2025年10月16日

愛子さまに残酷な二択を迫ってもいいのか…「三笠宮家新当主に彬子さま」認めた政府が真っ先にすべきこと

愛子さまに残酷な二択を迫ってもいいのか…「三笠宮家新当主に彬子さま」認めた政府が真っ先にすべきこと
10/15(水) プレジデントオンライン

三笠宮妃百合子さまが2024年11月に逝去されてから不在だった三笠宮家当主を、孫の彬子さまが継ぐことになった。
神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「未婚の女性皇族が宮家の当主になられたことは異例。
これに同意した首相や衆参正副議長は、懸案のまま“たなざらし”になっている、『未婚の内親王・女王がご結婚後も皇籍を保持できる制度改正』に向けた責任がより重くなったと言えるのではないか」という――。

■三笠宮家の当主に彬子さま

 三笠宮家の「当主」に、故・寛仁(ともひと)親王のご長女、彬子(あきこ)女王殿下がつかれることが、9月30日の「皇室経済会議」で決まった。
併せて、寛仁親王妃の信子殿下が別に「三笠宮寛仁親王妃家」を新設されることも、同じ会議で決定された。

 これらはさまざまな点で異例の出来事だった。そのために人びとの関心をより一層集めた。

 まず、未婚の女性皇族が宮家の当主になられたこと。

 これまで、宮家の当主が亡くなられた後に、妃殿下が当主になられるケースが、普通だった。

 秩父宮が亡くなられた後に勢津子妃が当主になられたり、高松宮が亡くなられた後に喜久子妃が当主になられたり、高円宮が亡くなられた後に久子妃殿下が当主になられたりしてきた。

 以上の例からすれば、平成24年(2012年)に寛仁親王が亡くなられた後は、信子妃殿下が「寛仁親王家」の次の当主になられるのが、一般的なあり方だったはずだ。
しかし、信子妃殿下の場合は長年にわたり家庭内の不和を抱え、宮邸を出て宮内庁分庁舎に移っておられる(ただし今は改修工事のため、しばらく高輪皇族邸にお住まい)。
結局、妃殿下は当主になられずに、同家自体が三笠宮家に吸収される形になった。

 なお寛仁親王はご長男ながら、父親の崇仁親王より早く亡くなられた。
だから生前、「三笠宮」の宮号を継承されていない。

■「未婚の女性皇族」が当主という異例

 三笠宮家は、当主だった崇仁親王が亡くなられた後は、前例どおり百合子妃が当主になられた。
その百合子妃も昨年11月に亡くなられ、その後は当主が不在の状態だった。

 このたび、ご長女の彬子殿下が“未婚の女性皇族”として、宮家の当主になられた。
これは、江戸時代に仁孝天皇の皇女・淑子(すみこ)内親王が1863年、長く当主不在だった「桂宮家」の当主になられて以来、162年ぶりの出来事だ(桂宮家は淑子内親王の代までで廃絶)。

 独身皇族による宮家自体が珍しい。
寛仁親王のすぐ下の弟の宜仁(よしひと)親王が昭和63年(1988年)に、ご独身のまま「桂宮家」(同じ名前でも先の桂宮家とは別)を立てられて以来になる。

 しかも、母親の信子妃殿下がご健在なのに、当主になられた。まさに異例の展開と言える。

 信子妃殿下が三笠宮家の当主になられずに、三笠宮寛仁親王妃家という別の宮家を立てられたことは、それ以外にご家族が一致できる出口がなかったためだろう。
とはいえ、「分家というより分裂に近い」などという声を聴くのは残念だ。

 彬子殿下はこのところ、おもに京都を生活の拠点にしておられるようだ。新しく当主になられて、今後はどうされるだろうか。

■宮家当主の選定は当事者の意思による

 なお、皇室経済会議は「皇室経済法」に根拠を持ち、衆参正副議長、首相、財務大臣、宮内庁長官、会計検査院長の8名によって構成される(第8条)。

 ただし誤解してはならないのは、宮家の当主をこの会議が指名して決めるのではない。

 条文には「皇室経済会議の“議を経る”ことを要する」と書いてある(第6条第2・3項)。
これは「議により」という、会議側に“発議権”がある規定とは区別される。

 あらかじめ定まっている事項があって、それに会議が同意することで、最終的に決定されることを意味する(法制局「皇室典範案に関する想定問答」)。
だから前提となるのは、あくまでも当事者の意思ということになる。

 今回「分裂」とも言われるような事態におちいったのは、関係者の意思がどうしても1つの宮家を維持する結論にまとまらなかった、という事情を示している。

■皇籍離脱ルールによる危機

 そうした家族間のご事情とは別に、ここで注目したいことがある。
それは、未婚の女性皇族が宮家の当主になることが、「皇室経済会議」という重みのある機関によって、公的にオーソライズされた事実だ。
このことが与える波及効果は小さくないはずだ。

