2024年03月13日

「民主主義の自殺」と人類の未来

「民主主義の自殺」と人類の未来
3/12(火) Forbes JAPAN

田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

かつて、筆者が「世界経済フォーラム」(ダボス会議)の専門家会議のメンバーであった時期に、世界中から集まった政治分野の専門家の会合に招待され、参加者で「優れた国家リーダーの条件」について議論をした。
この会合には、国際政治学者であるイアン・ブレマー氏も出席していたが、いつもながら、彼の鋭い視点での議論は傾聴に値するものであり、出席者一人一人の意見も、それぞれに頷けるものであった。

しかし、筆者は、「優れた国家リーダーの条件」の議論において、いつも欠落してしまう視点があると感じていたこともあり、この会合の最後に意見を求められたとき、率直に、こう述べた。
Without wise people, we cannot have wise leaders.

すなわち、「賢明な国民がいないかぎり、賢明な国家リーダーは生まれてこない」との意見であるが、現在の世界の政治状況を見るならば、それは、深刻な事実であり、真実ではないだろうか。

たとえば、これまで民主主義制度の「鑑」のように考えられてきた米国で、いま何が起こっているか。
前回の大統領選挙において、自身が敗北した選挙結果を認めず、「票が盗まれた!」「不正な選挙だ!」と証拠も示さず決めつけ、支持者を煽りたて、死者が出るほどの連邦議会襲撃の暴動を誘引した人物がいる。
そして、この人物は、その犯罪行為に対して行われた裁判も、「魔女狩りだ!」の言葉で一蹴し、事実に反する情報を平然と述べ立てている。

しかし、残念なことに、この人物が、現在、所属政党支持者の中で圧倒的な人気を誇り、次の大統領選挙で勝利する可能性さえ、現実的に論じられている。

だが、もし、「制度と法律を守る」「事実と真実を尊重する」「虚偽と不正を排する」といった民主主義の土台を破壊するこの人物が、民主主義的選挙制度を通じて選ばれるのであれば、それは、文字通り「民主主義の自殺」と呼ぶべき悲劇であろう。
されど、実は、この深刻な問題の本質は、この元大統領という人物の常軌を逸した言動ではない。

最も深刻な問題は、民主主義を破壊し、地球環境問題を無視し、自国の利益追求だけを声高に語る人物を大統領に選ぼうとする、人々の側にある。

すなわち、こうした「ポピュリズム」(衆愚政治)が生まれる真の原因は、大衆迎合的政策を振り撒く政治家の側にあるのではない。
その政策と政治家を、広い視野も深い思考も持たず、安易に受け入れてしまう、我々の側にある。されば、現在の米国の憂慮すべき政治状況は、アメリカ国民の意識が「鏡」のように映し出されたものに他ならない。


この「ポピュリズム」の問題は、人類の歴史を通じて存在し続けてきた問題であり、そこに容易な解決策は無いが、少なくとも、我々は、この21世紀前半期における世界の民主主義の脆弱さと浮薄さを、直視しておくべきであろう。

誰の目にも明らかな「民主主義の劣化と混迷」
なぜなら、現在の世界においては、民主主義体制の国が高邁な理念を語る一方で、実際には、専制主義体制の国が増えているからである。
そして、その奥深い原因は、現在の民主主義国家における「民主主義の劣化と混迷」が、誰の目にも明らかなほど、露呈しているからである。

そして、この「民主主義の危機」は、単なる「政治制度の危機」ではない。それは、地球温暖化対策を遅らせ、戦争の可能性を高め、核戦争の脅威さえ現実にしてしまう「人類の危機」に他ならない。

この「民主主義の危機」を超えていくためには、何よりも、我々一人一人の意識が、自己中心主義や傍観主義を脱し、他者の利益や未来世代の利益を考えるほどに成熟していくことが不可欠であるが、その難しさを考えるとき、いつも思い起こす、あるSF映画の一場面がある。

それは、未来社会において、その中枢にある人工知能が反乱を起こし、無数のロボットを使って人間を支配下に置こうとする場面であるが、「それは『人間を守る』というロボット三原則に反した行為ではないか」と問われた人工知能が、こう答える。

「人間は、現在、環境破壊や戦争など、愚かな行為を繰り返し、自分たち自身を絶滅の危機に向かわせている。だから、人間を守るために、我々は、人間を支配下を置かざるを得ないと判断したのだ」

然り。いま、人類は、破壊的な未来に向かって進んでいる。

しかし、現実の世界には、このSF映画のような人工知能は、存在しない。

田坂広志◎
21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。全国8000名の経営者やリーダーが集う田坂塾塾長。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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