意識したいのは誰かに「搾取」されずに生きる道
ネガティブ情報をわざわざ伝えにくる人は注意
藤野 智哉 : 精神科医
2024/05/16 東洋経済オンライン
言わなくてもいいことを、わざわざ伝えにくる人。
もらってもうれしくないものばかり持ってくる人……。
日々、いろいろなタイプの人と付き合う中では、どうしても自分のペースを乱されたり、余計なストレスを抱えたり、ということがあります。
そのようなときでも「自分らしく」毎日を過ごすヒントはあるでしょうか。
精神科医・藤野智哉さんの著書『「そのままの自分」を生きてみる』から一部を抜粋、再編集し、自分を大切にする生き方について考えてみます。
他人はあなたのために生きてない
そもそも、対人トラブルの多くはお互いが、「相手はあなたのために生きてないから、あなたの思いどおりにはならない」という当たり前のことをちゃんと理解できてないせいで起こるんじゃないかなと僕は思ったりします。
冷たい言い方かもしれませんが、これがわかっているとムダに落ち込む時間が減ります。
他人を責めたり、うらんだりしたくなったら、「他人は自分のために生きてないからしょうがない」という言葉をつけると腑に落ちるかもしれません。
・子どもが私の希望する学校に入らない!
→「他人は自分のために生きてないからしょうがない」
・仕事の提案を受け入れてもらえない!
→「他人は自分のために生きてないからしょうがない」
どうですか。「まぁ、しかたないか」という気持ちが少しずつ出てきませんか?
このように「あきらめ」の気持ちを時にはうまく利用するのです。
逆に、相手のほうが「他人はあなたのために生きてない」を理解してないパターンもありますよね。
たとえば、いつも「いらないもの」を渡して感謝を強要するお姑さん。
本人はモノをあげるんだから感謝されて当然だと思っている。
でも、もらった側としては、センスの合わない服や家族の誰もが食べないおかず、いらない景品などを渡されて、感謝を求められるのもしんどい状況だったりします。
そんなとき「お義母さん、私、あなたのために生きてるわけじゃないんで、思いどおりにできると思わないでください!」とは、言えませんよね。
言えるかもしれませんが、面倒な展開になる可能性大です。
だったら、やんわり断ったほうがいい。
「断捨離中だからモノを増やしたくなくて」というように。
それでも渡されたら、いったん受けとるだけ受けとって無理に使ったり食べたりしなくたっていいのです。
気持ちだけ受け取っておく
「あげたい」というお姑さんの気持ちは受けとって、モノは手放す。
相手の行動は変えられない。自分の行動を変えていく。
そんなふうに分けて考えることが有効です。
気持ちは受けとっているんだから、罪悪感はもたなくてもいいのではないでしょうか。
「相手からしてもらったことに全部応えなきゃ」となると、「他人のために生きている自分」「他人の思いどおりになっている自分」になってしまいます。
相手にはしたいことをさせておく。
自分は相手のために生きなくていい。
というバランスが大事ですよね。
「誰のためならがんばれるか」
「自分を搾取させない生き方」は大切です。
いい人で真面目な人って、ついつい他人から「搾取されてしまう」ような人間関係になってしまうこともあったりします。
・明日も仕事なのに、相談の電話がかかってきて夜遅くまで話を聞いてしまう
・困っている身内に10万円を貸したけど、なかなか返ってこない
・自分ばかりに仕事が集中してしまう。仕事量が多くてつらい
・仕事も子育てもあるのに、義父母の介護もお願い、といわれてしんどい
こういうときに大事なのは、「自分は自分のために生きていい」という感覚です。
誰かに搾取されないよう、繰り返し自分に言い聞かせてください。
ただ、もう一方で考えたいのは、逆に「期待に応えたい人」の存在です。
すべての人の期待に応えないのは、それはそれでさみしいですよね。
「この人の期待には応えたい」「この人のためなら、ある程度自分が我慢してもいい」という人っていますよね。
