2025年01月08日

今の日本には「専門医」より「かかりつけ医」が必要

今の日本には「専門医」より「かかりつけ医」が必要
受診先を1箇所にまとめる利点は意外と大きい
菊池 大和 : きくち総合診療クリニック
2025/01/06 東洋経済オンライン

日本は今、地域医療の危機を迎えています。
2025年には、団塊の世代が後期高齢者となり、認知症患者も大幅に増えることが予想されています。

このままでは近い将来、患者さんがかかりつけ医を見つけられなくなり、地域医療が崩壊してしまうかもしれません。

『「総合診療かかりつけ医」がこれからの日本の医療に必要だと私は考えます。』の著者、菊池大和医師が現状と課題、真のかかりつけ医の必要性、そして地域医療を守るための方策について伝えています。
本稿では、同書から一部を抜粋、編集してお届けします。

厚生労働省の「かかりつけ医」とは?

一般の人に「あなたには、かかりつけ医がいますか?」と尋ねたら、どんな答えが返ってくるでしょうか。

もちろん人それぞれ違うでしょうが、「風邪をひいたら、歩いて3分の内科に行くけど、花粉症の季節にはその先の耳鼻科に行く。
1年に1回の健康診断には一駅先のレディースクリニックに行く。どれもかかりつけ医と言えばかかりつけ医だけど……」という曖昧な答えも多そうです。

厚生労働省は一般の人に向けて、「上手な医療のかかり方」について情報を発信してます。
そこには「かかりつけ医」とは何か、ということも紹介されています。

かかりつけ医とは、
1 健康に関することを何でも相談できる

2 必要な時は専門の医師・医療機関を紹介してくれる

3 身近で頼りになる医師

というところを呼ぶそうです。

あらためて問いますが、皆さんの勤務する病院やクリニックは、この3点を満たしていますか?
 研修先の医療機関は、この条件に当てはまっていますか? 
さらに、そこはあなたの家族が病気になったときに自信を持って紹介できる医療機関であり、かかりつけ医になりえますか?

現状から目をそらさずに考えてみてください。
すべての条件に当てはまる医師は極めて少ないはずです。

「それは仕方がないよ。医師は自分の専門分野をしっかり診るのが仕事だから」と言いたくなるかもしれません。

しかし、開業するのがこのような医師ばかりだったら、患者さんはかかりつけ医が見つけられず、困ってしまいます。
現実に多くの患者さんが、病気ごとにいくつものクリニックに通院しながら、「私の本当のかかりつけ医は誰だろう?」といぶかしく思っているケースは多いのです。

そういう患者さんは複数のクリニックにかかっているぶん、トータルで受ける検査の数も多くなるので、医療費も多く支払っています。結果的に医療費の問題を加速させています。

「どんな症状でも、まず診察」

複数のクリニックで受診している人が、「病名がわからないから、どこに行けばいいかわからない」ような体調不良が起きたときに、「ここかな?」と思って、いつも受診しているクリニックに行ったところ、「うちでは診られない」と断られてしまう……。

このようなことは日常茶飯事です。

医師がみんな断ってしまったら、最終的に誰が診るのでしょうか。

「どんな症状でも、まず診察」する真のかかりつけ医が必要です。

患者さんの健康を守るのが医師の仕事です。
そして患者さんにとっては、まずは近くのクリニックで受診するのが理想でしょう。
そこから診察・治療がスタートするのです。

にもかかわらず「かかりつけ医がいない」「かかりつけ医が誰かわからない」「自分(患者さん)はかかりつけ医だと思っていたのに、医師のほうはそう思っていなかった」という事態が蔓延しています。

医学生、研修医の方々、これから開業しようと思っている医師の皆さんは、この実情をよく考えてほしいと思います。
「なんでも診る」「いつでも診る」医師こそが、厚生労働省のいう「かかりつけ医」ではないでしょうか。

あなたの地域に住む、次のような高齢者の姿をイメージしてください。

75歳、1人暮らしの男性。

高血圧・脂質異常症で2カ月に1回、内科クリニックに通院している。
ほかに、腰痛で整形外科クリニックに月1回、過去に軽い脳梗塞になったことがあるので、経過観察として脳神経外科クリニックに月1回、白内障など眼の病気の定期検診のために眼科クリニックに月1回通院している。

最近は少しもの忘れも出てきて不安がある。
歩くときに膝が痛くなってきた。運転免許証はすでに返納し、通院は歩きやバス。子どもは遠くに住んでいる。

さて、この状況で私からいくつか質問するので、考えてみてください。

Q 「なんとなく体調が悪い」場合、男性はどこのクリニックを受診すると思いますか?

Q 「なんとなく体調が悪い」のに、いつも通院している内科で「異常なし」と言われたら、男性はどうすると思いますか?

Q もの忘れが進行して今より心配になってきたら、男性はどこに行くと思いますか?

Q 不調があって受診をしたいつもの内科で「検査が必要ですね。でもうちではできないので、○○病院に紹介状を書きます」と言われ、その病院が遠くにあった場合、男性は1人で行くことができると思いますか?

Q 夜間や休日に持病の腰痛が急に悪化したら、男性はどうするでしょうか? いつもの整形外科でレントゲンを撮影して、「異常はない」と診断され、痛み止めを処方されたものの、よくならないと感じたときにはどうするでしょうか?

Q 腰や膝の痛みで4つのクリニックに思うように通院できなくなったら、男性はどうすると思いますか?

Q いつも通院している内科の院長先生が高齢などを理由に急に閉院したら、男性はどうすると思いますか?

20年後も変わらない日本の地域医療

矢継ぎ早に問われて不快になってしまったら申し訳ないのですが、この問いに「たしかに、こうなったら不安だろうな」「どうしたらいいか、わからないだろうな」と思った方も多いはずです。

「総合診療かかりつけ医」がこれからの日本の医療に必要だと私は考えます。

これこそが、今の、そして医療体制が変わらなければ10年後、20年後も変わらない日本の地域医療の光景です。

複数のクリニックに通院し、普段と違う不調が起きたときに「どこに行ったらいいか」「どうやってそこにたどり着けるか」困る人があふれる事態があるのです。

「いつでも、なんでも、だれでも、まず診る総合診療クリニック」が自宅の近くにあれば、こういう問題を減らすことができます。

今すぐ全国にそういうクリニックを増やす必要があると提言しているのは、このためです。
専門クリニックも大事ですが、それ以上に、人を診る、総合診療かかりつけ医のほうが大事なのです。


菊池 大和 きくち総合診療クリニック
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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