2023年11月18日

PTAはほんとうに必要?…「事実上の強制加入・教室のカーテン洗濯まで肩代わり」「保護者の声を学校や行政に届ける役割」

[The論点]
PTAはほんとうに必要?…「事実上の強制加入・教室のカーテン洗濯まで肩代わり」「保護者の声を学校や行政に届ける役割」
2023.11.17 読売新聞

■ 子どものために家庭と学校が協力しようと、学校ごとに作られている組織がPTAです。
ただ、「仕事や育児で忙しい」「無理に委員をさせられるのが嫌だ」と敬遠する保護者もいます。
忙しい家庭が増えている時代に、保護者が負担に感じるようなPTAは必要なのでしょうか?

◇ A論か、B論か。多様な意見に触れて「情報的健康」を保ちましょう。

■[A論]共働き家庭増えているのに、見直しなく
 入会は任意なのに事実上の強制だったり、学校の業務を肩代わりしているだけだったりするようなPTAについては、「いらない」という声が聞かれました。
 大阪府の会社員女性(41)は昨年5月、子どもの小学校のPTAから「委員に決まった」という通知を受け取りました。委員に立候補したことはありませんが、この小学校のPTAには、保護者全員が会員となり、一度は役職を務めるというルールがあるためです。
役職の免除には、会員の前で理由を発表して承認を得る必要があるため、やむを得ず引き受けたものの、「強引すぎる」と憤ります。
また、保護者全員を自動的に会員にして、「委員は2ポイント」などと役職ごとの配点を決め、卒業までに一定ポイント分の役職を担うことを義務づける「役職ポイント制」を導入しているPTAもあります。
 本人の意思を考慮せずに役職を割り振る運営には特に反発が強いため、奈良市PTA連合会は「PTA活動は『できる人が、できる時に、できる事を』」「全ての会員が平等に仕事をする団体ではない」という手引を作り、入会も活動も任意だと呼びかけています。
 専業主婦が多かった時代は、母親がPTAの業務の多くを担っていました。
ただ、夫婦共働きの家庭が増えている今でも、業務を見直さず、前例を踏襲している運営方法に疑問を持つ保護者もいます。  千葉県の会社員男性(47)は2年前、「やりたい人がいないなら役員を減らせばいい」と会合で提案しました。
拍手が起きましたが、役員の人数は見直されず、「共働きが増えてなり手がいないのに、変わろうとしない」と振り返りました。

 「教室のカーテンの洗濯」「教室の空調設備費を負担」など、本来は学校が行ったり自治体の予算を充てたりするようなことを、PTAが肩代わりするケースに疑問を持つ保護者もいます。
 このようなPTAの姿に、PTAに関する著書もあるフリーライター、大塚玲子さんは「PTAは、学校に言われるままに業務を引き受けるお手伝いになっている。
本来は、保護者同士で情報交換したり、時には学校に厳しいことを言ったりする組織であるべきではないか」と疑問を呈します。
 PTAの問題に詳しい文化学園大の加藤薫教授は「PTAがなくても、学級懇談会で担任としっかり意見交換できれば、保護者の声を学校に伝えられる。
学校が保護者の手伝いを必要とするなら、その都度、協力を呼びかければいい。保護者にお金と労力を使わせるだけの組織であれば必要ない」と指摘しています。

■[B論]保護者の意見、学校や行政に伝える役割
 学校や教育委員会は「閉鎖的」「内向き」と批判されることも少なくありません。
このため、さいたま市PTA協議会会長の郡島典幸さん(49)は「PTAには、保護者の声を学校や行政に伝え、困りごとを地域で解決するという役割がある」と強調しています。

埼玉県では10月、自民党県議団が、子どもだけでの留守番などを「虐待」として禁止する条例改正案を県議会に提出しました。
預け先がなかったり保護者が働いていたりするために、子どもだけで留守番をしている家庭は多いのが現実で、成立すれば多くの家庭が条例違反となりかねません。
 同協議会は、改正案に反対する意見書を自民党県議団長に手渡し、約2万9000人分の署名を提出しました。
このような反対の動きが強まり、自民党は改正案を取り下げたのです。
郡島さんは「保護者を代表するPTAという組織だからこそ、意見を聞いてもらえ、取り下げのきっかけを作れた」と振り返っています。

 近年、学校現場は業務の多さと教員の忙しさが深刻化しています。
2022年度の文部科学省の調査では、小学校教諭の64・5%、中学校教諭の77・1%が、国の指針で定める「月45時間」の上限を超える時間外勤務(残業)をしていました。
 この状況から、兵庫県姫路市の荒川小学校PTA会長、三木貞徳さん(46)は「学校は人手不足で、先生だけでは子どもや行事に対応できない」と、PTAが学校をサポートせざるを得ないと感じています。
最近も、農業を体験する行事が行われた時、移動する子どもを案内するなどの活動をPTAの会員が行いました。
 地域での交流が少なくなり、保護者が知り合う機会も減っています。
このため、全国PTA連絡協議会代表理事の長谷川浩章さん(61)は「PTAは保護者同士が結びつき、学び合う場として必要な組織だ。
PTAで培われたつながりが、地域の結びつきの基礎にもなっていく」と話しています。
さらに、子どものために、保護者と教育行政が対等に協力や連携をする組織としても重要だと訴えます。

 PTAの活動の支援サービス「PTA’S(ピータス)」を運営する「さかせる」の増島佐和子さんは、PTAに求められている役割として「人手不足と業務過多で多忙を極める教員をサポートし、教員が児童と過ごせる時間を増やすことだ」と指摘します。
また、「保護者の間で、子どもへの性教育やキャリア教育、金融教育などのニーズは高い。このような講演を企画して、教育現場に多様な視点を投じることもPTAの役割だ」と話しています。

■「希望者のみ」へ改革も
 日本にPTAが誕生したのは、戦後、連合国軍総司令部(GHQ)が、民主的な教育を普及させようと設立を奨励したことがきっかけです。
現在、日本PTA全国協議会の会員は750万人に上ります。
 この巨大な組織にも変化が表れ始めています。
東京都PTA協議会は3月、日本PTA全国協議会から退会しました。
それまでは会員として会費を納め、開催される事業や会議に慣例的に参加してきました。
東京都PTA協議会会長の岡部健作さん(50)は「本当にやりたいのは、学校単位のPTAを支援することだ」と話します。
都内の公立小学校と小中一貫校全校を対象に、PTA活動の効率化を支援するセミナーや、役員を対象にしたオンラインのお悩み相談室などを行っています。

 改革に取り組むPTAも増えました。
千葉県流山市の小山小学校のPTAは、人手が必要な時は、ウェブでボランティアを募る形式に変更しました。
広報紙の発行もやめ、ブログで発信しています。
 千葉県柏市の大津ケ丘第二小学校のPTAは強制加入と役職ポイント制をやめました。
児童数は約300人ですが、今年度の会員は、会長の山口晃一郎さん(37)と校長のほか、希望して入会した3人だけです。
ただ、山口さんは「やりたい人がやれることだけをすれば十分です」と、卒業生から体操服を集めて新入生や在校生に配ることを計画しています。

(生活部 宮木優美、金来ひろみ、木引美穂)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 教育・学習 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック