2025年01月11日

選挙の「当選確実」はなぜ開票直後に出せるの?出口調査による予測がほぼ間違えないワケ

選挙の「当選確実」はなぜ開票直後に出せるの?出口調査による予測がほぼ間違えないワケ
堀口智之:和から株式会社代表取締役
2025年01月10日 07時30分ダイヤモンドオンライン

洋菓子店を営む30代女性・マリさん。
1年前に独立したものの、数学が苦手だった彼女はいろいろな壁にぶち当たっていた。
そこで大人向けの数学塾を経営する堀口先生に教えを請い、救いの手を求めることに。
今回は、「当確が早いのはなぜ?」「出口調査って偏ってない?」など選挙に関する疑問を「確率」を使って徹底解説!意外と知らない選挙のあれこれを数学的に考えていく。
※本稿は、堀口智之『1杯目のビールが美味しい理由を数学的に証明してみました。』(幻冬舎)の一部を抜粋・編集したものです。

開票が始まってすぐに当選確実が出るのはなぜ?

堀口先生
 実は、選挙も確率が応用されています。
投票所が閉じた瞬間に当確が1秒でわかることってありますよね

マリさん
 たしかに。テレビを見ていても、開票が始まったばかりにも関わらず、「当選確実」といった報道が出ることがあって、不思議に思っていました。全然開票してないですよね?

堀口先生
 あれは、出口調査をやっているんですよね。
有権者が投票所を出た直後に、「誰に投票したのか?」を匿名で尋ねます。
このデータから、全体の投票傾向を予測していくのです。
適当な人数をピックアップして、そこから全体の傾向を推定していくわけです。

マリさん
 なるほど。まさに確率っぽいですね

堀口先生
 確率っぽいというより、まさに確率そのものです(笑)。
投票するか、しないかの2択ですから、二項分布としても考えることができます。
例えば、投票した人のうち100人にアンケートをとりました。
このとき、仮にAさんという方に、50人が投票したことがわかったとします。
このとき、日本人全体でどのくらいの人が投票したのかが一発でわかってしまうのです

マリさん
 えっ!たった100人で、ですか?
投票権を持っている大人の100万分の1くらいしかアンケートとっていないのに、わかるわけがないと思ってしまいます。

堀口先生
 そうですよね。でも、わかるのです。
もう少し正確に言えば、だいたいどのくらいの人がAさんを支持しているのかがわかります。
例えば、もう一度100人にアンケートをとるとどうなると思いますか?

マリさん
 それはやはり50人くらいがまた「Aさん」と答えそうです。
でも、先ほどが50人だったからといって、今度は30人かもしれないし、もっと少なくて10人くらいしかいないかもしれませんよ?

堀口先生
 おっ!鋭いですね。
このように、何度か投票した方にアンケートをとると、回答の比率がブレます。
しかし、そのブレ方に法則が出るのです。
実は、このとき、標準偏差が5人であると計算できます。
つまり、平均から±1σ(σ標準偏差)の範囲となる45人〜55人になる確率が約68%であることがわかり、±2σの範囲となる40人〜60人になる確率がなんと約95.4%となるわけです。

「起こらない」ではダメ?
確率を言葉にするのは難しい!

マリさん
 ということは……?

堀口先生
 そう、「39人以下になる確率」と「61人以上になる確率」が合わせてだいたい4.6%くらいしかありませんから、39人以下になる確率は2.3%となるわけです。

マリさん
 では、30人以下が支持する確率はずっと低いということですか?

堀口先生
 その通りです。もっと言えば、±3σの範囲で言えば、35人〜65人となる確率が99.73……%となりますので、Aさんに投票した人が34人以下となる確率は、0.14%以下です。つまり、ほぼありえないわけです。

マリさん
 ということは、さっき私が話した30人となる確率は?

堀口先生
 ほぼありえないです。
でも、“起こらない”という確定的なものではないので「起こらない確率が極めて高い以上、ほぼ起こらないということにしておきましょう」というニュアンスにしておいた方がよいですね。

マリさん
 うーん、確率を言葉にするのは難しいですね。「起こらない」ということじゃダメなんですか?

堀口先生
 実は、その言葉、大切な気づきを与えてくれるんです。
ある科学者がワクチンの危険性についてテレビでアナウンサーに聞かれたとき、こんな発言があったと記憶しています。
「このワクチン、危険性はない、と言い切れるんですか?」この質問に対してある科学者は、「危険性はないとは言い切れないです」と答えました。
このやりとりを聞いたら、どう思いますか?

マリさん
 とても危険なものなんだ、と感じます

堀口先生
 そうですよね。
でも、確率で考えれば、1%、0.1%、0.00001%。どれも小さいけれど、0ではありません。
何か物事には必ず危険はつきものです。
例えば、滑り台だってそうですよね。滑り台の一番高いところの柵の間から子供が落ちるかもしれません。

マリさん
 たしかに。そう考えたら危険です。

堀口先生
 でも、それをやめますか?

マリさん
 やめることはしないですね。
だって、子供の遊び場がなくなりますよ。
シーソーもジャングルジムもすべて撤去になりかねません。

「出口調査=国民の意見」とは限らない
データが偏ってしまう可能性は?

堀口先生
 そういうことですね。リスクとリターンを必ず天秤にかけているんです。

マリさん
 メリットとデメリットの天秤は、日常の中でもよくありますね。

堀口先生
 さて、脱線してしまいました。
元の話に戻りましょう。
つまり何が言いたいかといえば、確率を0にすることはできないので、ある程度の許容できる確率のラインを決めてしまうことが大切です。
選挙の当選確実かどうか、という情報は間違えてはいけない情報です。
ですので、より確率が高い段階で決めたいところですね。
0.14%程度の過ちは許容することを前提に考えるのであれば、100人中50人がAさんに投票したという出口調査の結果に対して、34人以下となることはほぼありえない。
つまり、「35%以上の票は確実に得られた!」として、その選挙の当確ラインが35%の得票率なら、その時点で報道すればよいわけですね

マリさん
 なるほど。でも、少しもやっとします。

堀口先生
 どこがでしょうか?

マリさん
 私の周りでは今の政権についてそれほど批判的にとらえている人はいない印象ですが、しかし、SNS上では批判的な意見が多いです。
つまり、出口調査の結果が実際の国民の意見とは限らないわけですよね?
データが偏ってしまったらどうするんですか?

堀口先生
 実は、データが偏らないように、出口調査は2000以上の投票所で実施されていたり、出口から出てきた人に連続で聞かないようにしたりなどのルールを元に運用されています。
例えば連続で聞いてしまうと、その2人が友人だったりするわけです。
そうなると、投票結果もだいたい似たようなものになる可能性はありますよね。

マリさん
 たしかに。偏りがないように調整してくれているのですね。
いやー、勉強になります。
選挙の中で確率がこんなにも活用されていたとは。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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