2023年12月09日

自由奪われても抵抗、戦争の本質見つめ 特高警察が監視記録

自由奪われても抵抗、戦争の本質見つめ 特高警察が監視記録
2023.12.9 朝日デジタル

 「厳秘」と表紙に記された史料がある。
特別高等警察の内部回覧誌「特高月報」。
戦前から戦中にかけて、すべての国民を監視し、反戦的な言動や天皇制否定の思想を取り締まった記録である。

 その中で、埼玉県に住む作家の高井ホアンさん(29)は、庶民の「生の声」に注目した。
 例えば、1937年8月、56歳の行商の男性は、岡山県内の駅で出征兵と見送りの約50人に「戦争すれば日本人は困るばかりだ、国民は苦しい目に逢(あ)うばかりだ」と絶叫し、20日間拘留された。
 高井さんは4年前、庶民の発言をまとめた「戦前反戦発言大全」「戦前不敬発言大全」を出版した。
国民が自由を奪われ、がんじがらめに縛られた時代にもかかわらず、権力に抵抗した人がいたことに驚きを感じた、という。 そして、そこから国家の意思を感じ取った。

「すべてを戦争に振り向けるためには異論は邪魔になる。
国策に反対する者は弾圧し、見せしめにしたり排除したりする必要があった」

 治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟などによると、同法違反で検挙された人は全国で約7万人にのぼったが、栃木県内は全国でも少ない道府県の一つに挙げられる。
そのうちの一人、浜野清さんは「共産党の地方組織が結成されなかった影響かもしれない。ただ、農民運動は盛んで反戦・平和運動も発展した」と著書に書いた。
「特高月報」も県内の動向を記録している。

 「国家や天皇のための戦争ではない。金持ちのための戦争だから反対」(37年7月、石材職人、27歳男性、不敬罪などで送検)
「戦地に行ったら中国人も俺と同じ境遇だから殺さない」(同年9月、雑貨商、34歳男性、陸軍刑法違反で検挙)
 「日本は負ける。新聞には勝った勝ったと書いてあるが実際は負けている」(38年6月、自動車運転者、49歳男性、同法違反で検挙、取り調べ中)

 発言だけではない。
「特高月報」は落書き、替え歌、投書も記録に残した。
県内では44年3月、茨城県の航空廠(しょう)での境遇を嘆く「いやじゃありませんか徴用工」という替え歌を歌った23歳男性が訓戒処分を受けた。
 「軍国主義を斃(たお)せ」(40年5月、日光・華厳の滝近くの共同便所)
 「戦争反対、聖戦トハ何ぞや 資本主義者のタハゴトナラズヤ」(41年9月、宇都宮市の公衆便所)
 「大日本滅亡」(44年2月、現那須町の掲示板)
 このような落書きも捜査の対象となった。

 岡山県では44年4月、隣組の会合でこんな発言をした農家の37歳男性が、言論、出版、集会、結社等臨時取締法違反で送検された。
「個人あってこそ国家がある。個人が立ち行かぬ様になっては国家もその存立を失う。個人が本当の幸福を得、世界中の者が仲良く出来れば国家など言うものはあってもなくても良い」

 高井さんは、こうした個々の事例が、社会の全体像を示していると指摘する。  
「なぜ特高は町内会や職場での発言をここまで詳しく把握できたのか。そうした発言を許さない空気が支配し、相互監視のなか特高に密告する協力者がいたからです」

 さらに、戦争を冷静にみつめていた庶民の本音を知る意義を、こう説く。  
「ものを言う自由がなかった全体主義社会でも、自分の考えを変えなかった人たちがいた。
その存在や発言を知ることは、現在の自由の状況を考えるうえでも重要です」(中村尚徳)
posted by 小だぬき at 15:52 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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