2024年02月05日

防犯カメラでは止められない“無敵の強盗”、侵入を防ぐ「備え」と命を守る「初動」とは?

防犯カメラでは止められない“無敵の強盗”、侵入を防ぐ「備え」と命を守る「初動」とは?
「狛江強盗殺人事件」や相次ぐ「ポケモンカード窃盗事件」の教訓
松丸俊彦:セキュリティコンサルタント
2024.2.3 ダイヤモンドオンライン

強盗や窃盗に関するニュースを目にする機会が増えた。
いつも驚かされるのが、犯行の瞬間を捉えた防犯カメラの映像が残っていること。
彼らは防犯カメラの存在に気づいていないのではない。防犯カメラがあることを認識したうえで盗みを働いているのだ。
こうした“無敵の泥棒”は、プロか素人か。彼らの行動特性を専門家に分析してもらった。
「犯行を未然に阻止する防犯対策」と「強盗犯と遭遇したときの防衛術」をここで確認してほしい。
(構成/ライター 奥地維也)

“無敵の泥棒”が増加した背景
 いま、強盗が増えています。
多くの人が自宅で過ごしていたため犯行に及びづらかったコロナ禍が明け、彼らの活動が再び活発になっているのです。
強盗の低年齢化も顕著です(下図)
これは、未成年の少年たちが小遣い欲しさから安易な気持ちで闇バイトの募集に応じて犯罪に手を染めていることを物語っています。

防犯カメラでは止められない“無敵の強盗”、侵入を防ぐ「備え」と命を守る「初動」とは?
 防犯カメラを恐れない“無敵の強盗”の多くは、こうした闇バイトの募集で集められた素人と、指揮役の玄人とで構成されています。
2024年1月19日に滋賀県草津市のトレーディングカードショップで発生したポケモンカード盗難事件も、犯行をとらえた防犯カメラの映像を見ると、実行犯の1人は明らかに動きがどんくさく、素人であることは明らかでした。

 素人のほうが手加減してくれそう、と考えるのは間違いです。
2023年1月19日に東京都狛江市で発生した強盗事件では、抵抗する力が弱いはずの90代の女性が殺害されました。
犯行に及んだ10代から50代の実行犯4人は、全員が闇バイトで集められた素人。
物取りに徹するプロは刑罰の重い強盗殺人を犯すことを避けますが、場慣れしていない素人は感情のコントロールが効かず、パニックから凶行に及ぶ危険があります。
本当に怖いのは、素人のほうなのです。

ターゲットに”選ばれない”ために
 狛江市の強盗殺人事件でも明らかになったように、素人で構成される“無敵の強盗”団には、雇い主である指示役が遠隔で指示が飛んでいます。
プロの犯罪グループに属する彼らは、住人の行動パターンや目当ての貴重品の場所などを事前に把握したうえで、一般宅の強盗に臨みます。

 犯罪グループはこうした情報をどのように入手しているのでしょうか。
まず、個人情報の取り扱い規制がまだ緩かった時代に名簿業者が作成していた各種名簿や、企業が流出させた個人情報を闇サイトで手に入れます。
同時に、個人宛にスパムメールを送ってハッキングしたり、電話口でセールスやアンケートなどを装って情報を聞き出したりして、データを蓄積します。
 さらに、こうした情報を複数の犯罪グループ間で共有することで、より多くの、より詳細な個人情報が集約された“標的データベース”を作り上げます。
この工程は「名寄せ」と言い、大規模な組織の場合は「名簿調達」とか「名簿作成」と呼ばれる役割を担当するメンバーが存在します

 本名、生年月日、住所、電話番号、家族構成、出身高校・大学、勤務先、自宅金庫あり・なし、通信販売での高額商品購入履歴、詐欺被害履歴、電話の応対記録……データベースにはありとあらゆる個人情報が載っていて、「東京都」などと条件を指定して検索することもできます。
百貨店の外商顧客リストが流出しているのを見たこともありますよ。
金目のものを狙う強盗からすれば、喉から手が出るほど欲しい情報でしょうね。

 皆さんが気になるのは、こうした情報の流出をどうしたら防げるのかということだと思います。
もちろん、最大限の自己防衛は必要です。
電話で怪しい調査に答えたり、「口座が凍結されました」と語る不審なメールのリンクをクリックしたりしてはいけません。知らない番号からの電話は出ない、怪しいと思ったら電話をすぐ切るなどの対策も有効です。
 しかし、大学の卒業名簿や企業の顧客情報の流出は自分ひとりでは防ぎようがないので、個人情報を完全に守ることは不可能です。
私たちは、「情報は流出している」という前提で防犯対策をしなければいけません。

強盗に狙われやすい場所は?
 犯罪グループが商店を襲撃するときも、一般宅を狙うときと同様、詳細な間取りや商品の位置などを事前に洗い出しています。
わずか2分のうちに1300万円分のポケモンカードが盗まれた草津市の盗難事件では、高額なカードが保管されている場所を示した詳細な店舗図面が流出していました。

 強盗のターゲットにされやすいのは、宝石店や時計店など、小さくて運びやすく高価な商品を扱っている店です。
ポケモンカードはまさにこの条件を揃えていますね。
 ポケモンカードが狙われやすいもうひとつの理由は、海外で売れるということです。
近年は質屋と警察の連携が進んでおり、盗んだ高級時計や宝石などを国内で売ることは非常に難しくなっているため、犯罪グループは盗んだものを海外で売りさばこうとしています。

