政治家だけじゃない「耳を疑った失言集2023」
もはや開き直り…こんな国でいいのか?
鎌田和歌:フリーライター
2023.12.15 ダイヤモンドオンライン
早いもので2023年ももう師走。
今年のニュースを失言とともに振り返りたい。
失言といえば政治家に付き物だが、今年は組織や企業、個人からの“失言”も目立った。
並べてみると想像以上にヒドイ。
その傾向から読み取れる深い教訓とは?(フリーライター 鎌田和歌)
近年では“炎上“する一般人が多い。
飲食店で調味料の容器をくわえるような迷惑行為が拡散され、高額な損害賠償を請求されるまでに発展したし、以前からひんしゅくを買っていた迷惑系YouTuberが「私人逮捕」を理由に逮捕された。
失言といえば政治家に付き物だが、今年は政治家以外の人々からの“失言”も目立ったように感じられる。
これも、SNSで誰もがスポットライトを浴びる可能性がある時代となったゆえのことなのかもしれない。
また、組織や企業の不祥事が相次ぎ、記者会見や追及の場でのトップによる失言・迷言も生まれた。
年の瀬に、政治家ではない人々の「失言」とともに今年のニュースを振り返ってみたい。
なお、2023年の政治家失言まとめは来週に予定している。
【ジャニーズ事務所】 「被害者ではない可能性が高い方々が 虚偽の話をされているケース」
エンタメ界において今年最大のニュースとなった、旧ジャニーズ事務所で故・ジャニー喜多川氏の長年にわたる性加害が放置されていた問題。
旧ジャニーズ事務所は第三者的立場の有識者からなる調査とその報告会見、さらに謝罪・説明のための記者会見を開いたが、会見の場で記者の「NGリスト」の存在が明らかになるなど、その対応や会見内容に疑問符がついた。
さらに10月9日に発表された声明「故ジャニー喜多川による性加害に関する一部報道と弊社からのお願いについて」の中には、「被害者でない可能性が高い方々が、本当の被害者の方々の証言を使って虚偽の話をされているケースが複数あるという情報にも接しており、これから被害者救済のために使用しようと考えている資金が、そうでない人たちに渡りかねないと非常に苦慮しております」という一文があった。
被害を名乗り出た人たちは「金目的」といったネット上での誹謗中傷に苦しんでおり、この後、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」のメンバーだった男性が自死していたことも明らかになった。
この段階でこのような声明を出すことが果たして本当に必要だったのか。
「複数あるという情報にも接しており」とあるが、どの程度の確度での情報だったのか明らかにされていないことも問題を感じる点だ。
【宝塚(阪急電鉄)】 「証拠となるものを お見せいただけるよう提案したい」
ジャニーズと同様に、その会見が悪い意味で話題となったのが宝塚歌劇団の記者会見。
同劇団では9月末に女優が転落死し、その原因がいじめや嫌がらせ、長時間労働にあったのではないかと報道されていた。 11月に行われた記者会見で、同劇団の次期理事長であり阪急電鉄の取締役でもある村上浩爾氏は再検証を求める遺族に対して「そのように言われているのであれば、証拠となるものをお見せいただけるよう提案したい」と発言。
劇団員の死というあってはならない事態に際してのトップのこの発言は、冷酷を通り越して遺族や世論への好戦的な態度にさえ見えた。
【経団連会長】 「何が問題なのか」
12月4日の会見で、自民党への毎年約24億円への政治献金について問われた経団連の十倉雅和会長が放った一言「何が問題なのか」がネットで炎上。
十倉会長はさらに「社会貢献の一つ」「世界各国でも同様のことが行われている」と続けた。
政治献金は利権政治に直結する。さらに利権政治からの脱却を目指すべく導入された政党交付金制度があるにもかかわらず、企業からの献金が今なお廃止されていないことが批判されている。
金持ちのためだけの政治をいつまで続けるのか。
