2024年02月14日

あらゆる仕組みが危機に瀕する「少子化のわな」

あらゆる仕組みが危機に瀕する「少子化のわな」
2/13(火)  毎日新聞

 元連合会長の古賀伸明氏は毎日新聞政治プレミアに寄稿した。

 「出生率が上向いたとしても、出生数の増え方は緩やかにとどまるか下手をすれば減り続ける。
流れに任せていては、あらゆる制度や仕組みが危機にひんすることになる」と語った。
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 今年1月9日、民間有識者による「人口戦略会議」が、人口危機に関する提言「人口ビジョン2100」を発表した。

 同日、会議の議長、三村明夫・前日本商工会議所会頭は首相官邸で、岸田文雄首相に2100年を見据えた長期的な国家戦略の策定と推進を求めた。
蛇足ながら、この会議(28人)のメンバーには私も加わっている。

 増田リポートとよばれた増田寛也氏編著の「地方消滅」(副題は“東京一極集中が招く人口急減”)が出版されてから10年の月日が流れた。
 当時は本の題名とともに、日本中に衝撃を与えた。
このままだと約半数の自治体が消滅することをデータとして示したからだ。
その傾向は止まるどころか加速している。

 ◇高齢化率は上昇を続ける
 昨年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」では、20年の国勢調査で1億2615万人であった総人口は、50年後の70年には現在の7割まで減少して約8700万人になるとみている。
 1億人を下回るのは56年で、6年前の前回推計に比べて3年遅くなっている。
その背景にあるのは、平均寿命の伸びと日本で暮らす外国人の増加だ。
この推計で人口減少のトレンドが改善したと受けとめるのは、あまりにも楽観的過ぎる。

 外国人増加の要素を除くと、今回の推計はむしろ厳しさを増している。
合計特殊出生率は、前回推計(1.44)を下回る1.36で日本人女性に限ると1.29まで下がり少子化は加速する。

 65歳以上よりもそれ以下の減少が進み、人口規模が縮小する中でも、高齢化率は上昇を続け約4割を占めると試算した。

◇外国人は本当に増えるのか?
 特に影響が大きいのが外国人の増加で、コロナ前と同じ年約16万人ペースで増えると見込み、70年には20年時点(2.2%)の3.4倍の約940万人にまで増え、全人口の10.8%の推計になっている。
 しかし、実際にこれだけ増えるのかは疑問であり、希望的観測との印象も否めない。
先進国の多くは人口減少や少子化に直面する国が増え、これからは外国人材の獲得競争が一段と激しくなる。

 外国人に選ばれる国であるためには、海外に見劣りしない賃金水準をはじめとした労働条件や就労環境の整備が求められる。

 もちろん、受け入れに当たっては就労のみならず、教育や住宅といった生活支援体制、社会保障など地域で安心して暮らせる環境を整えるために、共生社会を見据えた幅広い国民的な議論が必要だ。

 ◇支え手が不足
 今回の推計結果が示したのは、日本の人口減少は着実に進むことが、ほぼ確定した未来だ。
 出生率が長期的に2.20まで上がる最高位のシナリオでも、人口が反転増加するのは、70年よりも後になる。
 しかも、高齢化と少子化が同時に加速する社会であり、15歳から64歳までの生産年齢人口が大幅に減少し、推計によると、40年には現状より2割も減り社会・経済の支え手が不足する。

 このような情勢の中で、まず、第一に人口減少の大きな要因である少子化については「子どもを育てるのは社会全体の責任」ということを、より明確にし、より浸透させることが必要だ。

 少子化の背景は複雑で、若い世代の女性も男性も一人一人が将来に希望を持ち、安心して働きながら子どもを育てられる環境を、いかにつくっていくのかが重要な課題だ。

 ◇賢く縮む

 将来の漠然とした不安、非正規雇用の増加などに伴う不安定な生活、両立支援に消極的な考え方や組織体質、性別役割分担意識、妊婦や幼児を迷惑とみなす社会的風潮などが積み重なり、子どもを持つことをためらわせる社会状況をもたらしている。

 すぐに取り組むべきは、出産を望む人への支援だが、先に述べたような社会全体の意識や行動が変わっていかなければ、日本は少子化のわなから抜け出せず、社会構造改革の決意とこれを継続する強い意志が求められている。

 二つ目は、人口減少のスピードを抑える政策を推進することは大前提として、人口規模に合わせた社会制度の再構築だ。いわゆる、賢く縮む、スマートシュリンクといわれるものだ。
 出生率が上向いたとしても、出生数の増え方は緩やかにとどまるか下手をすれば減り続ける。
流れに任せていては、あらゆる制度や仕組みが危機にひんすることになる。

 こうした現実に向き合い、少子化対策や高齢化支援を含む社会保障制度改革はもちろん、国と自治体の行政サービスや財政、税制、道路・橋・公共交通機関などインフラのあり方、大都市圏と地方圏との関係など、中・長期の日本社会のあり方を描き直す必要がある。

 いわばうまく縮みながら社会機能を維持して、規模を求めるより質を高める成熟した国にふさわしい、国民一人ひとりが生きる幸せを実感し豊かに暮らせる社会を描くべきだ。

 ◇プラスの面も
 一方では、超高齢・人口減少社会の負の側面ばかり見るのではなく、経験豊富で元気な高齢者が活躍する機会でもある。
積極的に社会に参画することにより、支え手として日本社会を活性化させる契機にもなる側面も忘れてはならない。

 3点目は、これらのことを総合して議論し、国民に選択肢を示しながら国民的議論を展開するのは、まさに政治の役割と責任だ。
人口政策に高い優先度を与え、政府内に人口問題を多角的に検討し国家ビジョンを策定する司令塔「人口戦略推進本部(仮称)」を設置することが急務だ。

 政府、自治体、企業、私たち自身が危機感を共有し動き出さなければ、将来の日本は悲惨な状態となる。
posted by 小だぬき at 02:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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