「社説」マイナ保険証への移行 不安拭う努力が足りない
2023/12/17 毎日新聞東京朝刊
国民の不安に寄り添う姿勢を欠いている。
このままでは、社会のデジタル化を目指す政府の取り組みは空回りするばかりだ。
誤登録などが相次いだマイナンバー制度の総点検作業がほぼ終わった。
健康保険証や障害者手帳などで確認されたミスは計1万5907件に上る。
政府はマニュアルの整備や入力作業の自動化を進めて再発を防止する考えだ。
岸田文雄首相は、計画通り来秋に紙の保険証を廃止し、マイナカードと一体化する方針を表明した。
「国民の不安を払拭(ふっしょく)する措置が講じられた」ためだという。
だが、不信感は解消されていない。
ポイント付与の効果でマイナ保険証の登録者が急増したにもかかわらず、医療現場での利用が低迷しているのは、その表れだろう。
マイナンバーは行政の効率化を進める切り札だ。
カードの本人認証機能は、官民のさまざまなサービスに活用できる。
ただ、多くの国民にとってメリットを享受する機会は限られている。
マイナ保険証には診療の迅速化などの効果が期待されるが、患者の半分程度が利点を感じていないとの政府の調査結果もある。
利便性より情報流出などのリスクに敏感になるのは当然だ。
そもそも保険証の廃止は昨年10月に唐突に打ち出された。
しかも老人福祉施設の入居者などデジタル弱者への配慮が不足していた。
批判を受けて政府は、未登録者向けの資格確認書や、認知症の人も使える暗証番号不要のカードの発行に踏み切った。
これなら保険証を残す方が合理的だ。
泥縄式の対応が不信感を増幅させている。
新しい政策には摩擦や混乱がつきものだ。
急を要する場合は政治の突破力も求められる。
だが、マイナ制度は社会システムの根幹に関わる。
時間をかけて国民の理解を得なければ禍根を残す。
それなのに河野太郎デジタル相は、総点検の記者会見で「イデオロギー的に反対する人は、いつまでたっても不安だと言う」と述べた。
マイナ保険証に抵抗感がある人々を切って捨てるかのような発言だ。
デジタル技術は便利なだけでなく、リスクも伴う。
政府は期限ありきの姿勢を改め、信頼感を醸成する取り組みを尽くすべきだ。