにするだけであり、輸出促進も商社を儲けさせるだけで終わるだろう。
しかし、防衛の専門家はそれを口にしない。
安全保障や戦略、あるいは外交、国際政治、国際法で商売している人たちは「防衛装備産業を成長産業にする」は、空虚であり失敗すると知っている。
それでいながら口を閉ざしている。 他分野の専門家では、ありえない話である。政策に誤りがあれば、その不可を指摘するのが専門家の使命だからである。
なぜ、防衛だけが例外となるのか。
政府の政策に異を唱えない人材だけが専門家になれるからである。
民間から安全保障や戦略の専門家になるキャリアパスは狭い。
そしてその経路は政府べったりの安保屋が押さえており選別をかけている。
政府の防衛政策に異を唱えない、宗主国である米国を批判しない人材だけに専門家の職を与えているのである。
だから防衛の専門家は政府や政権を決して批判しないのである。
それが国を誤る事態になると分かっていても何も言わない。
実際、過度に強調された中国脅威論にも、空中楼閣の台湾有事論にも、専門家は苦言一つ呈してはいない。
もちろん専門家にもいろいろいる。
政府方針は常に正しいという幇間ばかりではない。
生計のために仕方なく最低限の肯定だけにとどめる良識派もいる。
問題政策を批判しないが、良心から肯定もせず完黙をとおす廉直の士もいないわけではない。
ただ、批判が存在しない不健全な構造は変わらない。
廉直人士も結局は批判はしない。
だから防衛では政権が思いつきで持ち出すトンチンカン政策がそのまま実行され失敗する。
専門家がその不可を指摘しないのでそうなる。
■安倍政権下の武器輸出も批判せず
例えば安倍政権下で先行した武器輸出である。
インド向けUS2飛行艇、ニュージーランド向けP1哨戒機、C2輸送機の輸出に見込みはなかった。
商品に問題を抱えており、それを政治主導のゴリ押しで売る筋悪案件であった。
それにもかかわらず、専門家は批判せず、実施を許し、失敗するにまかせた。
岸田政権が進めている、今回の「防衛基盤強化」も同じ形である。
もともと、熱意のない産業と目利きのいない防衛省が進める「成長産業化」でしかない。
他省庁の政策であれば、構想段階で部内、部外の専門家の批判を受けて沙汰やみになる中身である。
それが批判を受けずにそのまま実施される。
成功するはずはないのである。 (おわり)