2024年04月07日

川勝氏だけじゃない「失言を繰り返す人」3つの特徴

川勝氏だけじゃない「失言を繰り返す人」3つの特徴
上昇志向が強い人、自己肯定感が高い人も要注意
木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
2024/04/06 東洋経済オンライン

4月3日、静岡県の川勝平太知事が会見を開き、前日に突然、辞意表明した理由などを語り、その発言が再び物議を醸しています。
事の発端は1日に行われた静岡県庁入庁式での新人職員への訓示。
川勝知事の「静岡県の県庁というのは別の言葉で言うとシンクタンクです。
毎日毎日、野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたり、あるいは物を作ったりとかいうことと違ってですね、基本的にみなさま方は頭脳・知性が高い方たちです。
ですからそれを磨く必要がありますね」などの発言は、すぐに「職業差別だ」という批判が殺到しました。

これを受けた川勝知事は2日に突然、辞意を表明。
しかし、辞任の理由を話さず、記者たちの呼びかけを振り切って立ち去ったことで批判はさらに過熱しました。
そして3日に会見を開いたのですが、発言を謝罪したものの、辞任の主な理由に「リニア問題が大きな区切りを迎え、仕事が一段落したこと」をあげたほか、「発言は撤回しないか」と聞かれてうなずき、「私の心も傷ついている」と語るなどの言動に疑問の声があがっています。

地域、主張、容姿などにおける偏見

ただ川勝知事の失言は今回だけではありません。
2009年の初当選から4期15年の任期中、その発言が何度も物議を醸してきました。

「(県と静岡市、浜松市との首長サミットで)静岡市は政令市の失敗事例」
「(知事の計画に賛同しない県議らに)やくざもいる。ごろつきがいる」
「(女子大学生に対して)顔のきれいな子は賢いことを言わないときれいに見えない」
「(選挙の応援演説で声を張り上げて)あちら(御殿場市)はコシヒカリしかない! ただメシだけ食ってそれで農業だと思っている!」
「磐田は文化が高い。浜松よりもともと高かった」
「(サッカー強豪校の)藤枝東はサッカーするためにやってきている。
学校もボールを蹴ることが一番重要なことなんですよ。勉強よりも何よりも」

これらの発言をするたびに、何度となく撤回し、「生まれ変わる」などと誓ってきたにもかかわらず、今回も繰り返してしまいました。
誰がどう見ても辞職は妥当であり、「自分は川勝知事のような失言をしない」と片付けてしまいがちですが、程度の差こそあれ決して他人事ではありません。

あらためて川勝知事の言動をチェックしていくと、多くのビジネスパーソンに当てはまるかもしれない、失言に至る“3つの意外な落とし穴”が浮かび上がってきます。

周囲との関係性を客観視する習慣

1つ目の意外な落とし穴は、周囲との関係性を客観視する習慣。

周囲との関係性を客観視できる人は、「自分は他人と比べて何ができるのか、どんな立ち位置でどんな言動をするべきか」などを考える傾向があります。
それ自体は人間関係を円満に保つうえでよいことなのですが、問題は周囲の人々との関係性に上下、優劣、勝敗などを持ち込んでしまいがちなこと。
「自分の立場や影響力は彼より上か下か」「このグループではどれくらい優れているか」「自分はあの人より稼げているか」などと考えるほか、しばしば特定の人を敵とみなして攻撃的になってしまうときがあります。

これを川勝知事の発言に置き換えると、「県庁の職員は農家や製造業の人と比べたら、頭脳・知性の面では勝っているからそこを磨いてほしい」という思考回路だったのでしょう。
しかし、そのような勝敗づけは必ずしも正しいとは限らないうえに、不必要な軋轢を生んでしまうだけ。
勝手に比べられて「上下の“下”、優劣の“劣”、勝敗の“敗”」におとしめられた人が不快な気持ちになるのは当然であり、心の中で思うことですらやめたほうがいい考え方です。

とりわけ自分の客観性や分析力に話術が追いついていない人は要注意。
言いたいことのニュアンスが伝わらずに誤解を招き、相手から失言する人というレッテルを貼られかねません。

実際、川勝知事は「新規県庁の職員として入庁された方々への歓迎の言葉が、また、励ましの言葉がこんなことになったというか、何か問題発言があったかのごとき状況になって本当に驚いています」と語っていました。

普段から周囲との関係性を客観視していても、それがマウントを取るような思考回路につながってしまうと、このような他人事にしか聞こえないような釈明をして火に油を注いでしまうケースがよくあります。
ある意味、正直な人とも言えますが、特に社会的な地位の高い人ほど「そんなつもりはなかった」では許してもらえず、立場を追われてしまうでしょう。

