2023年08月04日

大量退校、玉砕美談…防衛大で今何が起きているか 教授が実名告発

大量退校、玉砕美談…防衛大で今何が起きているか 教授が実名告発
2023/8/3 毎日新聞

 新入生の大量退校、多発する不祥事やハラスメント、極右論者の浸透……。どこの話かと思えば、これが日本の安全保障の要、幹部自衛官を育てる防衛大学校(神奈川県横須賀市)で起きていることだというから衝撃である。
防大の等松春夫教授が実名で告発した。
防大で何が起きているのか?【構成・吉井理記】

新1年生の約20%が退学  
――毎日新聞のインタビューに先立ち、集英社オンライン上で論考「危機に瀕する防衛大学校の教育」を公表しました。
学校運営の硬直化や教官・教育の質の低下が多くの退学者や不祥事を生んでいる、日本の安全保障にとって危機的だ、と警鐘を鳴らすものです。

なぜ実名で告発を?
◆いくつか理由はありますが、ここ3年ほど、アジア・太平洋戦争中の最悪の戦いの一つ「インパール作戦」の戦史の英訳の仕事をしていたことがあります。  

――1944年に旧日本陸軍が北ビルマとインド東部で展開した作戦ですね。
苛酷な戦場の実情を無視した軍司令官の作戦指導が、膨大な犠牲者を生みました。

◆英訳の過程で資料を大量に読み直したのですが、きちんとしたリーダーがいないことがどれほど悲惨な結果を招くか、改めて痛感したのです。
防大は将来の自衛隊のリーダーを育てる学校ですが、防大の現状を思うと、自衛隊もいずれ同じことをやりかねない、と思いました。
これまでも内部で問題提起をしてきましたが、改善の兆しはない。
まともな組織になってほしい、という願いで世論に訴えました。  

――最大の問題は少なからぬ学生が防大や自衛隊に背を向けてしまっていることだ、と。どういうことですか?  

◆少し説明しましょう。
防大を卒業した学生は、自衛官に任官し、さらに陸海空の各幹部候補生学校で学んで部隊に配属されます。
毎年、メディアは自衛官にならなかった卒業生を「任官辞退者」と報道しますが、卒業段階の数字だけ取り上げてもあまり意味はない。

 ――昨年3月の卒業生479人のうち72人が任官を辞退し、自衛隊を去ったことは驚きをもって報じられましたが……。  

◆それも大変な問題ですが、実情はもっと深刻だからです。
昨年で言えば、4月入学の新1年生488人のうち、1年以内に約20%、100人近くが退学してしまったのです。
2、3年生で退学する学生も相当いますし、任官して幹部候補生学校に進んでから間もなく退校する者も少なくありません。  
――読売新聞3月2日付朝刊では「今の若者は打たれ弱いから」などと理由が説明されていますね。

◆とんでもない。防大の現役教官として申し上げるが、それは違う。
体力もあって努力もいとわず、良きリーダーや指揮官になるだろう、と思われる若者ほど幻滅して辞めるのです。
私も彼らの悩みをじかに聞いてきました。
そんな人材が辞めるのは自衛隊にとって由々しき事態です。

――それほど熱意のある学生がなぜ退学を?  

◆大別して二つの理由がある。
まず「学生舎」の問題です。
学生は学生舎と呼ばれる建物で1〜4年生の8人が1部屋で暮らし、上級生が下級生の生活を指導(学生間指導)します。
善良な上級生なら良いですが、悪質な3、4年生のいる部屋もある。
いじめて退学させたり、「指導」と称して私用を言いつけたりする上級生もいますし、2020年には上級生が下級生を巻き込んでトランプ賭博事件を起こし、警務隊が動く事態になりました。
13年には学生たちがウソの負傷申告をして保険金を不当に得た事件も発覚しています。  

――賭博は違法行為です。上級生に逆らえないのですか。  

◆学生間指導のあしき結果で、下級生は上級生に無条件で従う、という「空気」が醸成されてしまうのです。
これは本来はおかしい。
幹部自衛官は上官の誤りを制止するのも責務です。
そのまともな感覚を持ち続ける学生ほどあきれて辞めてしまう。
学年別の部屋にする、学生間指導をやめるなど、学生舎のあり方の見直しは必須です。

衝撃の「エア通訳」  
――ではもう一つの理由とは?

◆防衛学教育学群の一部の教官と科目の質があまりに低く、学生の期待に応えられないのです。
防大は「日本で唯一防衛学を学べる学校」であることを強調しています。
実際、私も面接で志望者から「防衛学を学びたい」という声をたびたび聞いてきました。
防衛学とは諸外国でいえば軍事科学であり、体系性を持った学問です。ですが……。  

――現実は違う?.  