 よく知られているように、今の皇室典範では、内親王・女王はご結婚とともに皇族の身分を離れられるルール(第12条)になっている。
このルールがそのまま維持されると、未婚の女性皇族方は皆さま、ご結婚の慶事が重なるたびに皇室を離れられることになる。

 もちろん、天皇皇后両陛下のお子さまの敬宮(としのみや)(愛子内親王)殿下も例外ではない。

 そうすると、やがて今の皇族方のうち、秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下お1人だけが皇室に残ることになりかねない。
皇室はまさに「危機」に直面している。

 そこで国会では、このルールの見直しが協議されている。
じつは、6月に閉じた先の通常国会の期間中に、ひとまず決着がつくはずだった。

■「ちゃぶ台返し」で議論は白紙に

 衆院正副議長も同席の上で、与党側の麻生太郎・自民党副総裁(同党「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」会長)と野党側の野田佳彦・立憲民主党代表が「立法府の総意」の取りまとめを目指して、協議を重ねてきた(いわゆる4者協議)。
その結果、さしあたり内親王・女王がご結婚後も皇室に残ることが可能なルールに変更することを優先して、通常国会中に成案を得るという線で、両者の合意がひとまず成立していたのだ(5月27日)。

 政府が提案している、いわゆる旧宮家系子孫の国民男子を皇族との「養子縁組」という法律上の手続きだけで皇族にするという、問題が山積みのもう1つのプランは切り離して、後回しにするはずだった。

 ところが、政府サイドの山崎重孝・内閣官房参与が介入して、麻生氏側が合意内容を勝手に変更した。後日に別途検討する約束だった、旧宮家養子縁組プランと抱き合わせにしようと企てたのだ(5月30日)。

 この信義違反に対して、野田氏が「ちゃぶ台返しだ」と憤激した(6月6日)。
これによって、せっかく積み重ねた議論がほとんど白紙にもどってしまった。

■自民党総裁選で問題解決は遠のいた

 その後、自民党の「解党的出直し」を名目に掲げた総裁選挙が行われ、5人の候補者の中でもとりわけ「男系男子」へのこだわりが強い高市早苗・新総裁が登場したことは、誰もが知っているとおりだ。
その立役者として、自民党の男系限定派の総帥とも見られている麻生氏の政治的影響力も、格段に増す結果となった。
高市氏は皇室典範をめぐる議論について、麻生氏に任せることを公言している。

 だが周知のとおり、このたび新しい宮家を立てられた信子妃殿下は、麻生氏の妹にあたる。
当事者の近親者である同氏が、皇室制度の改正に最前線で関与することに対して、公平公正さの担保という点で、首をかしげる人も多い。

 いずれにしても、今回の自民党総裁選の結果、皇位継承問題の解決が遠ざかった印象がある。

■ルール見直しへの重い責任

 しかし、未婚の彬子殿下が三笠宮家の当主になられることに、衆参正副議長や首相もメンバーになっている皇室経済会議が同意した意味は重いはずだ。

 と言うのは、未婚の女性皇族がご結婚とともに皇籍を離脱する現在のルールをそのまま放置すれば、彬子殿下がたとえ宮家の当主であられても、皇籍を離脱される可能性は残り続けるからだ。
あるいは逆に、宮家の当主ゆえにご結婚の断念を迫られる局面もありえるのではないか。
どちらも望ましいことではあるまい。

 もちろん、三笠宮家には妹の瑶子女王殿下もおられる。
なので、彬子殿下が結婚された場合は、瑶子殿下が三笠宮家の当主を引き継がれるかもしれない。
しかし、瑶子殿下が先に結婚される場合も、当然ありえる。

 また、当主は宮家の祭祀を継承される重いお立場だ。
その方が、いつ交代を余儀なくされるか分からない状態に置かれることも、いかがだろうか。

 彬子殿下を三笠宮家の当主とすることに同意した首相(=政府)や衆参正副議長(=国会)は、先のちゃぶ台返しによって懸案のまま“たなざらし”になっている、「未婚の内親王・女王がご結婚後も皇籍を保持できる制度改正」について、その実現に向けた責任がより重くなった、と言えるのではないだろうか。

■「女性宮家」とは異なる

 彬子殿下が三笠宮家の当主になられたことで、すでに「女性宮家」が実現したのではないか、という声も耳にする。
しかし、単に女性皇族が当主の宮家というだけでは、少なくともこれまで政治の場で議論されてきた女性宮家には当たらない。

 先にも紹介したように、宮家の当主が亡くなられた後に、妃殿下が当主になられた例はいくつもある。しかし、それが女性宮家と呼ばれることはなかった。

 しかも、未婚の女性皇族がご結婚によって皇籍を失われるルールが維持されている限り、未婚の女性当主のお立場は妃殿下が当主になられるケースよりも、不安定だ。

 これまで、皇位継承の安定化を求める文脈で課題とされてきた女性宮家は、そのようなものではない。

 今のルールが変更になり、未婚の内親王・女王がご結婚後も皇族の身分を保持され、独立した宮家の当主になられた場合、それこそが「女性宮家」と呼ぶにふさわしい。

 ただし、女性宮家という言い方は、あくまで過渡的なものにすぎない。
皇室典範が改正され、女性宮家がスタンダードな存在になれば、もはや男性皇族を当主とする一般の宮家とあえて区別する必要もない。
普通に「宮家」とだけ呼べばよいはずだ。