 ポケモンカードは海外でも人気で、市場も大きく高値で取り引きされています。
加えて、カードは高価でも実際はただの紙ですから、金の延べ棒などとは違って空港の金属探知機で発見される恐れもないので、隠すのが容易です。これ以上ないほど狙い目の品だと言えるのです。

 他にも、売り上げがそのまま店舗に置いてあるような飲食店や小さな工場なども、現金目当てで強盗が入りやすいので、特に注意が必要です。

“無敵の強盗”への対応策
“無敵の強盗”は、事前に入手した侵入先の情報をもとに短時間で犯行を終わらせるつもりだからこそ、防犯カメラの存在をものともしません。
 もちろん、防犯カメラに全く効果がないというわけでは決してありません。
単独で行動するプロの強盗に対しては高い効果を発揮しますし、犯行が起こったとしても証拠映像が残っていれば事後捜査において役立ちます。
しかし、防犯カメラという心理的障壁を突破してくる以上、“無敵の強盗”から資産や家族の身の安全を守るためには、物理的に屋内に侵入させないということが重要になります。

 まずは、主な侵入経路となるドアと窓の2カ所を対策してください。
強化ガラスにしたり防犯フィルムを貼ったりすることでガラスの強度を上げ、ドアは鍵を増やして二重ロックにしたり隠しロックを設置したりしましょう。
 侵入に時間がかかれば、相手は犯行を諦めるかもしれません。
アラーム音や夜間のセンサーライトといった、五感で強盗犯をひるますような防犯システムを導入することも手です。
自宅の防犯はこのくらいが現実的ではないかと思います。

 次に、ポケモンカードショップや貴金属店など高級品を取り扱う場所の防犯対策について説明します。
このとき、店員がいる場合と店員がいない場合をわけて考える必要があります。

 日中、人がいる店舗の場合、店先にインターホンをつけるのは有効です。
入店前に様子を見ることができるので、怪しい人物の入店を未然に防ぐことができます。
防犯カメラよりもハッキリと人物を捉えることができるので、インターホンを突破してまで犯行に及ぶことはリスクが大きすぎます。

 夜中など店から誰もいなくなる時間帯の窃盗対策としては、まずはセンサーで反応すると防犯灯を店内外につけるとよいでしょう。犯人は光を嫌います。

 もう少しお金をかけられるなら、遠隔で警備会社が監視をして侵入者に声をかけるというシステムもあります。
他にもセンサー式の自動ロックで犯人を店内に閉じ込めてしまうシステムもあります。
この場合、犯行を未然に防ぐというよりは、持ち去られないようにして未遂に終わらせる方法になりますが。あとは、日中でも夜中でもトラッキングシステムを商品につけておくのも犯人逮捕や商品の返還に繋がりやすくなります。

 ただ、こうした策もむなしく、侵入を許すケースもあります。
草津市のポケモンカード盗難事件も、警備会社のアラームが鳴り響くなかの犯行でした。
そうなってしまった場合は、なにより自分と家族の命を守ることを最優先に行動してください。

だから、戦ってはいけない絶対に!
 鉄則は、相手を刺激しないことです。
そのためには、相手が覆面をしているかどうかを問わず、絶対に目を見ないでください。
目を直視すると、「顔を見られた→捕まる→殺さなければ」という強盗犯の思考も引き起こしかねません。
相手のボディランゲージを見逃さないように、胸か腹あたりを見るようにしてください。

 強盗犯と鉢合わせてこう着状態になった場合も、自分から事態を打開しようとアクションを起こすのは危険です。
一刻も早くその場を立ち去りたいのは犯人のほう。相手が行動を起こすのを待ちましょう。

「泥棒!」と叫ぶと犯人が逃げたという話がありますが、これは薦めません。
逃げたのはあくまでも結果論です。
大声を出せば犯人を刺激してしまい、最悪の結果になることも考えられます。

 強盗は進入時に使用したバールやハンマーといった凶器になりうる道具を持っているケースがほとんどです。
もし犯人が襲いかかってきたら、前回の記事で説明したとおり、とにかく攻撃の動線から外れることを意識してください。
具体的には、犯人に対して体の側面だけを向けながら、攻撃をかわし続けてください。

 犯人が転ぶなどして攻撃が中断されたり、戦意を喪失したり、自分から距離を取ったりしたら逃げるチャンスです。
逃げるときは、常に犯人を視界に留めておくようにしてください。
距離が取れて攻撃の射程から外れたら、脇目もふらずに全力で逃げて問題ありません。

 逃げる場所ですが、ドアや窓、勝手口などから外へ出られれば、外に出ましょう。

 強盗犯に経路をふさがれて外に出るのが難しい場合、「パニック・ルーム」に逃げ込むのも有効です。
パニック・ルームとは、セーフ・ルームなどとも呼ばれ、犯罪や災害から身を守る目的でつくられる避難部屋のことです。
なるべく鍵のかかる部屋にするといいでしょう。
突破するのに時間がかかるとなれば、犯人が諦めて立ち去ることも考えられます。

 残念ながら、私たちは誰もが“無敵の強盗”に狙われています。
実際にターゲットにされるかどうかは運の要素もあるでしょう。

しかし、出来る限りの防犯対策をとれば彼らの犯行を遠ざけられるということ、正しい防衛術を身につければ最悪の事態を生き延びる確率が上がるということは、心に刻んでおいてください。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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