2023年10月08日

差別はなぜ起きるのか。精神科医が語る「共感」、自分で決断する「オーナーシップ」の力

差別はなぜ起きるのか。 精神科医が語る「共感」、自分で決断する「オーナーシップ」の力
10/6(金) 現代ビジネス

9月30日に公開した『所属タレントの心のケアも重要
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精神科医が語るジャニーズ性加害問題の解決策』の記事の中で、ハーバード大学に勤務する小児精神科医である内田舞さんは「オーナーシップ(Ownership)」の考え方に関して寄稿し、大きな反響を集めた。
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所属タレントの方たちにはいまこそ、「自分自身の心で決断する」「自分の運命は自分で決める」という“オーナーシップ(Ownership)”の考え方が必要になってくると思います。
オーナーシップとは直訳すると「自分のものとして所有する」という意味ですが、「自分の判断は自分でして、その結果も自分のものとして受容する」という考え方です。

事務所に残るも出るも、被害を告白するもしないも、これから何をやるにしても、自分の判断で自分の運命を決める勇気が必要になるでしょう。
それは容易なことではありません。
しかし、このような事態で誰かに押し付けられた判断に従えば、後悔する結果になりかねません。
さらに、それ自体がトラウマになってしまうリスクもあるので、結果がどうなったとしても自分が納得いく判断を自分自身がしなければならないときなのだと思います。
そんな難しいプロセスを歩むタレントをサポートしてあげるのも、ファンの力の見せどころなのではないかと思うのです。 ----------
前編で紹介した「同意」とともに、この「自分自身の心で決断する」という「オーナーシップ」という考え方は、ジャニーズ問題だけでなく、誰に取っても生きていくうえでの力になるという。 一体どういうことなのか、9月末に発刊された『REAPPRAISAL(リアプレイザル)最先端脳科学が導く不安や恐怖を和らげる方法』から抜粋してお届けする。

著書での中で、「自分のことは自分で決定して、その結果も自分で受け止める」という概念である「オーナーシップ」について紹介していますが、オーナーシップと同意の関係性についても説明させてください。
私は日本で育ったことも影響してか、特にアメリカに移住したばかりの頃はなかなか自分の意思を表明できないことがありました。
一方、現在私が指導する⓪アメリカの若い学生たちは、ハーバード大学医学部のアソシエート・プロフェッサーで指導医である私に対しても物怖じせずに意見をぶつけてくることはよくあることで、とても頼もしく思うと同時に、育つ環境や社会規範による影響の大きさを実感するのです。

私は以前から日本社会の許容範囲の狭さや同調圧力の強さに懸念を感じていました。
他人と違う意見を持つ人や自分の意思で行動する人への無言の攻撃。 ジェンダーなどの属性に関して、日常的に耳にする言葉やメディアで目にするイメージ、役割意識、社会規範といったものが私たちに与える影響は予想以上に大きく、その中で違和感を覚えても、「こんなことを言うのは相手に失礼かもしれない」「自分には資格がない」「和やかな空気を壊してしまったらどうしよう」と考えてしまい、 なかなか意思を表明できないのは私だけではなかったのではないでしょうか。

また、年齢や肩書などが影響力を持ち、力がある人の声が優先される社会では、自分の意見は効力を持たず「何も変わらない」と思う機会が多く、その結果意見を声にすることどころか考えることすらしなくなってしまうこともあるでしょう。
本当は「何かおかしいな」と感じているのに、もしかしたら怒りや悲しみを感じないように「大したことではない」「私が少し我慢すれば済むこと」と自分に言い聞かせて、その場を凌ごうとしているのかもしれません。
それは無意識下の自己防衛の心理です。

自分の正直な考えや率直な感情を押し殺しそうになったら、「オーナーシップ」や「同意」について思い出してほしいと思います。
もし違和感を覚えたらそこには必ず理由があるので、私もできるだけ自分の感覚を信じて、YES/NOをはっきりと伝えられるようになりたいと思っています。
同時に、一人ひとりの声が尊重され、受け入れられる社会になっていってほしいと願っています。

他者との違いと気持ち想像すること
英語の慣用句“to put yourself in other people's shoes”(「他者の靴を履く」)とは、自分ではない誰かの経験や状況を考え、どのような気持ちを抱いているかを想像することです。
これを「エンパシー」といいます。
再評価とは「自分が今持っている視点とは違う考え方もあるかもしれない」という可能性を探索することから始まるので、自分以外のものの見方を考えることは再評価の基盤のためにもなるのです。
私はアメリカで暮らしているということもあり、他者との違いについて考えさせられる機会には事欠きません。
こちらでは、アジア人や黒人への誹謗中傷や暴力といったヘイトクライムのニュースが度々報じられ、そのたびに自分の人種という属性について考えさせられています。
特にコロナ禍では、アジア系の人に向けられたヘイトクライムが2年間弱で1万件を超えたそうです。