 なお、直系の皇女であられる敬宮殿下の場合は、ご結婚後も独立した宮家を立てるのではなく、内廷にそのままとどまられることも、当然、予想されるだろう。

■皇族費のアンバランス

 内廷外の皇族方の品位保持のために支出される皇族費の年額について、同じ宮家の当主であっても「親王妃」の信子殿下の場合(3050万円)と「女王」の彬子殿下の場合(1067万5000円)では、その金額に大きな違いがある。
この事実に少し驚いた人がいるかもしれない。

 これはなぜか。皇室経済法の規定で、同じ宮家の当主でも、親王・王に対して、親王妃・王妃が当主になった場合は同額なのに、内親王・女王の場合は「2分の1」とされているからだ(さらに女王は内親王の「10分の7」)。

 内親王・女王が当主の場合だけ「2分の1」というのは、奇妙な金額設定だ。妃殿下なら同額なので、単純な女性差別とも違う。

 その理由は、この法律が施行された当時(昭和22年)、内親王方はご成年前後には早々と結婚して、皇籍を離脱されるのが一般的だったためだ(昭和58年[1983年]に結婚された三笠宮の第2王女・容子(まさこ)内親王はご成年後も例外的にしばらく皇室に残られた)。
だから、未婚の女性皇族を当主とする宮家にリアリティがなかった。

 しかし、同法の制定からすでに80年近くが経過した。
状況は大きく変わっている。
成年の内親王・女王方が男性皇族と変わりなく、ご公務に取り組んでおられる。

 にもかかわらず、時代遅れな規定が見直されないで、そのまま維持されている。
立法に責任を負うべき政治家が、いかに皇室に無関心であり続けているかを示す、明らかな事実の1つだ。

 この点はすみやかに是正する必要がある。

■「夫と子」は皇族であるべき

 内親王・女王がご結婚後も皇族の身分を保持し続けることが制度上可能になり、当事者の方々がそれを受け入れて下されば、さしあたり目先の皇族数の確保に貢献できる。
しかし、配偶者やお子さまの身分はどうなるか。

 政府の提案では「国民」という位置づけだ。自民党などもそれに賛成している。

 しかし、当たり前ながら「家族は同じ身分」というのが、近代以来の大原則だ。
皇族と国民が1つの家庭を営むという近代以降“前代未聞”の制度は、いかにも無理だろう。

 リアルに考えて、そんな制度では皇室に求められる政治的な中立性や尊厳が損なわれる。
その一方で、配偶者やお子さまは皇族でないのに自由や権利を制約されざるをえない。
国家的な見地からも、当事者に寄り添った視点からも、とても支持できない。

 未婚の女性皇族がご結婚後も皇族の身分を保持されるのであれば、ご家族である配偶者やお子さまも皇族とするのが自然だろう。

■愛子さまのお気持ちは

 注目すべきなのは、西村泰彦・宮内庁長官がこれまで繰り返し、未婚の女性皇族がご結婚後も皇籍を保持される案が停滞している状況に、警鐘を鳴らし続けている事実だ。

 たとえば5月22日の記者会見で次のように強調していた(朝日新聞、5月22日、17時09分配信)。
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「皇族数の減少は大変大きな課題であり、それを踏まえて議論はしっかりと進めていただきたい」
「安定的な皇統を後世につなげていくという意味でも大変重要」
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 宮内庁長官がこのようなテーマについて、天皇陛下のご意向を踏まえないで発言できるはずがない。
その天皇陛下のご意向も、当事者でいらっしゃる敬宮殿下ご本人のお気持ちを無視したものであるはずがない。

 そのように考えると、もし政治の場でルールの変更がなされれば、敬宮殿下はご結婚後も皇室にとどまっていただける可能性が高いのではあるまいか。

 これまでの敬宮殿下ご自身のご発言を丁寧に受け止めると、そのようなご真意をにじませている場合が、いくつかあるように拝察できる。
何よりも、多くの国民に共感を広げている、ご公務に誠心誠意で取り組まれるお姿そのものが、ご自身のご覚悟を示しているのではないだろうか。

 今のルールのまままだと、敬宮殿下をはじめとする未婚の女性皇族方は、ご結婚を選んで皇族として国民に寄り添うことを断念するか、それともご結婚を断念して国民に寄り添い続けるか、という残酷な二者択一を迫られる。

 政府・国会がこれ以上、皇室の危機を直視せず、民意に背を向けて、無責任に問題の解決を先延ばしすることがあってはならない。
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高森 明勅(たかもり・あきのり)
神道学者、皇室研究者
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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