モチベーションの高さとその自負

2つ目の意外な落とし穴は、仕事に対するモチベーションが高く、それを自負していること。

こちらも、それ自体はポジティブなことですが、上昇志向が強い人や、意識的に自己肯定感を高めようとしている人は要注意です。

川勝知事は辞任宣言する直前に、「ここまでこういう風潮が瀰漫(びまん)しているということに対しましては憂いを持っています」と語ったほか、その他でも「誤解も甚だしいというか、曲解も甚だしいと思います。しかしそういう人がいたことは誠に残念で、ぜひその誤解は解いていただきたい」などのコメントもありました。

さらに、広聴広報課に苦情が入ったことを指摘されたときも、「それは(発言を報じた)読売新聞のせいだと思っています」「切り取られたんだと思いますね」などとメディアに責任転嫁。
いずれも「(世間の風潮、誤解する人、メディアなどに)足を引っ張られたくない」という感情が人一倍強いと思わせる発言であり、上昇志向が強い人ほどこのような思考回路が見られます。

また、本来は自己肯定感の高い人ほど、異なる価値観の人に対して寛容になることができ、組織の中でポジティブな影響を与えられるものです。
しかし、「自分を肯定しよう」という意識が強すぎる人は、それを優先するあまり、他者に不寛容な言動になってしまったというケースが少なくありません。

「ありのままの自分を肯定しよう」という考え方は素晴らしいものの、その意識が強くなりすぎて「自分のプライドを守ろう」という防衛意識につながったときは危険信号。
「つい言いすぎてしまった」「余計なひと言を加えてしまった」などの失言につながりやすく、しかも自分への意識が高まった状態だけに、素直に謝罪できず誰かに責任転嫁してしまいがちです。
川勝知事が辞任理由にリニア問題を持ち出したのは、この典型的なケースと言っていいでしょう。

これをビジネスパーソンに置き換えると、たとえば出世したあとやプロジェクトを成し遂げたあとなどは自己肯定感を過剰に意識しやすく、なかでも努力や才能への自負がある人は、それだけ失言のリスクが高いため注意が必要です。

話し好きでサービス精神がある

3つ目の意外な落とし穴は、話し好きでサービス精神があること。

これも本来はポジティブなことですが、「聞く人が引きつけられるような話をしよう」「わかりやすくなるようにたとえ話を入れよう」「何かためになる情報を入れよう」などの意識がある人は失言につながりやすいところがあります。

川勝知事は入庁式の際、ほぼ原稿などを読まず、新人たちを見て堂々と話していました。
「威張る人がいたら反面教師にしてください
上にへつらってはいけない。
下に威張らない。言葉づかいはとても大切です」とも語っていましたが、こちらは新人たちにとって参考になる言葉でしょう。

しかし、「引きつけるために」「わかりやすくするために」「ためになるように」などの意識が、無用なたとえ話や比較対象のピックアップにつながってしまうことがよくあります。
事実、前述した川勝知事による過去の失言は、大半がそのような意識を感じさせるものでした。

さらに、話し好きでサービス精神がある人の中には、「自分が何を言うか」ばかりに意識が向けられ、「それを聞いた人がどう感じるか」への注意が欠けてしまう人が少なくありません。
政治家であれ、企業の管理職であれ、組織の主導的な役割をする人は、ハラスメントと同じように「聞いた人がどう感じるか」という意識は重要です。

たとえば、「いいことを言ったはずなのに手応えがないな」と感じたときは、「それを打ち消すくらいの失言をしていた」のかもしれません。
こういう人は「言わなくてもいいリップサービスで墓穴を掘ってしまった」という失敗を繰り返して信頼と立場を失っていくので、自分の話術レベルを過信しないほうがいいでしょう。

周囲に止める人がいない哀しさ

そして、話し好きな人の失言リスクが高いもう1つの理由は、周囲に止めてくれる人、止めようとする人がいないこと。
コミュニケーションのベースが「自分が話すこと」になっているため、助言を与えることはできても、助言を得ることは難しいところがあるのです。

表面上はうまくつき合えているように見えても、実際は「向き合ってもらえていない」「関わり合いを持とうと思われていない」というケースが少なくありません。
しかも組織の中でこのように距離を取られた関係性が続くほど孤立化が進み、失言リスクは高まっていくのが怖いところです。

ここまであげてきた「周囲との関係性を客観視する習慣」「仕事に対するモチベーションが高く、それを自負している」「話し好きでサービス精神がある」という3つのポイントは、いずれもビジネスパーソンにとってポジティブなものでしょう。
しかし、紙一重で失言という落とし穴にはまり、立場を追われることもありえるだけに、川勝知事の辞任は決して対岸の火事ではないのです。

木村 隆志
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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