刃物を持つ犯人に「絶対してはいけない」3つの事
刃物を持った人物が現れたら…どうすればいい?
松丸 俊彦 : セキュリティコンサルタント
2024/12/21 東洋経済オンライン
「安心して外出できないような世の中になった」。そう嘆く声が全国から聞こえてくる。
刃物による恐ろしい事件が多発している。
12月14日、福岡県北九州市のファストフード店で中学生の男女2人が突然、男に刃物のようなもので刺され、女子生徒が死亡し、男子生徒が重症を負った。
その後、19日に現場近くに住む43歳の男が殺人未遂の疑いで逮捕された。
18日には、2つの事件が起こっている。
まずは昼に兵庫県神戸市の地下鉄三宮駅の改札付近で、75歳の女性が背中など2カ所を刃物で刺された。
女性は全治1カ月の重症だ。同日、49歳の女が現行犯逮捕されている。
同日夜には、千葉県柏市の住宅街で59歳の夫婦が刃物で殺害された。
近くでは火事が発生しており、住宅など8軒が全焼。この火元となった家に住む77歳の男が、翌日に公務執行妨害で逮捕された。
柏市の事件は顔見知りのようだが、北九州市と神戸市の事件は通り魔的な犯行と見られている。
凶刃を前に「絶対にしてはいけない」3つの行動
突然、しかも背後から襲われた場合は、正直どうしようもないというのが現実だ。
しかし、それをなるべく事前に防ぐ方法はある。
また、襲われた際に被害を拡大してしまう「危険な行動」というのもある。
相次ぐ刺傷事件に不安を募らせている人も多いだろう。
自分や大切な人の身を守るためにどうしたらいいのか、具体的な対策について説明していきたい。
まず、生死を分けるのは「初動」である、という点を念頭に置いてほしい。
これによってその後の結果に大きな差が出る。
警察官は至近距離から刃物で急襲されたときの訓練をするが、その際に徹底的に叩き込まれるのが初動の動きだ。
刃物を持った人物が現れたとき、「絶対にしてはいけない行動」というものがある。
以下の3つだ。
【「絶対にしてはいけない」3つの行動】
1:声をあげる
2:背中を向けて逃げる
3:戦う
1つ目は、声をあげること。
もちろん、突然刺されてしまったという場合には別だが、目の前に刃物を持った人物が現れたとき、声をあげて自分の存在を知らせたり、犯人を刺激したりしてしまうと、犯人のターゲットになりやすい。
この後の動きにつなげるため、そっと存在感を消すことが必要となってくる。
2つ目は、背中を向けて逃げること。
目の前に刃物を持った人間がいれば一目散に逃げ出したくなるが、それでは犯人の攻撃から目をそらすことにもなる。
背後から襲われてしまうと、初動で最も重要な防御をすることもできない。
凶器による攻撃が届く範囲にいる場合は、犯人のほうを見ながら、後ずさりする。
つねに犯人を視界にとどめる。
犯人の攻撃範囲から出て、距離をとることができて、なおかつ犯人が背中を見せるなど、こちらから注意がそれたタイミングがきたら全速力で走って逃げるのがベストだ。
逃げる間もなく凶刃が届きそうになったら…
そして最後の危険な行動は、戦うことだ。
自身の腕っ節に自信があったり、犯人が小柄だったりすると、勇敢な人は立ち向かおうとするかもしれないが、それは最後の手段である。
アメリカでも、テロ対策として「ラン(Run)・ハイド(Hide)・ファイト(Fight)」を推奨している。
まず、走って逃げる。
次に隠れて身の安全を確保する。
そして、最終手段として戦う。
あくまでも何もしなければ座して死を待つのみという状況になって初めて、「戦う」という選択肢が出てくるのだ。
では、逃げる間もなく、犯人の凶刃が届きそうになってしまったらどうすべきか。
これは警察官も徹底して叩き込まれる手法であるが、モノで刃物を叩くことだ。
モノというのは、身につけているバッグや買い物袋などである。
初動で最優先されるのは犯人の第一撃を防ぐこと。
したがって、ここでの「叩く」という動作は、攻撃ではなく防御を目的とする。
その際に、相手の攻撃の動線(刃物の軌道)から自分の体を外すことが重要だ。
とても難易度の高い動きになるが、凶器を叩きながら自分の体を犯人に対して斜めにして正面を見せないようにすると、急所に攻撃を受ける確率を下げることができる。
そこまでできなくとも、刃物を叩き落とすだけでも効果はある。
また、叩き落とすことができなくても、相手が落としそうになるだけで少しの時間を稼ぐことができるだろう。
相手の第一撃を交わしても、また襲ってくる場合、基本的にはこの動きをくり返すことになる。
相当に武道や格闘技の修練を積んでいる人でない限り、危険なので打突(だとつ)や投げといった技で犯人を制止しようとすべきではない。
丸腰の状態だったら、どう防御する?
