サナエショック!新総理、新政権がどうなろうと円安は進み国民生活は崩壊。いまこそ国債発行に歯止めを!
山田順 作家、ジャーナリスト
10/13(月) YAHOOニュース
いまの公約、政策では「日本列島を、強く豊かに。」の達成はあり得ない
■財源に国債を充てるのはもっとも安易な道
公明党の連立離脱(サナエショック)で、政局がどうなるかわからなくなり、市場も方向感を失っている。
自民党新総裁に高市早苗氏が就き、「高市トレード」「サナエノミクス」などという言葉が一人歩きしているが、連日の報道に踊らされてはいけない。
現状を冷静に見れば、「サナエショック」の行く末は予想がつく。
次の首相が誰になろうと、新政権がどうなろうと、わかっているのは、国債発行による財政拡大は続くということだろう。
立憲民主だけが「緊縮財政」を匂わせているが、ほかはすべて「積極財政」で、財源をほぼ考えない「物価対策」という給付金支給、減税をやろうとしているからだ。
となると、国債発行は際限なく続いていく。
つまり、円安は止まらず、物価は上昇を続け、スタグフレーションが進んでいく。
保守(右)だろうと、リベラル(左)だろうと、こと経済政策に関しては、目先しか考えず、もっとも安易な道を選んでいる。それが、最終的に国民生活を破壊してしまうことをわかっていない。
■「税は財源ではない、財源は国債」は“ブードゥ教”
まず、高市支持者および野党支持者のなかに、経済の“ブードゥ教”信者がいることを指摘しておきたい。
つまり、トンデモ理論の信者で、たとえば「サナエノミクス」の危険性を指摘するコラム、記事を書くと、次のような理屈を振りかざして攻撃、非難してくるのだから心底悲しくなる。
「MMT(現代貨幣理論)によれば、財政赤字自体は問題ではない」
「自国通貨建てだからデフォルトしない」
「税は財源ではない、財源は国債」
「国債は国の借金だが国民の資産(政府の赤字は民間の黒字)」
「国家財政を家計と同じと考えるのは間違い」
このような考え、理屈は、すべて、現実無視の夢想としか言いようがない。
また、高名な経済評論家が唱えた「ザイム真理教」などというものも、言わばコミックである。
政府と財務省は1度たりとも緊縮財政などせず、ずっと赤字国債でまかなう放漫財政を続けてきている。
よって、財務省解体デモなどというのは、カルト集団のデモと同じだ。
■まともな経済政策なら金利の引き上げが必要
物価対策は、言い換えればインフレ対策である。
インフレ対策というのは、インフレの抑制であり、まともな経済政策では、中央銀行が政策金利を引き上げることが基本となる。
つまり、「物価の番人」中央銀行が、まずこれをやらねばならない。
ところが、日銀は金利を引き上げられない。
アベノミクスという愚かな政策で、異次元の金融緩和を行い、その間、国債の大量発行による積極財政(=放漫財政)を行なってきたからだ。
■金利0.5%物価上昇率3.0%では現金は目減りする
こうして積み上げた国債残高はあまりに巨額(2024年12月末時点で約1173.5兆円、GDP比約237%)で、金利を上げたら利払い費がかさみ、財政が逼迫し、最終的には予算が組めなくなって、政府が立ちいかなくなる。
したがって、日銀は現在の政策金利(無担保コール翌日物の誘導目標)を0.5%に留めている。
その結果、今日まで、円の価値は毀損され、円安が進んできた。
金利が0.5%で物価上昇率が約3.0%という状況では、どんな対策を打とうとほとんど効果はない。
いくら現金を給付しようと、減税しようと、物価上昇を上回る賃金上昇がないうえ、金利がほぼつかないのだから、現金はどんどん目減りする。
■国債発行は限界で、格付け「B」転落もあり得る
物価対策の財源論で、国民民主、れいわ、参政などが、「足りない財源は国債発行でまかなう」と言っているのは、正気の沙汰ではない。
