2023年09月23日

野党の顔となった日本維新の会が、令和版「昭和維新」を目指しかねない不安

野党の顔となった日本維新の会が、令和版「昭和維新」を目指しかねない不安
木俣正剛 元週刊文春・月刊文芸春秋編集長
2023/9.22 ダイヤモンドオンライン

大阪と仲が良くない京都で 維新議員が誕生した驚き
 私は京都人です。
1980年から横浜市に住んでいるので、横浜暮らしのほうが長いのですが、いまだに高校野球は京都の高校を応援します。
そんな京都人がびっくりしたのが、京都で日本維新の会の国会議員が誕生したことでした。
 正直、京都人と大阪人は仲がいいとはいえません。
京都人は大阪人を庶民的だと思い、大阪人は京都人をお高くとまっていると考えています。
だから、「大阪ナショナリズム」ともいうべき大阪維新の流れを組む日本維新の会の国会議員が京都で誕生するとは、夢にも思っていませんでした。
 そして、同時にこうも思いました。
京都で当選するなら、日本維新の会は東京も制覇するかもしれない。
つまり、政権政党になりうるかもしれないと。

私は大阪維新という政党ができたとき、ちょっと面白いなと思っていました。
関西人は東京嫌いです。
京都で共産党が強いのも、「反東京=反自民」という心情があるからだと思います。
またドイツでは、同じキリスト教系の保守政党でも、キリスト教民主同盟とキリスト教社会同盟というように、仲の悪いプロイセン地域とバイエルン地域で別の二つの政党が生まれ、連合して政権運営をしていたことがありました。
あんな風に地域政党の連合体になったほうが、自民党の中央集権的体質が変わる、そんな風に考えたからです。

 しかし、大阪維新はともかく、日本の維新を唱えるには、彼らの政策は新味もなく、ただ過激な言葉が並んでいるにすぎないように見えます。
 私には彼らが掲げる「維新」という言葉が、日本を西欧の植民地化から救い、徹底的な封建制度の廃止と近代化への道をつくった「明治維新」を目指すものなのか、
大陸侵略で行き詰まったあとの愛国主義(ヘイト)に凝り固まった「昭和維新」を目指しているのか、わからなくなってきました。

 確かに明治維新には、市民革命などではなく、薩摩や長州など、関ヶ原の合戦に敗れた雄藩による江戸幕府の打倒、武力革命という側面がありました。
関西・大阪という地域で、かつての藩主に近い知事や市長中心の政党が東京から政権を奪取するなら、新しい日本をつくる、明治維新に近い「革命」ということになります。
 しかし、明治維新との整合性は、これくらいしか見つからないのです。

一方、昭和維新との整合性はどうでしょうか。
昭和維新といってもピンとこない読者も多いでしょう。
日本が満州事変から日中戦争へと大陸に引きずり込まれ、経済は疲弊し、政党政治が混乱している時期、陸軍や海軍の一部の「改革派」が唱えたのが「昭和維新」でした。
 その中心は軍部の若手であり、何度もクーデター計画を企画し、とうとう5・15事件や2・26事件を引き起したのですが、彼らが口ずさんだ歌が『昭和維新の歌』でした。
当事者たちが、政策的には独裁的な政治と統制経済、つまりはファシズムに近い政治に憧れていたことは否めません。

維新の会に感じるのは 明治維新ではなく「昭和維新」
 日本維新の会を見ていると、この「昭和維新」の空気を感じてしまうのです。
それは、かつての党首・橋下徹氏の従軍慰安婦肯定論のような、わかなりやすいタカ派議論からだけではありません。

 以下は、政治学者のローレンス・ブリット氏が「ファシズムの14の特徴」について列挙したものです。

1)強大で執拗な国家主義の宣伝
2)人権の重要性の蔑視
3)団結のための敵/スケープゴートづくり
4)軍隊の優位性/熱烈な軍国主義
5)性差別の蔓延
6)マスメディアの統制
7)国家の治安への執着
8)宗教と支配層エリートの癒着
9)企業権力の保護
10)労働者の力の抑圧もしくは排除
11)知性と芸術の軽視と抑圧
12)犯罪取り締まりと刑罰への執着
13)縁故主義と汚職の蔓延
14)不正選挙

1番目の「執拗な国家主義の宣伝」については、読者の皆さんも、彼らの演説やSNSを参照すればわかると思います。

2番目の「人権の重要性の蔑視」に関しても、これでも議員かという低レベルな言動が目立ちます。以下は、これまでメディアで報じられた維新関係者の不祥事です。

【梅村みずほ・参議院議員】入管施設で亡くなったスリランカ人女性をめぐり、「ハンスト(ハンガーストライキ)によって亡くなったのかもしれない」と発言し、「人権感覚を疑う」と炎上。6カ月の党員資格停止処分。
【丸山穂高・元衆議院議員】北方領土で「戦争で島を取り返す」などと発言。酒席で「おっぱい! おっぱい! おれは女の胸をもみたい」といった発言もあり、除名処分に。
【笹川理・大阪府議(元府議団代表)】同じ維新の女性市議にパワハラやストーカー行為をしていたと判明。一時は厳重注意だったが、その後に性的関係を迫るLINEも発覚し、最終的に除名処分に。
【藤間隆太・飯塚市議】福岡県飯塚市議会で市の男女共同参画に関する啓発を巡り、無所属の女性議員を名指しし、「セーラー服を着て、PR動画を投稿すれば再生数を稼げる」と述べた。
藤間氏は市議会でただ一人の維新議員で、取材に対して「失言だった。注意したい」と謝罪。
現代表までセクハラ発言 垣間見えるファシズムの特徴