開き直りとしか受け取れないこの失言に、庶民の怒りは止まらない。
【林真理子・日大理事長】 「違法な薬物が見つかったとか、 そういうことは一切ございません」
8月5日に大麻取締法違反で逮捕者が出た日大アメフト部。
学生寮へ捜索が入ったのは8月3日だが、その前日の2日、マスコミの囲み取材に答えた林真理子理事長は「違法な薬物が見つかったとか、そういうことは一切ございません」と発言していた。
元を辿れば2018年の「悪質タックル問題」が発端となり、名門とされてきた部の体質が批判された。
その記憶が残る中での不祥事だけに、呆れ返る声は大きい。
10月末に日大の対応を検証する第三者委員会は調査報告を発表し、この際の記者会見で、林理事長のコメントについて「失言に近い」と明言している。
また、12月に行われた逮捕された元部員の初公判では、中村敏英監督の「副学長に見つかって良かった」という発言を聞いたこの部員が「もみ消してもらえると思い、安心した」と当時の正直な心境を語ったことも報道された。
巨大組織の不健全な力学は、この際全て明らかになってほしいものだ。
【ビッグモーター社長】 「ゴルフを愛する人への冒涜」
ちなみに不祥事からの記者会見といえば今年は保険金不正請求が発覚した中古車販売大手のビッグモーター社もかなりインパクトがあった。
しかし残念ながら、記憶に残るほどの失言が残っていない。
強いていえば、ゴルフボールを使って車両を損傷させた行為について、兼重宏行社長が「ゴルフを愛する人に対する冒涜だ」と語ったことだろうか。
当時の報道でもズレたコメントだと言及されているが、これは失言というより迷言の類かもしれない。
【人気ラッパー】 「男子生徒はのぞけるならばのぞく」
スマートフォンの普及から増加傾向にあり、今年の刑法改正で「撮影罪」が新設されることになった盗撮問題。
教育現場での教師から生徒・児童への盗撮や、生徒同士の盗撮について報道が増える中で、人気ラッパーの投稿が波紋を呼んだ。
発端は、6月下旬に熊本県立高校の修学旅行で複数の男子生徒が女子生徒の入浴を盗撮したり、のぞいていたりしたと報道されたことだった。
このニュースを引用して「のぞこうと思えばのぞけるような露天風呂を選んだ学校が悪い。男子生徒はのぞけるならばのぞく。当たり前だろ。」と投稿したのがラッパーの呂布カルマ。
この投稿に共感や理解を示すファンもいた一方で、強い批判も巻き起こった。
これまで未成年同士の性犯罪は「子ども同士のこと」と矮小化される傾向があり、被害者側が泣き寝入りを余儀なくさせられることも珍しくなかった。
その背景には「男の子なのだから多少のやんちゃは仕方ない」といった誤った認識と対応があったことは想像に難くない。
呂布が昨年ACジャパンのCM(「寛容ラップ」)に出演して、一般からの知名度・好感度を上げていたことや、10月にはNHKの性教育関連の特番に出演したことも、炎上が長引く理由となった。
【アニメーター】 「公開型のつつもたせ」
夏に大きく報道されたのが、韓国の人気女性DJが大阪のイベントで観客の男女3人から胸などを触られたと訴えた事件。
その後、女性は3人を刑事告発したが、当事者間の和解によって不起訴となったことが報道されている。
この件でネット上では女性の露出度の高い衣装やパフォーマンスを非難する声が多く上がり、日本における性暴力被害者への二次加害として海外でも取り上げられる事態となっていた。
その中で特に話題となったのが、ジブリ作品の監督を務めたこともあるアニメーターの男性が「公開型のつつもたせなのだろう」「音楽フェスの主催者は、彼女の芸に加担しないことだ」などと投稿したこと。
数日後にこの男性は投稿が不適切であったことを認めて謝罪と撤回を行ったが、ネット上ではいまだに女性への誹謗中傷が多く、日本のネット社会の残念さが浮き彫りになった。
まとめてみると、不祥事を報道された組織の開き直りに近い失言が目立った2023年。
あなたの記憶に残る失言はあっただろうか。