江川紹子さん、カルトの特徴は「絶対視した価値観を基に行動」…オウム3大事件など「語り継ぐべきだ」
7/2(火) 読売新聞オンライン
死者8人、負傷者約600人を出した松本サリン事件から30年。
オウム真理教が社会に残した教訓は何か――。
2018年に教団の一連の事件を主導した松本智津夫元死刑囚(執行時63歳)ら13人の死刑が執行されたものの、ジャーナリストとしてオウムを長年追ってきた神奈川大学特任教授の江川紹子氏は「刑を執行すれば終わりではない」とし、記憶を風化させないためにも、機会をとらえて意識的に語り継ぐべきだと強調する。(山崎至河)
江川氏は、坂本堤弁護士一家殺害事件(1989年)と松本サリン事件(94年)、地下鉄サリン事件(95年)をオウムが引き起こした「3大事件」とし、坂本弁護士事件は「教団が初めて一般市民を標的とした事件」、地下鉄サリン事件は「教科書にも載る無差別テロ事件」と位置付ける。
一方、松本サリン事件では第1通報者の河野義行さん(74)が当初犯人視された冤罪(えんざい)被害が問題化したのを踏まえ、「3大事件の中では冤罪事件としての側面が強い」と指摘。
その上で「8人が犠牲になった教団初の無差別テロという本質を忘れてはならない」と語った。
オウム事件の死刑囚らの刑は執行されたが、江川氏は「刑事事件の処理が終わり、一件落着となるわけではない」と言う。
カルトの特徴について、「絶対視した価値観を基に行動し、人権侵害や反社会的行為を伴うもの」とし、「宗教とは銘打たないものの、『政治的カルト』『経済的カルト』のようなカルト性の高い集団が現在もある」と警鐘を鳴らす
2022年に起きた安倍晋三・元首相銃撃事件では、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)や宗教2世の問題に注目が集まり、「再びカルトへの関心が向いた」とみる江川氏。
「若い人にカルトについて情報提供をしなければ、再びオウム事件のように巻き込まれる人も出てくる」とカルトの危険性を教育する重要性を訴える。
教団信者たちはなぜ、オウムに居場所を見いだし、凶行に走ったのか。
カルト問題に詳しい立正大の西田公昭教授(社会心理学)は、オウムが当時、人生や生きる意味に悩みを抱える人たちに分かりやすい答えを提供していたとして、情報の真偽を見極める「情報リテラシー」を持つことが大切だと語る。
オウムによる事件の裁判に証人として出廷した経験もある西田氏。
「彼らには社会を壊そうとするような目的はなく、決してモンスターではなかった。
自分の生きる意味を考える真面目な人だった」と振り返り、社会から遮断された状態で悩みに対する回答を直ちに示され、妄信したのではないかとみる。
西田氏は、コロナ禍で散見された陰謀論などを挙げ、SNSなどで情報があふれる現代社会に通じる問題もあるとして、こう強調する。
「答えが見いだせない時にすぐに分かりやすい答えがあるからといって、飛びついてはいけない」