3番目の「団結のための敵/スケープゴートづくり」については、何度も繰り返した大阪都構想選挙がよくわかる例です。

5番目の「性差別の蔓延」については 人権感覚を疑う失言をした議員たちの例を見れば、同じだということもわかります。

大体、現在の代表の馬場伸幸氏自身がセクハラ発言をしています。
京都タワー前(京都市下京区)の街頭演説で、参院選比例代表に擁立予定の新人女性の名前を間違えた際、「あまりにかわいいので間違えた」と発言しました。
 また石井章参院議員は、栃木県日光市で開かれた女性候補の事務所開きで「顔で選んでくれれば1番を取る」と容姿に関する発言をし、厳重注意を受けていたにも関わらず、その後、茨城県牛久市の街頭演説で、参院選茨城選挙区に同党から出馬を予定する新人女性を紹介する際に「あまり顔のことを言うとたたかれるから言えない」と居直る始末。
男女差が世界の中でもひどいといわれる日本で、その改革に挑む政党の幹部の発言とは思えない有様です。  

6番目の「マスメディアの統制」は、橋下徹氏や吉村洋文・大阪府知事の、会見は開くものの質問にはほとんど答えないか、はぐらかす様子を見ればよくわかります。

 すでに14の項目の6番目まで、4番目の「軍隊の優位性」を除けば、すべてファシズムの特徴に合致しています。

8番目以降については、まだ政権に就いたことがないので判断できない点もありますが、

10番目の「労働者の抑圧」については、大阪府による保健所のリストラが激し過ぎたため、コロナ禍で犠牲者を増やす原因なったことが思い起こされます。

そして11番目の「知性と芸術の軽視」については、文楽への補助金の廃止などが当てはまります。

 まるでブリット氏は、日本維新の会を見て「ファシズムの14の特徴」を挙げたとしか思えません。
金銭に関する不正も 呆れた言動の背景とは  そして、この政党に多いのが金銭に関する不正です。

これについても、メディアで報じられた維新関係者の不祥事を挙げてみましょう。
【中条きよし・参議院議員】年金保険料の一部313万円を未納。
【上西小百合・元衆議院議員】政治資金にまつわる疑惑。国会を病欠したはずが、居酒屋で3軒はしご酒をしており、除名処分に。
【下地幹郎・衆院議員】カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業の汚職事件を巡り、贈賄の疑いが持たれている中国企業側から現金100万円を受領したことを認めたものの、辞職せず。
【光本圭佑・元尼崎市議】会派の同意を得ずに政活費250万円を引き出し、購入したパソコンなどの納品書を偽造。本人は幹事長を務めるが、250万円の支出について議会事務局が会派に確認したところ、大半の議員は知らなかった。
【松尾翔太・元吹田市議】会派の口座から政務活動費を13回引き出し、同額を入金する処理を3間繰り返していた。 【池下卓・衆院議員】地元の大阪府高槻市議だった男性2人を市議の任期中に公設秘書として採用。2人が兼職していた期間はそれぞれ約4カ月〜約1年半で、いずれも税金が原資の秘書給与と議員報酬を二重で受け取っていた。うち1人は2022年中に総額約2000万円の報酬を得ていた。

 とにかく公募で急拡大を目指したため、政策立案や勉強より「見た目」を重視した候補者選びが先行していることが、不祥事続発の大きな要因の1つでしょう。
しかし、ここで挙げたのは、報じられた問題議員の3分の1程度に過ぎません。
あまりにセコい、馬鹿馬鹿しい失言と不正で、これでも議員になれるのかと考えざるをえないほどです。
 極めつけは、殺人未遂犯が公設秘書になっていたことでしょう。
前出の梅村参院議員の公設第一秘書となっていた人物が、過去が発覚して一度は辞職したものの、党職員として復活就職しているという事実が報じられました。
 いやはや、すごい倫理観です。
考えてみれば、私は編集局長時代、松井一郎氏の裏口入学疑惑を報じましたが、彼はその記事の正誤については応えずじまい。
ただ、文春がいまだに告訴されていないことは事実です。

「ホワイト」に見える吉村洋文氏も、かつて弁護士時代、消費者金融武富士のビジネスを記事にした記者に対して総額2億円の損害賠償を訴える「スラップ訴訟」に参加していたと報じられたことを、忘れてはいけません。
巨額の報酬を得たこのスラップ訴訟については、弁護士会から厳しい追及の声が上がりました。
 また、元祖維新の橋下徹氏は、弁護士時代、『週刊現代』の連載で、田中真紀子氏の長女の離婚記事の仮処分差し止め(簡単にいうと、発禁)を「当然」であると発言していました。
 政治家になってからは、この考えを撤回していますが、橋下・吉村両氏はマスコミを威圧することに対して抵抗感がない人物であることにも注目しておくべきでしょう。

不祥事が報道されても 支持率が上がり続ける懸念
 それにしても、なぜこれだけ不祥事が報道されるのに、維新は支持率が上がり、党勢が拡大しているのでしょうか。多くの国民が「維新」「改革」「公務員の削減」といったイメージ先行のスローガンに魅せられているか、自民党のひどさに呆れて「第二自民党」としての期待をかけているからだと思われます。
 しかし、維新の会は第二自民党ではありません。自民党はかなり独裁的にはなりましたが、いまだに代議制民主主義の枠の中にある保守政党であり、ファシズム政党、つまりは独裁を肯定するような政党ではないからです。
私自身、自民党から一度は政権を剥奪すべきだと考えていますが、その替わりを維新が務められるとは思えないのです。

 日本維新の会の勢力拡大が、令和版の「昭和維新」に繋がりかねない不安を感じているのは、私だけでしょうか。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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