一方で、人種差別に対抗しBlack Lives Matter運動(BLM)やStop Asian Hate運動が発足し、実生活につながる変化を起こせたのも、移民大国であり、自分たちの環境に働きかける熱意を持つアドボカシーの国・アメリカならではのことです。

2020年5月のジョージ・フロイド氏殺害事件がきっかけとなり、パンデミックの最中にあって、BLMは多くの支持者を得て、たくさんの変化を起こしました。
アメリカでは無実の黒人が白人などの他人種に比べて圧倒的に高い頻度で警察に殺害されるという事件が起きており、これを止めなければならないと訴える活動がBLMです。
長男が5歳、次男が3歳だった頃。 BLMの支持者が増える一方で、ソーシャルメディアでは人種差別を支持する人たちの攻撃的で心ない書き込みも見られ、私は吐き気を催すようなとても嫌な気持ちになっていました。
私と夫が夕食の時間にジョージ・フロイド氏の殺害や事件への反応について話し合っていたときのことです。
何やら不穏な空気を察した長男が「どうしてママたちは怒っているの? どうして悲しそうなの?」 と聞いてきたのです。 「なんでもないよ、お風呂に入ろうか」と答えることもできましたが、私はこのような不当な死から私たちが学ぶことができない限り社会は変わらない、そして武器も持たずに危険も冒ししていない一般人が、「人種」が理由となって警察に殺されてしまうという社会は変えなくてはならないと強く感じたので、 就学前の子どもたちと人種差別について話すことにしました。

相手の立場や思いを知ることの大切さ
子どもたちにとって自分事として捉えてもらえるように、私たちに関連のある具体的な会話から始めることを意識し、ジョージ・フロイド氏の殺害の写真を見せました。
その上で「あなたたちは東アジア人であることで他者から『劣っている』、または『弱い』と誤った認識をされることがあるかもしれない」という事実を伝えたのです。
子どもたちが今後受けるであろう差別について話すのは胸が苦しくなることでしたが、人種差別を扱う中で、私たちアジア系という人種がどのように扱われるかという事実を隠したまま話し合うことはできないと思ったからです。

続けて「でも、東アジア人は『危険』とか『怖い』と認識されることは少ないから、アメリカでは比較的安全に暮らせる。
けれど、肌の色の濃い黒人の子どもや、特に男性は、たとえ親切な人であっても、周囲から『この人は危険かもしれない』と恐れられることがある。
『 この人は危険かもしれない』と警察にまで思われてしまって、黒人であるという理由だけで黒人男性と少年が警察に殺されてしまう事件が昔から何回も起こっているの。
この写真に写っているジョージは黒人で、何も危険なことをしていなかったのに、警察に殺されてしまったの。
警察という絶対的な力を持つ組織に、抵抗できない状態でジョージが殺されてしまったことがとても悲しくて、私たちは怒っているんだよ」と話しました。

「人種差別が自分の物語でもある」と思ってもらえるように、アメリカでの人種差別の歴史が私たち日本人の家族にどのように当てはまるかを丁寧に話すことも心がけました。
「アメリカが日本と戦争をしていた頃、日系アメリカ人は家や持ち物や仕事を奪われ、強制収容所に連れていかれたんだよ。 そこで亡くなった人もいたんだよ。 彼らは何も悪いことをしていないアメリカ市民だったのに……。
もし、ママが日本人という理由だけで、あなたたちまで遠くの収容所に連れ去られたらどう思う?」
こう話すと、息子はとてもショックを受けた様子で「僕たちにも起こるの?」と尋ねました。

「私たち有色人種のマイノリティがボストンに住んで普通に学校に通えるのは、過去に人種隔離を終わらせるために懸命にたくさんの人が戦ってくれた公民権運動というもののおかげ。
公民権運動のリーダーだったのは黒人だったけれど、そのミッションに他の有色人種も入れてくれたんだよ。
だから今は強制収容所に連れていかれるようなことが私たちに起こる可能性はとても低いと思うよ」と伝えました。
また、「他の人がどんなことを経験して、どんなことを感じているかを想像してみることをエンパシーというの。

自分が体験していないことを想像するのは難しいけれど、できる限り想像することはとても大切なことだよ。
エンパシーは、私たちが人生で持つ必要がある最も重要なことの一つだよ」とも伝えました。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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