2024年11月25日

「人の脳年齢は1日眠らないだけで老化」は"真実"

「人の脳年齢は1日眠らないだけで老化」は"真実"
「神経細胞は一度死んだら戻らない」は実はウソ
西多 昌規 : 早稲田大学教授 早稲田大学睡眠研究所所長 精神科医
2024/11/24  東洋経済オンライン

睡眠不足 疲労
睡眠不足は、脳のいろいろな部分に、さまざまなダメージをもたらします

「寝ても疲れがとれない」「眠りが浅い」など、睡眠に関する悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
今はタイパ、コスパが極端に重視される時代ですが、精神科医で、早稲田大学睡眠研究所所長の西多昌規さんは、「人生で眠っている時間は決して無駄な時間ではない」と断言します。

本稿では、しっかり寝ることがどれほど大事なことなのかについて、西多さんの著書『眠っている間に体の中で何が起こっているか』より一部抜粋、3回にわたって紹介します。

何歳でもニューロンは新生する

赤ちゃんの睡眠時間の半分は、レム睡眠です。
成長にしたがってレム睡眠は減少し、大人では全睡眠時間の20〜25%で落ち着きます。

子どもの頃にレム睡眠が多めに出現することから、レム睡眠は脳の成長に重要なのではないかと、漠然と考えられてきました。

大人になっても脳が成長し続ければいいのですが、残念ながら脳の大きさのピークは、25歳頃です。
その後は、年齢とともに徐々に小さくなっていきます。1日に失われるニューロンは約10万個ともいわれます。

以前は、成人になったらニューロンが減っていく一方で、新しくニューロンが生まれることはないと考えられていました。
しかし現在では、大人になってもニューロンは新しく生まれてくる(神経新生)というデータも多く発表されています。

成人におけるニューロン新生は、海馬で生じます。
海馬は、記憶や学習機能をコントロールする、いわば「記憶の司令塔」のような存在で、日常の出来事や学習して覚えた情報はすべて海馬に送られ、一時的に保存されます。

この海馬でのニューロン新生に関わる興味深い現象が、レム睡眠中に行われていることがわかりました。
海馬の情報伝達は、ニューロンの樹状突起(細胞体から出ている突起)から飛び出す「樹状突起スパイン」という、棘(とげ)の形に似た部分で行われています。

情報のメッセンジャー的役割の樹状突起スパインは、レム睡眠のときだけ形成されます。
そして、樹状突起スパインを除去したり、必要な樹状突起スパインだけ残したりする、樹状突起を整理する機能も、レム睡眠中に行われていることがわかりました。

この樹状突起スパインが新しくつくられたり、逆になくなったりするのは、脳の発達や記憶の整理強化にとって大切です。
レム睡眠がこの記憶の固定プロセスに重要であることは、細胞レベルで明らかになったわけです。

睡眠不足は、脳のいろいろな部分に、さまざまなダメージをもたらします。たとえば、

・ニューロンがぎっしり詰まっている灰白質(かいはくしつ)の体積減少

・神経線維が密に通っている白質の広範囲にわたる(良くない)変化

・大脳皮質の広範囲にわたるニューロンの(よくない)変化

・脳室の拡大(=脳の萎縮)

など、ニューロンやグリア細胞を含めて、睡眠不足は、脳の細胞にはロクなことがないようです。

これらの研究は、脳MRIを研究者が多大なエネルギーを傾けて解析したものです。
MRI画像の解析なんて脳科学者にしかわからない、と思われるかもしれませんが、もしかしたらわたしたち自身が、自分の脳の老化を可視化できるようになるかもしれません。

睡眠不足で脳は老化する

「新しいものを覚えられない」「人の名前が出てこない」「とにかく話が長い」「すぐにカッとしてしまう」

これらの特徴は、悲しいかな脳の老化現象の表れです。

脳神経系のダメージを身近に感じさせる脳の老化ですが、人間の脳は一晩眠らないだけで、1〜2歳老けることが、新しい研究で明らかになりました。

チューリッヒ大学やハーバード大学など、欧米の合同研究チームは、「brainageR」という機械学習アルゴリズムを用いて、睡眠不足の人の脳MRIから「脳年齢」を推定し、同じ人の一晩中眠ったあとの脳MRIと比較しました。
ちなみにbrainageRは公開されていて、約4年先の脳年齢を正確に予測できることが確かめられています。

結果は先述した通りで、一晩眠らなかった場合は、ちゃんと睡眠をとったときと比べて、平均で1〜2歳老けていると、brainageRが推定しました。
幸いなことに、この老化現象は一晩眠ったらなくなりました(※外部配信先ではグラフを閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

睡眠不足で脳年齢が老ける

この研究では一晩の睡眠不足でしたが、継続的な睡眠不足による脳年齢の変化も、そのうちデータが発表されると思われます。おそらく結果は、一晩よりももっと老化が進むことになると予測されます。

睡眠不足は「孤独」にも関係する?

これからの人間の健康には、単に平均寿命が長いだけではなく、幸福感や満足度の高い生活、いわゆるウェルビーイングが、大きな課題です。
孤独や社会的孤立は、喫煙や運動不足、飲酒よりも、死亡率やウェルビーイングに悪影響を及ぼします。

睡眠不足と孤独、社会的孤立の間には、双方向の関係があることが注目されています。

睡眠不足の人が、見知らぬ人が自分に向かって歩いてくるビデオクリップを見たときに脳スキャンをとると、人間がパーソナルスペースを侵害されたと感じたときに活性化する神経ネットワークが活性化し、強い拒否感が見られました。それだけでなく、睡眠不足は、社会的関与を促す脳活動も鈍らせてしまうという結果が出ました。

睡眠不足になると、外見からも他人から敬遠されるようにもなります。
睡眠不足によって強まる社会的孤立傾向も、脳の老化を促進している可能性大です。
その意味で、脳を若々しく保っておくことは、非常に重要です。

そのためにも、その人に合った十分な睡眠時間の確保や、あるいは睡眠時無呼吸症候群などの早期発見と治療などが、より大切になってくると思います。

[註5]人のニューロン新生については、動物実験と同程度のニューロン新生があるという説が有力であった。
しかし、近年において、人でのニューロン新生は極めて少なく、一定年齢で止まると結論する論文もあり、人間でのニューロン新生については結論がまだ出ていない。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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