「政府は赤字が基本?」100人の島に例えて解説
日本国が存続する限り、円の価値は消えない
ムギタロー : 経済評論家
2023/08/31 東洋経済オンライン
値上げや増税で経済を圧迫している日本。
結局国の赤字はどれほど問題なのか? 債券の価値って? 知っているようで意外と知らない「お金の働きと仕組み」をわかりやすく説明した『東大生が日本を100人の島に例えたら 面白いほど経済がわかった!』著者のムギタロー氏が解説します。
国の赤字はどれくらい「ヤバい」のか?
「日本の借金が○○兆円」とニュースなどでよく見ます。
この借金というのは「債務」のことです。
前回の記事で解説した通り、日本政府は、国債を約1000兆円発行しています。
日銀は約600兆円の「円」を発行していて、国債を約500兆円買い取っています。
国(日本政府+日銀)の資産と債務をざっくり整理すると、以下のようになります。
<国(日本政府+日銀)の合計資産> 国債500兆円分
<国(日本政府+日銀)の合計債務> 国債1000兆円分+通貨発行600兆円分 通貨発行600兆円分が債務として計上されているのに違和感があるかもしれませんが、日本銀行が1万円札を発行すると、日本銀行の債務が1万円分増えることになっています。
日本銀行の公式HPにも「銀行券は……(中略)……現在も負債として計上しています」という記載があります(※負債=債務)。
国(日本政府+日銀)は債務超過していますが、これは問題はありません。
前回の記事で解説した通り、ただ、国による「通貨発行量」を計上しているのと同じことだからです。
世界の主要国政府も債務量を増やしている 以下のグラフは、2001年時点でのその国の債務量を「1」として、債務量がどのくらい変化したかを示すグラフです。事実として、世界中の政府も債務量(≒通貨発行量)を増やしていっています。
(2021年時点では)日本の政治は「政府と日銀を合わせて考えても債務超過している。ヤバい。債務を減らそう! 増税したり支出を減らしたりしよう!」という方向に動いています。
これを前々回と前回の記事で示した西遊記の孫悟空の例え話で言えば、「え、オラとカッパ君を合わせたら、債務が1000億エン分もあるじゃねえか! なんかやべえぞ。無駄遣いをやめよう。
財源が足りない! 増税しよう! もってくれよ国民の身体! 消費税3倍だあぁああ」と騒いでいるような状況になります。
実際は、孫悟空が「強い」限り、債務不履行にはならないのでまったくヤバくはありません。
もしも孫悟空とカッパ君が「エンが足りないから、保育園増やせねえし、保育士の給料上げられない。すまねえ」と言ったら、どうでしょう。
「財源が足りない」という誤解
「いや、エン作ってるの君らなんだから、エンが足りないことはないだろう」と思うのは当然です。
もちろん短期間でとてつもない量のエンを発行したら、島の物価が高騰するなど混乱する危険はあります。
また「保育所を一気にそんなに建てられるほど大工がいない」といった物理的制約もあり得ます。
これらについて心配するのは真っ当なことです。
しかし「エンが足りないから」「オラの債務量が多いのがヤバイから」という理由で、孫悟空が判断を変えるのは、明確に間違いです。
これは意見や考えではなく、単なる事実です。
エンを発行するのはそもそも国ですし、通貨発行すると、国の債務に計上されるため、債務は増えて当たり前だからです。
以上のように、「国は通貨を発行できるので、いろいろとやれること」があります。
でも実際のところ世間は、経済について誤解だらけで、やれることもやらないでいたり、やらなくていいことをやったりしています。
なぜ誤解があるのでしょうか。 原因のひとつに、「日本円」というものを、塩や金属のような「有限な商品貨幣」のようなイメージで捉えている人が多いということがあげられます。
仮にもし、「塩」を税収で集めて、政府が「塩」で支払いをしていた場合、政府の財源は塩の物理的な量に依存するでしょう。
世の中の「塩」の量が増えすぎれば、1人の人間が必要とする塩の量は知れているので、塩の価値は暴落し(急激なインフレ)、限りなく0に近づいていくでしょう。
そこら中に塩が落ちているレベルになれば、塩はお金として機能しなくなるのです。
だから、「塩を増やしすぎるな」「海外から日本の塩に価値を感じてもらえなくなるから」という発想になっても仕方ありません。
しかし、円のような「信用通貨」は違います。
円の量を増やして、物価上昇を進めたところで、「去年は住民税10万円だったけど、今年から30万円」というように、「自由(逮捕されない)の値段」が変わるだけです。
円が増えても価値がゼロになることはない
外国に「日本の産物を買いたい」と思う人がいるかぎり、 「日本のモノを手に入れるには、生産者の日本人に対価を渡さなければならない」 →「日本人は、円に価値を感じるから、円で払ってほしいようだ」 →「誰か、俺のドルを円と交換してくれないか?」 ということになるので、円の需要は消えません。
円とドルの相場は動きますが、日本の産物に魅力があり、国家が存続する限り、日本円の価値がゼロになることはありません。
仮に外国の人が「円そのもの」に価値を感じなくても、日本人にとっては「税金として払えば逮捕されない(=自由)」という価値があるので、円の需要は消えないのです。
よって、「日本が、円を発行しすぎると、インフレが止められなくなるのでは?」という考えは、円を塩のような商品として捉えているために起こる誤解です。
もちろんインフレにはなります。
国が通貨を発行して国を運営する限り、通貨の量が増えていくから当たり前です。
だから緩やかなインフレが良いとされているのです
(※物資の供給不足のときは、インフレし続けることはあります。
飢えた人が100人いるのに、食料が20個しかない状況であれば、通貨を増やしても食料の値段は高騰し続けます。
ジンバブエドルの例などがそれにあたります。
これは物資不足が原因であり、通貨の発行しすぎが直接の原因ではありません。
他にも極端なインフレの例としてギリシャ危機やロシア危機がありますが、これらについても外貨建て債務が原因であり、通貨の発行しすぎが直接の原因ではありません)。