マイナンバーカードでトラブル続出。
政府は勇気を持って運用を一時停止すべきだ
7/23(日) mi-mollet
マイナンバーカードに関する深刻なトラブルが相次いでいますが、河野太郎デジタル大臣が名称を変えるという話まで持ち出すなど、まさに制御不能の状況となりつつあります。
政府はマイナンバーカードの普及を目標として掲げており、健康保険証や自動車免許証との統合化を進めていく方針です。
保険証については来年の10月に紙の保険証を廃止することが決まっており、マイナカードに一本化するスケジュールになっていますから、これは事実上のマイナカードの義務化と考えて良いでしょう。
しかし、実際にマイナカードの運用が始まると、あちこちで深刻なトラブルが発生しており、このままのスケジュールで運用するのは危険な状況となっています。
一部の論者は、システム開発に失敗はつきもものであり、大目に見る必要があるといった主張をしていますが、今回の件には全く当てはまりません。
一連のトラブルは本来、あってはならないものであり、システム全体に深刻な欠陥があることを示唆するものです。
今、発生している一連のトラブルは、複数のデータを連携する際の重複チェックや書式の統一が十分に進んでいない中、無理にデータ連携を図ろうとしたことに起因しています。
これまで個人情報データというのは、多くの機関が様々な書式で保有していました。
例えば銀行では漢字の名前に加えてふりがなを使って本人を特定していますが、一方で戸籍にはふりがなという概念はなく、漢字でしか本人を特定できません。
そうなると戸籍のデータと銀行のデータをシステム上で連携させる場合、誰と誰が同一人物であるのか、機械的に完全一致させられない状態となります
(さらに細かいことを言えば、フリガナはひらがななのかカタカナなのか、姓と名は一文字空いているのか、番地の表記は統一されているのかなど、様々な問題があります)。
こうした問題を回避するために導入されたのがマイナンバー制度です。
全国民に対して、ただ一つの固有番号を振り、すべてのデータにその番号を反映させれば、誰がどの人物であるか確実に示すことができ、住民票のデータと戸籍のデータを結びつけたり、銀行の口座情報を連携させる場合でも、間違いなく個人を紐付けることが可能となります。
しかし、それぞれの機関が持つデータをしっかりとチェックせず、誰にどの番号を振っているのか十分に確認しないまま一気にデータを連携すれば、あちこちで深刻なエラーが発生するのは当然の結果といえるでしょう。
自分の住民票を請求したら他人のものが出てきたといったトラブルはその典型です。
こうした事態を防ぐためにこそマイナンバー制度があるわけで、一連のトラブルが発生していることが自体が問題であり、本末転倒な状況といって良いのです。
政府はかつてマイナンバーカードを普及させないと行政のデジタル化が進まないといった趣旨の説明をしていましたが、これは正しくありません。
カードの保有というのはマイナンバー制度全体のごく一部分でしかなく、カードがなくてもマイナンバーシステムは何の問題もなく運用することができます。
カードがあれば利便性が多少、向上するというだけの話に過ぎません。
しかし政府は、どういうわけかカードの普及ばかりを最優先し、本来、実施しておくべきデータ整備をおざなりにしたままシステム連携に邁進し、惨憺たる結果を招いているのです。
一部報道では、政府がここまでカードの普及を急ぐことの背景には、何らかの政治的・ビジネス的利権があるといった指摘も出ているようです。
本当のところは分かりませんが、これだけ多くのトラブルが発生することが分かっていながら、カードの普及だけをゴリ押ししている状況を見ると、何かウラがあるのではないかと疑われても仕方のないことだと思います。
マイナンバーは行政デジタル化のカギ握る制度であり、各国にIT化で後れを取った日本にとって、重要な政策であることは間違いありません。
この大事な制度をしっかりと運用するためにも、杜撰な状態でカードの普及を進めることだけはやめるべきでしょう。
政府は勇気を持ってプロジェクトを一旦停止する決断を行い、問題を解決してから再スタートすべきだと筆者は考えます。
その方が結果的にはトラブルは少なくなりますし、行政のデジタル化もうまくいくはずです。
河野氏は突破力や指導力のある政治家と言われています。もしその力量がホンモノなのであれば、たとえ政治的に難しい状況であっても、一旦立ち止まるという決断を下せるはずです。
河野氏の政治的力量がまさに試されているといえるでしょう。
加谷 珪一