豊昇龍の「早すぎる」横綱昇進で露呈…わずか10分で終了した、横綱審議委員会の「無意味さ」
2/3(月) 現代ビジネス
大関・豊昇龍の横綱昇進が決定した。
今回の横綱昇進については、審判部の中でさえ見送りを支持する声が多数を占めたという報道も出ている。
その理由や背景に関して、前編記事『「格下相手に3敗」豊昇龍の横綱昇進は早すぎるのではないか…慎重に判断すべきだった「2つの理由」』で詳述しているが、横綱昇進の条件を満たしていても2023年1月には終盤戦に3敗目を喫したことを受けて貴景勝の昇進が見送られたケースもあり、必ずしも昇進させねばならないわけではない。
ここで私が疑問に感じているのは、横綱審議委員会のことである。
特に気になるのは今回の決定が全会一致だったということだ。
今回の議案は審判部の中でも意見が割れていた。
だが横綱審議委員会のメンバーは9人居るにもかかわらず全員が賛成というのは一体どういうことなのか。
ファンの間でさえ慎重論が少なからずあるのに、このメンバーの間では同じ見方が通ってしまっている。
そして、この会議はなんと10分程度で終了しているという点だ。
本当に「最後の砦」と言えるのか?
議論を尽くしたうえで、様々な視点から慎重派と昇進派が議論を行い、その結果全会一致ということであれば内容次第では理解できないことは無い。
ただ、ものの10分で会議が終了しているのだから、ほとんど意見交換されていないということだ。
私が最も驚いたのはこの点だった。
これほど議論を尽くさねばならない議題なのに、横綱審議委員会を形式的に開催し、そして終了させてしまったわけだ。
仮にどんなに成績が優秀でも、品格に優れていても、 横綱昇進が重い意味を持つ決定であることは先にも述べた通りだ。
だからこそその是非はどんなに小さな可能性であったとしても検討すべきことである。
横綱というのは孤独な地位なのだ。
年6場所制に移行してから歴代横綱は実にその半数が昇進後に何らかの不祥事を起こしているのである。
周囲の力士はおろか、師匠や後援者でさえ物申しにくい関係性になってしまう。
仮に意見したとしても横綱自身が自らを律していなければ衝突が起きかねない。
実力以外の部分、特に品格の部分については昇進時の精査が必要なことは確かなのだ。
昇進後に周囲と微妙な関係性になりうるという意味においても、相撲内容や成績面をチェックするという意味でも、横綱審議委員会が果たす役割は本来大きいのだ。
最後の砦としての組織なのだから、機能すればこの上なく頼りがいがあると言えるだろう。
しかし、今の彼らは果たしてどうだろうか?
10分で横綱昇進の議事を終える組織が最後の砦なのだろうか?
横審の存在意義とは
振り返ると最近の横綱審議委員会はその職責を果たしているとは言い難いと常々感じてきた部分があった。
それは、照ノ富士の現役続行に向けて否定的な姿勢を見せることは無かったことである。
照ノ富士は立派な横綱ではあったのだが、引退までの2年間は千秋楽まで出場したのは3場所のみだった。
その3場所は全て優勝しており、役力士が登場する終盤戦に強さを見せていたという側面はあるにしても、四分の一しか皆勤しない横綱に対して9人居る横綱審議委員が激励はおろか苦言すらなかったのは疑問だ。
照ノ富士を守るという意識が働いている部分はあったのかもしれないが、横綱審議委員は横綱という地位を守るという視点も必要だと思う。
何故なら横綱の推挙や激励などという形で保たれるのは横綱の強さだからだ。
膝を痛め、糖尿病を患いながら満身創痍で横綱の職責を果たす照ノ富士を目の当たりにしながら苦言を呈すのは難しいことだとは思う。
一人のファンとして言いづらいことだし、相撲ファンから批判を受けることもあるだろう。
私だってやりたいかと言われたらやりたくはない。
ただ、言いづらいことを言い、否定的な側面も考えながら決定を下すという、誰しもやりたくないことを遂行するのが横綱審議委員会なのだ。
そして横綱審議委員会そのものに疑問を抱いたのが、豊昇龍の横綱昇進に際してある委員が「モンゴル横綱は全員が全員、横綱の品格ではなかったでしょ?」と発言したことだ。
ヘイトスピーチとの指摘も
この発言はヘイトスピーチであると指摘する声もある。
品格に欠ける行為をモンゴル出身横綱が行ったことは確かにあった。
だが、豊昇龍の昇進に向けて人種を一括りにしてこのような発言をするのは、デリカシーに欠けると私は思う。
日米野球の観戦に訪れたことが原因で引退に追い込まれた横綱、拳銃を一時期所持して処分を受けた横綱、生活態度を咎められて失踪しそのまま廃業した横綱。品格に欠ける行為は日本人力士だって過去に行ってきたのだ。
組織として機能を果たしていないどころか、相撲の評判を落としかねない発言をする委員さえ居る横綱審議委員会。
現実的にはこのまま存続するとは思う。
ただ、私たちが横綱審議委員会を審議するという目線を持たねば形式的に存続する団体になることは間違いないだろう。
審議らしい審議を受けないまま横綱に昇進した豊昇龍は気の毒と言わざるを得ないが、ファンの不安を吹き飛ばすような今後の活躍に期待したい。
そして横綱審議委員会には品格を持ち合わせる組織であることを願いたい。
西尾 克洋(相撲ライター)