高市自民新総裁も赤字国債の発行を容認し、総裁選挙中に「金利を上げるのはアホや」と言ったが、これで「高市トレード」が進んだのだから、現状認識が甘すぎる。
日銀が金利を上げられない状況を見れば、国債発行はもう限界なのは明らかである。
それなのに、さらに国債発行に頼る経済政策を続ければ、日本国債の格付けは引き下げられる。
現在、日本国債はかろうじて「A」格(S&P「A+」、ムーディーズ「A1」、JCR「AAA」)を維持している。
しかし、このままでは、「B」格転落もあり得るだろう。
そして、市場は、それを見越して動き出す。いや、もう動き出している。国債の売りだ。
■国債利回りはすでにじわじわと上昇を続けている
今年の4月、30年物の長期国債、40年物の超長期債に猛烈な売り圧力がかかり、価格がみるみる下落(利回り上昇)するということが起こった。
国債の信認が薄れ、買い手がいなくなった。
これに慌てた財務省は、最終的に長期国債の発行を減額することになった。
その後も国債売りは止まらない。
長期金利の指標とされる10年物の利回りもじわじわと上がった。
そして、10月10日、公明党の連立離脱でサナエショックが起こると、新発10年物国債の利回りが一時、前日終値比0.010%高い1.700%まで上昇した。
これは、約17年ぶりという高水準である。
■勝ち組は富裕層、負け組は中間層、年金生活者
高市トレードによって、これまで株価は上げに上げてきた。
しかし、これは株価が上がっているのではなく、増えすぎたマネーが株価などの金融資産に向かい、通貨が下落しているのだ。
通貨の下落の恩恵を受けるのは、金融資産に投資している人々、ほぼ富裕層だけである。
富裕層は株が高騰し、不動産価格も高騰したため、旺盛な消費を続けている。
だから、消費支出は8月の家計調査では、1世帯当たりの消費支出が物価変動の影響を除いた実質で前年同月比2.3%増加し、4カ月連続のプラスになった。
しかし、一般層は、切り詰めた生活を強いられている。
インフレの負け組は、中間層、年金生活者である。
中間層のほとんどを占める給与所得者でまったく投資をしていない層は、完全な負け組だ。
■空売りヘッジファンドが狙う日本国債の暴落
日本の財政悪化を絶好のチャンスとして、ヘッジファンドは日本国債の空売りを仕掛けている。
過去に何度もこれを行ってきたが、これまではほとんど失敗してきた。
しかし、今後はわからない。
私が『資産フライト』(文春新書)を書いた15年ほど前、取材したヘッジファンドは、いまもしつこく日本国債の空売りを仕掛けようとしている。いわゆる「ウィドウメーカートレード」である。
日本国債空売りヘッジファンドの筆頭は、ヘイマン・キャピタル・マネジメントである。
運営者のカイル・バス氏は、「日本は財政破綻に向かっている。このままでは、いずれ日本国債は暴落する」という主張を繰り返し述べている。
■日銀の利上げと国債発行の減額・停止は必至
量的金融緩和のような異次元の政策でもたらされたインフレ景気は、いずれ崩壊する。
この崩壊を防ぐ手立ては、日本にはほぼ残されていない。
日銀は禁じ手のETF買いをやめ、ようやく売却に転じたが、完全売却にはなんと100年かかる計算だ。
市場が100年も待ってくれるわけがない。
現在、中央銀行の緩和で溢れた貨幣の価値の下落局面に入っている。
問題は、その下落幅がどれだけ大きいかということだ。
次の日銀の金融政策決定会合は10月29・30日である。
トランプ大統領の来日(予定では27・28日)の直後である。
ここで、日銀は少しでも利上げをするべきだろう。
そして、政治家は、財源論になったとき「足りなければ国債発行で」などという愚かな発言をやめ、今後は、国債残高を少しでも減らし、国債発行に頼らない政策を打ち出すべきだ。
そうしないと、円安の底が抜け、インフレはハイパーインフレとなって、国民生活を崩壊させる。