◆同群の教官40人のうち専任は10人で、残り30人は自衛隊のローテーション人事で制服自衛官が務めます。
中には優秀で熱心な教官もいますが、そうでない人も少なくなく、真に防衛学に値する授業が少ないのです。
例えば「リーダーシップ教育」と称して、旧日本軍の将軍や提督を持ち出し、彼らがどう部下を統率したか、あるいはいかに勇敢に戦って玉砕したか、といった精神論のような話を聞かせる。
科学的に安全保障や軍事を考える防衛学と呼べるシロモノではない。
学生から何度も「あんな授業で良いのか」という声を聞きました。  

――旧軍の偉人談を聞かされても……。  

◆さらにあきれるのは、教官が偏った思想の論者らを自分の授業の枠内でゲストスピーカーとして招き、講演をさせることです。
私が実際に見たケースで言えば、最晩年の英国人ジャーナリスト、故ヘンリー・ストークス氏(22年死去)がいます。
彼を招いたのは海自3佐の准教授です。

――補足すると、若い頃は三島由紀夫と親交を持ち、「ニューヨーク・タイムズ」東京支局長を務めた著名ジャーナリストですね。
晩年は極右論壇でもてはやされ「大東亜戦争は日本が勝った」といった著書で「大東亜戦争肯定論」を唱えました。
陰謀論や歴史修正主義的な本もある。
ただし、息子のハリー杉山さんがNHKの番組などで公表したところによると、12年ごろからパーキンソン病と認知症を患っていたそうです。  

◆問題の講演を聞いていて、驚きと不審の念を持ちました。
というのは、ストークス氏には「通訳」と称する男性が付き添ってきた。
ストークス氏は英語を中心にスピーチをして、男性が「通訳」するのですが、私の記憶では、ストークス氏が英語で話していないことまで、日本語で「通訳」していたのです。  

――「エア通訳」ですか。すごい光景ですね。  

◆それでも防大自体では学校としてトンデモ論者を招いたことがないのでまだましですが、幹部候補生学校や幹部学校など他の教育機関では、組織として公式に招いてしまっているんです。  

――20年には陸自の幹部候補生学校が、日本の近隣国について「韓国はゆすりたかりの名人」「韓国の民度が低いというのは単なる事実」といった言動を著書などで繰り返してきた作家の竹田恒泰氏に講演させましたね。  

◆防大時代の教え子で、幹部候補生学校に在学していた若い自衛官からこんな話を聞きました。
竹田氏の講演を聞かされ、感想文の提出を求められた教え子は、竹田氏の言ったことのどこが間違いかを列挙して提出した。後で教官に「失礼だ。書き直せ」と命じられたそうです。  

――失礼って……。自衛隊のエリート養成機関で、そんな講演がまかり通るのはなぜでしょう。  

◆防大でも、文民の教官は一般大学同様の審査を経て採用されますが、多くの自衛官教官は前述の通り、自衛隊のローテーション人事です。
学校教育とは全く別のことをしていた人でも、防大では1佐は教授、2・3佐は准教授という肩書がつく。
修士や博士の学位を持ち、論文や研究書を書いて指導や研究に熱心な教官もいますが、多くはそうした学位もめぼしい論文も指導経験もなく、教員の適性を欠いていると言わざるを得ない。  

――それで教えることができるのですか。  

◆代々受け継がれてきたマニュアル本に沿って授業をするんです。
だから空虚な紋切り型の学習に陥りやすく、中には現在は否定された古い学説を用いて教える人もいる。
のみならず、偏った言説に染まって問題のある論者を招く教官も出てくるのです。  

――そんな授業や学生舎内の理不尽さに学生は幻滅して退学してしまうわけですね。
なぜ優れた人を教官にしないのでしょうか。  

◆一般企業も同じかもしれませんが、自衛隊でも一線部隊が花形で、後方の教育部門は二流の配置だ、という意識があります。
何より一線で能力的にも人間的にも秀でていると評される自衛官は一線が手放さない。
人も金も限られる自衛隊は、第一線に優れた人材を集中させたい、と考える傾向もあります。  

――ならば防大に来る自衛官は?  

◆パワハラや服務に問題のある人が少なくないのが実情です。
一線部隊に問題のある人物を置いておくと、大きな事故やトラブルを招きかねない。
だから仮に不祥事があっても、学内で封じ込められる防大はそんな人物の都合の良い異動先になるのです。
実際、パワハラで知られ、在米大使館の防衛駐在官時代に部下を蹴っとばすという暴行事件を起こし、「ケリー将軍」というあだ名をつけられた陸将が教授に収まりました。
19年には前任地で金銭トラブルを起こした海自3佐の准教授が防大で多数の学生を巻き込む補助金詐取事件を起こし、懲戒免職になっています。  

――問題は根深い。一朝一夕で改善とはいきませんね。  

◆防衛省も自衛隊も、幹部自衛官の教育の何たるかを真剣に考えていないと言わざるを得ません。
でもいくつか手はある。
防大に来る自衛官の人事権は学校長ではなく、自衛隊の幕僚監部が持っています。
教官としての能力や適性に疑問があっても、学校長は実際問題としてその人事を拒めません。
学校運営を担う事務官ら官僚の人事権の大部分も、やはり防衛省の内局が握っている。  

――人事は組織の基本ですが……。  

◆防大に送られてくる官僚の中には、本省への復帰のため、自分の在任中の「事なかれ」ばかりを考えるような人もいます。これでは長期的な視野で、防大の教育はどうあるべきかを考えることはできません。
最低でも校長に人事の協議権は必要です。
自衛官教官も学識や適性を外部機関がチェックして、クリアした人だけを教官にするなどのフィルタリングは欠かせません。  
   *      *  
等松教授の指摘に対し、防大の久保文明校長は「過去に教官・学生によってあってはならないことが起きたことは事実」だが、現在はさまざまな努力によって改善してきているとして、「過去の事案で現在の防大をも象徴するかのように決めつけるのは公正さに欠ける」などとする反論を公表している。

とうまつ・はるお
防大人文社会科学群国際関係学科教授。
専門は国際関係史
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 教育・学習 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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