オスプレイ巡る珍問答=佐藤千矢子
2023/12/8 毎日新聞東京夕刊
人命や国防にかかわる問題を、言質を取られない「霞が関文学」や、意味のわからない「禅問答」のような表現で、ごまかされては困る。
米空軍横田基地に所属する輸送機CV22オスプレイが、11月29日午後、鹿児島県の屋久島沖で墜落した。
エンジンの周りから火が出ていたとの目撃証言があり、機体の異常が想定される。
当然、政府は即刻、飛行停止を求め、しばらくは日本上空を飛ばなくなるだろうと思ったら、違った。
他の型式のオスプレイは飛び続け、日本側は「停止要請をした」、米側は「公式な要請は受けていない」と、言い分が食い違う事態になった。
発端は、政府の及び腰にあると思う。
木原稔防衛相は事故の翌日、在日米軍司令官に会い「安全が確認されてから飛行を行うよう要請した」という。
「飛行停止」とは言っていない。
記者会見で「飛行停止を求めたと理解していいか」と聞かれると、次のように答えた。
「飛行停止という定義が曖昧なので、使っていない。
あくまでも飛行に係る安全が確認されてから飛行を行うよう要請した」
「飛行停止」に定義も何もないだろう。
明確に飛行停止を求めてはいないのに、国内向けにはそう受け取れるような説明の使い分けをしているのではないか。
米側からすれば、「安全確認」という当たり前のことを言われただけで、正式な要請はないということになるのだろう。
米側を怒らせないように気を使い、国内向けには曖昧な表現でごまかす姿勢が透けて見える。
米軍は事故から約1週間後にようやく、世界に配備している全てのオスプレイの飛行を停止すると発表した。
日米とも無責任過ぎないか。
2016年12月13日夜に米軍オスプレイが沖縄県名護市沿岸に落ちて大破した際、政府の初動は比較的、速かった。
翌日未明には米側に「遺憾の意」を伝えて飛行停止を要請し、その日に停止が決まった。
ただし飛行再開も事故から6日後と速かった。
容認した日本政府は大きな批判を浴びた。
今回の政府の対応は、残念ながら7年前の事故の時にさえ劣ると私は思う。
(論説委員)