しかし、北九州市で中学生が襲われたときのように店でレジに並んでいたり、ちょっとトイレに立ったときなど、手にしているのは財布のみで、防御できるようなモノは何もないことがあるかもしれない。
その際には、刃物を叩き落とさずとも、前述したように攻撃の動線(刃物の軌道)から自分の体を外すことに尽きる。
その際、体を半身にして、意外かもしれないが犯人が刃物を持っている利き手側に回り込むように体をそらすのがいい。
これは、攻撃の的をできる限り小さくすること、そして犯人が力を入れやすい方向から逃れる目的だ。
もしあなたの利き手が右手だとすると、少し左側にいる人と、右手よりもさらに右側にいる人、どちらが攻撃しやすいだろうか。刃物を振り下ろしたり、突き刺したりする場合、利き手と反対側のほうが力を入れやすいため、利き手側に回り込むと攻撃力を落とすことができるのだ。
警察官も刃物を取り出す危険のある人物に同行する際、利き手を見極めてそちら側を歩くように指導されている。
もっと手前の段階から身を守る方法は1つだ。
とにかく周りに気を配り、不審者から距離をとること。
不審者と至近距離で対面しないためには、不審者をできるだけ遠くで、いかに早く見つけるかに限る。
スマートフォンに集中したり、イヤホンをして周囲の音を遮断していたりすれば、不審者発見は遅れてしまうし、襲われたときにも初動が遅れるだろう。
「直感」は馬鹿にならない
2021年に京王線車内で起きた刺傷事件がある。
ハロウィーンであった10月31日、八王子から新宿に向かう京王線の車内で、当時24歳の男が乗客たちを無差別に刃物で襲った事件だ。
男性1人が意識不明の重体となり、車内には火が放たれた。
犯人の男が『バットマン』に出てくる「ジョーカー」のコスプレをしていたことから、「ジョーカー事件」とも呼ばれている。
この事件映像を見て筆者が気になったのは、乗客が隣の車両から走って逃げてきているにもかかわらず、 ヘッドホンをしていて逃げ遅れている人がいたこと。
スマホに夢中になっていたり、イヤホンで周囲の音を遮断していたりする人の姿は、最近では当たり前に見られる。これは非常に危険だ。
イヤホンをするにしても片耳は空けた状態にしたり、スマホをずっと眺めるのではなく、頻繁に顔を起こしたりすることで、初動への反応速度を上げることができる。
そして不審な人物を見かけたら、とにかくそっと距離をとることだ。
そのために重視するのが「直感」。
これが意外と馬鹿にできない。
公共の乗り物などで「何かが怪しい」と感じたときの“言葉には表せない直感”に頼る。
この感覚的な気づきを逃さないためには、先ほども述べたように周りに気を配るのが肝心だ。
最近起こった事件については、こういった対策をもってしても防げない最悪のケースだったといえる。
しかし、普段から注意して周囲を見るようにすれば、あなた自身、そして大切な人を守ることができるかもしれない。
まずは備えるという意識をもっておくには越したことがないだろう。
松丸 俊彦 セキュリティコンサルタント