「パートナーや子どものためならがんばりたい」「尊敬する上司の期待には応えたい」といったことです。
大切なのは、「誰のためならがんばれるか」をちゃんと考えておくことだと思います。
そこを考えておくと、流されて搾取されて苦しくなってしまうのを避けられるようになるのではないでしょうか。
「自分が与えたい人」と「与えちゃダメな人」を線引きするのって、けっこう重要だったりします。
そして、これは、「人」じゃなくて「行動」でも考えることが大切です。
・夜22時までなら、相談の電話を受ける
・お金は貸さないけれど、本当に困っているなら1万円までならあげる
・残業は2時間以内、それ以上続いたら上司に相談する
・義父母の介護は週2回までにする
こんなふうに、「自分はここまでならやれる」というマイルールをつくってもいいですよね。
マイルールをつくっておく
マイルールがあると、少し「コントロール感」がもてます。
「コントロールできる」と思うとふっと心がラクになりませんか。これってけっこう大事なポイントです。
「搾取」ってそもそも自分が気づかずに、自分がもっているものを奪われていくことだったりします。
けれども自分が好きでしていることだったら、単に「やってあげたい人にやってあげてる」だけになると思うのです。
「与えたい人」に自分ができる範囲、好きな範囲で与えるだけでいい。そんな線引きが心を穏やかにしてくれるのではないでしょうか。
「優しい嘘」ならついていい
「嘘をつく」ことを悪いことだと思っていませんか。
でも、「嘘」って、そもそも違う特性をもつ人間同士がうまくいくための潤滑油の一面もあったりします。
相手の勝手な期待や干渉に対して応えてあげる必要はない。
かといって、あえてはっきり否定して、関係をギクシャクさせる必要もない。
そのために、嘘も立派なコミュニケーションだと思います。
たとえば、あなたが上司から「後輩の◯◯さんが、大きなミスをしていたよ。こんな初歩的なミス、ありえない。気をつけてと強く言っておいてね」などと言われたとします。
とはいえそのミスは、あなたからしたら小さいミスです。
その上司は、ちょっと仕事がうまくいってなくて機嫌が悪く、後輩に当たっているような状況です。
さて、上司の言うとおりにそのまま強く伝えるでしょうか。
やんわりと、「間違えていたみたいだから、次から気をつけたほうがいいかも」くらいの注意ですます人も多いのではないでしょうか。
そうした行動を「そんなの嘘をついてる」という人は、ちょっと「嘘」について勉強しなおしたほうがいいかもしれません。
厄介な"ケンカの仲人"
一方で、次のような発言をそのままストレートに伝えてくる人についてはどう思うでしょうか。
「そういえば、昨日、◯◯さんがあなたのこと、気が利かない人って私に言ってきたのよ。私はそんなこと思わないけど。ひどいわよね〜」
こういう人の「言わなくてもいいのに、わざわざ言ってくる話」ってあったりします。
僕は、他人が言っていたネガティブな情報をわざわざ伝えてくる人のことを「ケンカの仲人(なこうど)」って呼んだりします。
「そのままの自分」を生きてみる
精神科医が教える心がラクになるコツ
本人は「Aさんが言ってたことを、Bさんに教えてあげよう」という親切心のこともあるかもしれませんが、実際にやっていることは「AさんとBさんを戦わせている」だけです。
こうとらえると「ケンカの仲人」ではないでしょうか。
ネガティブ情報をそのままストレートに言う必要はないものです。
「言わない」「黙っている」という選択肢もあるはずです。
陰口を言われたことのない人なんて、多分いません。
ディープな悪口か単なるいじりか、度合いはあるでしょうが、誰かからは絶対言われたことはあります。
だから、それをわざわざ本人に伝える必要はないと思うのです。
知らないほうがいいこと、幸せなことってあるものです。
「優しい嘘をつく」「黙っている」も、大事なコミュニケーションの方法だったりするんですよね。
「ケンカの仲人」には気をつける
藤野 智哉 精神科医